宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『架空通貨』(原題『M1』)池井戸潤(1963生)、2000年、講談社文庫

2011-10-03 22:39:41 | Weblog
 第1章 
 黒沢金属工業が1回目の不渡りを出す。大田区羽田の中小企業。2回目の不渡りを出すと銀行取引停止。
 黒沢金属工業は取引先の田神亜鉛株式会社の社債を7000万円引き受けていた。期前償還を田神亜鉛がOKすれば黒沢金属工業は2回目の不渡りを出さずにすみ倒産しない。
 田神亜鉛は未公開企業なので、その社債を、黒沢金属工業は市場で売ることができない。

 第2章
  1
 田神町は田神亜鉛株式会社の企業城下町。
 田神亜鉛が20億円の私募債(期限5年)を発行し資金調達。
 社債を引き受けさせられた田神亜鉛協力会企業が田神亜鉛に泣きつき、「田神亜鉛協力振興券」(田神札)が渡される。
 田神札は5年後、社債の償還期日後、田神亜鉛が現金に換える。
  1-2
 田神札は田神亜鉛がつぶれれば、ただの紙切れ。協力会企業は下請けへの支払いに田神札を使う。下請け会社がすでに多くつぶれ始める。
 田神札は力関係で弱い個人商店が多くつかまされる。
 田神札は西郷札に似る。
  2
 田神町の年間販売額700億円。うち田神亜鉛の400億円を除くと300億円。利益率を3%とすると9億円。20億円の私募債の半分10億円が田神札として流通していれば、それだけで町全体の企業の年間利益が吹き飛ぶ。
  3
 須藤不動産が破損した田神札を新券と取り替えるなど中央銀行の役割をする。
  4
 田神亜鉛は粉飾決算をしている。例えば売掛金が増えているのに在庫の数字が変わらないなど。主力銀行の東京シティ銀行は融資を減らしている。

 第3章
  1
 須藤不動産は、①田神札を融資。金利は円で受け取る。利子はツキサン。月3%=年36%。②100万円の田神札を担保に30万円の日本銀行券融資もおこなう。③田神札の運用も引き受ける。
  2
 田神亜鉛社長、安房正純個人が田神札を発行。
 田神札がいくら発行されているか分からない。下請け企業150社に田神札50億円流通。
  3
 田神町の経済の破綻を少しでも小さくするため、田神亜鉛倉庫に隠されていた田神札の印刷機をハンマーで壊した者がいる。
  
 第4章
 1
 田神亜鉛はボリビアのリティオ・イクスプローダ社からリチウムを買い(年24億円)、それをアトラス交易に転売し差益を得る。アトラス交易はリティオ・イクスプローダ社を買収。アトラス交易は暴力団の関東共栄会が所有。
 リティオ・イクスプローダ社は実は、リチウム鉱山の廃坑を持つのみで休眠会社。
 厚生省麻薬取締官事務所が内偵中。
  2
 マネーロンダリングが行われている。①関東共栄会の麻薬売買の不正資金をリティオ・イクスプローダ社、東京支店に運ぶ。②社内で送金され、リティオ・イクスプローダ社のボリビア本社がリチウムを買い付け。③田神亜鉛がリチウムを買う。リティオ・イクスプローダ社にきれいな資金が入る。④田神亜鉛はリチウムをアトラス交易に転売し利益を得るが、これは、関東共栄会にとってはマネロンの必要経費。⑤アトラス交易は配当の形でリティオ・イクスプローダ社から資金を回収。
  3
 関東共栄会がタイ、ミャンマー、ラオスで麻薬買い付け。グラム100円。末端価格はグラム2万円。1億円買い付ければ、末端価格で200億円になる。
  
 第5章
  1
 田神亜鉛社長、安房正純が6億円の債務を肩代わりし、黒沢金属工業を買収。
 安房正純は、田神亜鉛を計画倒産させ、50億円を黒沢金属工業に送金する。
 その50億円を証券会社に出金し、安房正純は株を購入するつもりだった。
  2
 東京シティ銀行が、田神亜鉛の計画倒産を知り、安房正純の50億円を押さえ、証券会社に出金せず。田神亜鉛の債権の回収が目的。
  3
 田神町の安房王国崩壊。50億円流通していた田神札は紙切れとなる。田神札を受け取らされた下請け会社の労働者の暴動。協力会企業、田神亜鉛本社、須藤不動産を襲う。
  4
 情報のリークで関東共栄会の幹部、逮捕される。アトラス交易が倒産。マネーロンダリングのシステム崩壊。
  5
 ①安房正純破産。田神亜鉛の連帯保証債務を負い、個人資産が競売される。
 ②田神亜鉛の倒産で協力会企業50社のうち40社倒産。
 ③協力会企業の下請け150社のうち半数が倒産。

《評者の感想》
(1)架空通貨の田神札は詐欺である。印刷さえすれば何億円分でも商品が購入できる。
(2)マネーロンダリングの仕組みが分かる。
(3)企業城下町の意味がわかる。田神亜鉛、協力会企業50社、下請け企業150社、様々の個人商店の権力関係。
(4)麻薬ビジネスのぼろもうけ。
(5)須藤不動産の田神札ビジネスが、裏金融の仕組みを垣間見せる。
(6)金融用語の勉強ができる:不渡り、社債の期前償還、未公開企業、西郷札、利益率、粉飾決算。
(7)計画倒産:会社をつぶしても、個人が財産を手放さなければ会社はまた作れる。
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