宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『ミッキーマウスの憂鬱』松岡圭祐(1968生)、2005年、新潮文庫

2012-04-24 23:52:26 | Weblog
   プロローグ
1 最終テスト
 ディズニーランドの準社員の採用試験。受験者に、ジャングルクルーズの船長役をやらせ、派遣の準社員採用の可否 を決める。
 審査員は早瀬実(ミノル)。30歳過ぎ。高卒準社員採用。7年たってようやくスーパーバイザーの肩書きで美装部美装2課長となる。
 錦野文昭も審査員。運営2課長、大卒、正社員。準社員と異なりスピード出世。やがてスーツで本社勤務となるはず。
 受験者の後藤大輔、21歳・高卒。ディズニーランドに憧れ、派遣で準社員の採用試験を受ける。

2 面接:本社棟での面接。後藤は派遣の準社員として採用される。スーパーバイザーの早瀬が、後藤の上司。

   第1日
1 初出勤:後藤大輔の初出勤。髪はディズニールック。美装部員。先輩に同じく準社員の桜木由美子(運営部運営課)がいる。

2 秘密の道:美装部はゲストがいるオンステージには出られない。バックステージの秘密の道を通り、後藤はパレードの出発点、ディスパッチ1に向かう。

3 フロート:パレードの山車がフロート。パレードの監督は、正社員が担当。
 準社員の美装部員は、パレードのぬいぐるみの着付けをする。ただしミッキーマウス、ミニーなど主要なキャラの着付けは、正社員とステップ3の準社員が行う。
 ミッキーマウスに入る男はVIP待遇。パレードのミッキー役は久川庸一。
 ぬいぐるみを着ないメインキャストクルー、白雪姫、シンデレラなどもVIP待遇。

4 現実:メインキャラクターの着付けはパレードビル内で行う。
 準社員の美装部は路上でマイナーキャラクターに着ぐるみを着せる。後藤は美装部のステップ1の準社員。トレーナーの尾野が、美装部の後藤の先輩。

5 Qライン:正社員の笹塚昭雄、22歳は、美装部で研修中。
 シンデレラ城のミステリーツアーのQライン(客の列)が長くなったので列の整理が必要との連絡が入る。後藤が手助けに行く。

6 サイクリング:キャスト専用の自転車でバックステージを後藤が移動。
 トレーナーの準社員、尾野は美装部一筋7年。
 本社採用、正社員の笹塚は数年すれば背広組。
 美装部の準社員、藤木絵里はダンサー志望だが何度もオーディションに落ちる。また何度か着ぐるみの頭部を落とし破損させる。

7 サクラ:シンデレラ城ミステリーツアーでは、後藤がゲストの役となり、サクラとして勇者にする男の子を捜し、ガイド役のキャストにサインで知らせる。

8 キャラクター人形:“クラブ33”は約500人のエグゼクティブ用の建物。
 臨時の重役会議の準備を美装部の後藤たちが行う。運営2課長錦野、美装2課長早瀬がキャラクター人形をテーブル上に、どう置くか議論。

9 ショー用ミッキー:パレードクルーのミッキー役は久川庸一。京大法学部出身。
 “クラブ33”の臨時会議で、事件の発生が報告される。ショー用ミッキー1体が紛失。美装2課準社員、藤木絵里が輸送用トラックに載せたというが、見つからない。
 ショー用ミッキーが見つかるまで、パレード用ミッキー、そしてそれを着る久川庸一がショーに出演。またショーベースのクルーを、パレード用クルーが兼ねる。
 ショーベースのミッキーマウス役、門倉浩次は不愉快。

10 番号札:正社員の笹塚に「がんばれ!」と“クラブ33”の会議に出席していた重役が励ます。
 トラックの着ぐるみは青い袋に入れられ、番号札を着けて輸送される。

11 シフト:後藤が、ショウベースの楽屋(ミッキー用)の掃除のシフトに当たる。

   第2日
1 後悔:後藤が、ミッキーの楽屋の掃除をする。美装2課長、早瀬が監督。
 パレード・ミッキー役の久川庸一がショーの出演のため、楽屋に来る。
 彼に対し他のクルーが「座長気取りだな。ショーに出て大物風だ!」と陰口。ディズニーランドは夢の世界でないと、後藤が後悔する。

