都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「絵にしか描けない美しさ - 伊藤若冲」 ギョッとする江戸の絵画(NHK教育)
NHK教育テレビで放送中の「知るを楽しむ ギョッとする江戸の絵画」から、第5回、伊藤若冲(1716-1800)です。番組の模様をメモ風にまとめてみました。
NHK教育テレビ「知るを楽しむ この人この世界」
「ギョッとする江戸の絵画」 第5回 「絵にしか描けない美しさ - 伊藤若冲」
出演 辻惟雄(美術史家)
11/6(午後10:25-10:50)
傑作「動植綵絵」
・「動植綵絵」概略
全30幅。鳳凰、孔雀、魚、昆虫などが精緻に描かれている。
若冲40歳の頃から、約10年以上かけて制作された。(55歳の時に完成。)
完成後は京都・相国寺へ寄進。(明治までは年に一度公開されていた。)
明治22年に宮内庁へ。
→今年の春から夏にかけて、東京・三の丸尚蔵館で6点ずつ、計5回にわけて展示された。
・作品制作の背景
若冲の仏教信仰
相国寺禅師、大典の教えを受ける。
晩年は深草の石峰寺で僧侶として生活。(1788年以降、約10年間。)
「草木国土悉皆(しっかい)成仏」の世界を表現。
=この世にある草木も鳥も動物も、皆仏そのものであるという教え。
・各作品概説
「群魚図」(鯛+タコ)
一見、ありふれた構図ではあるが、一つ一つを細かく見るとただならぬ気配が存在している。
実際に泳いでいる魚ではなく、魚屋の店頭に並べられていたものを描いた。全体的にやや硬い印象。
油彩表現を凌駕するほど美しい鯛のうろこ。
大タコの触手の先にくっ付いた子ダコ→若冲らしいユーモア
↓
千変万化の面白さを追求
「老松孔雀図」
まるで夜会に向う貴婦人のような孔雀。色気すらを感じる。
Veneziaでこの作品を図柄を用いたドレスを見た。→若冲デザインの国際性
↓
あり得