2 除け者:昨日までのショーのミッキー役、門倉浩次は、パレードのミッキー役、久川庸一を挑発する。
 準社員の後藤は舞台袖には行けず除け者。

3 アクシデント、4 ダンサー:美装部準社員の藤木恵理が自殺未遂をはかり、ビッグサンダーマウンテンの軌道上にうずくまるアクシデントが起きる。
 準社員は、アトラクション稼動の場所に立ち入れないが、後藤は恵理を救出に行く。
 調査部の沼丘重松が、後藤を追い払う。

5 未成年:ショー用ミッキーの着ぐるみ紛失事件は警察に通報しない。ミッキーは実在することになっており、着ぐるみは外部に決して公開しないのがディズニー本社との契約であるため。
 美装部準社員の藤木恵理は19歳、未成年。正社員たちが尋問のため恵理を連行する。

6 楽屋:ミッキーのショーの終了後、美装部準社員の後藤が楽屋の掃除をする。
 その時、ミッキー役の久川庸一が「公正な調査をするよう調査部に申し入れておく」と後藤に言う。

7 チップとデール:空模様が怪しいのでゲストをつなぎとめる必要。急遽、ディナーショー用のチップとデールをグリーテイング用に使う。壊れるといけないので美装部の準社員、尾野が接着剤とハサミを持って待機。

8 恨み:ビッグサンダーマウンテンの運転を止めた美装部準社員の藤木恵理に、法務部の正社員、柿崎が、損害賠償の金額を示し圧力をかける。
 また調査部の正社員、沼丘が、「ダンサーに合格させない会社への恨みから、ショー用ミッキーの着ぐるみを隠したのだ」と、恵理を問い詰める。
 恵理は、ショー用ミッキーの着ぐるみを「隠していない」と主張。

9 コンピューター管理:美装部で研修中の正社員、笹塚が、コンピューターを操作し、ショー用ミッキーの着ぐるみの行き先を探す。
 トラックに載せられたミッキーの着ぐるみは、青い袋に入れられ、番号札を付けて輸送される。番号札は、コンピューター管理され、デリバリーセンターが、番号ごと指示に従い、着ぐるみを配送する。
 今回は、デリバリーセンターが番号を読み間違え、ショー用ミッキーの着ぐるみを、デイズニーシーに配送したと分かる。
 美装部準社員の後藤と、運営部準社員の桜木由美子が、デイズニーシーに、ミッキーの着ぐるみを探しに行く。

10 本社:オリエンタルワールド本社棟では、臨時の役員会議。アメリカのディズニー本社からミッキー着ぐるみ紛失事件の問い合わせ。
 ディズニー本社は、東京ディズニーランドの経営権を欲しがっている。今回のミッキー着ぐるみ紛失事件を理由に、オリエンタルワールドとの契約取り消しの可能性。
 調査部の沼丘が、「ミッキーの着ぐるみを見つける」と言っているので、役員たちはその結果待ち。

11 シー:準社員の後藤と由美子が、デリバリセンター責任者の長岡と会う。長岡は誤配を認める。着ぐるみのコンピューター管理は複雑すぎ、誤配の可能性がいつもあると言う。
 後藤と由美子は、地下倉庫に置かれたペイント入りコンテナの山の上に、青い袋を発見。そこにショー用ミッキーの着ぐるみが入っている。
 ところが突然の大雨で、地下倉庫のコンテナ置き場が浸水。ミッキーの着ぐるみが入った青い袋を救出しなければならない。
 水は急速に増えている。すぐにコンテナまで泳ぎ、着ぐるみを回収する必要。

12 クラブ33の混乱:美装部準社員の藤木恵理を尋問していた調査部の沼丘は、ミッキーの着ぐるみの発見と、デリバリセンターの配送ミスを電話で知らされ、混乱。
 また、沼丘は、「準社員の後藤と由美子によるミッキーの着ぐるみ回収を許可しない」、「正社員がシーに出向くまで待て」と指示する。
 本社の役員に、沼丘は「美装部の準社員が配送先を確認しなかったため誤配された」、「調査部がミッキーの着ぐるみを発見した」と、うその報告。
 しかし今や、ミッキーの着ぐるみは豪雨で、水没寸前。
 ショーのミッキー役、門倉が「準社員に回収させればいいじゃないですか」と言う。
 パレードのミッキー役、久川もそう思う。
 「規則を破って、勝手にシーに立ち入ったランドの準社員に、回収させるわけに行かない」と調査部の沼丘。法務部の柿崎も同意見。
  
13 ミッキーの救出:電話で、調査部の沼丘が「対策は協議中だ。準社員に回収させない」と後藤に言う。
 後藤が、「あと数分で水没しちゃう。あんたたちのためでなく、ディズニーランドのためにミッキーの着ぐるみをすぐに自分たちで回収する!」と反論。
 久川が電話で「本社が承諾した」と後藤にOKを出す。(これは実は久川の独断。)

14 二人のミッキー:パレードのミッキー役、久川が、京大法学部出身の立場から、「会社の責任、権利の濫用」を指摘。「美装部準社員の藤木恵理に、損害賠償など請求できない」と、法務部柿崎と調査部沼丘に言う。
 久川が「ミッキーを救出に行く」と宣言。ショーのミッキー役、門倉が「俺も一緒に行こう」と言う。久川は「藤木恵理のそばにいてやってくれ」と門倉に頼む。
 「どちらがショーのミッキー役になるかは、実力で勝負する」と久川。

15 リアル・クルーズ:後藤はボートを漕ぎ、青い袋に入ったミッキーの着ぐるみを、ぬらすことなく回収し、ボートに載せる。

16 椅子とりゲーム:昇進を考える調査部沼丘は、ミッキーの着ぐるみ回収を、自分の手柄のように、役員会議に報告。

17 レインボー・ストアハウス:ミッキーの着ぐるみを載せたボートが遠くへ流れ去りそうになるが、後藤は怪我をし無力。そこに久川が登場。二人で泳ぎ協力してボートを接岸させる。ミッキーの着ぐるみ、無事救出される。
 ペンキが流れ出て、倉庫(ストアハウス)を満たす水はレインボー色。
 ミッキーの着ぐるみ救出は、正社員の久川と準社員の後藤との協力の成果。

   第3日
1 変化:ショーのミッキー役、門倉が、「美装部に感謝する」と美装2課長の早瀬に言う。感謝の言葉は初めて。

2 夢の国の住人:運営部運営課、準社員の桜木由美子が「楽しそうだね」と言われる。彼女は、「夢の国を支えるのは会社の偉い人でも、スポンサーでもない。準社員が支える」と思う。「幻想を通じて希望を与えるのだ」と彼女は思う。

3 フィナーレ:準社員の後藤と藤木恵理が、パレードビルの楽屋でミッキーに着ぐるみを着せる。そこに、調査部の沼丘と法務部の柿崎がやってくる。「主要なキャラは、正社員立会いの下、経験を積んだ美装部員が、着付けを行う」と言う。
 「藤木恵理はクビだ!」「威力業務妨害。損害賠償義務もある」と柿崎。
 「一連の不祥事は準社員に責任を負わせる。万事、それで丸くおさまる」と沼丘。
 その時、後藤と藤木恵理がミッキーのヘッドを外す。そこに居たのは久川でなく、中村専務だった。(“クラブ33”の会議に出席した後、正社員の笹塚に「がんばれ!」と声をかけた重役。)
 「わが社を危機から救った準社員に役員全員を代表して、会いに来たんだ」と中村専務が言う。

《評者の感想》
1 物語は準社員対正社員の構図のもとで進行する。しかも準社員の立場に重点が置かれる。
2 働く意味は何かが、主題の一つ。
  ディズニーランドの従業員として働く意味は、準社員の場合、ゲストに夢の世界を与えること。
3 正社員の場合、働く意味は、ゲストに夢を与えることと、もう一つ、出世・昇進すること。
  出世・昇進ができるなら、うそも平気。公正さ・公平さなど、どうでもいい。他人は蹴落とす。
  準社員は、出世・昇進が無理なので、それらを働く意味にすることが困難。
4 正社員にも、公正さ・公平さを大事にする者がいる。例えば、パレードのミッキー役の久川庸一。
5 中村専務は善玉の重役で、水戸黄門に似た役どころ。
6 物語は、ディズニーランドについて、その夢をシリアスに壊すように見せて、実は、夢の世界をこの現実の世界の中に築き上げることの奇跡を賞賛。これは、ディズニーランド讃歌である。
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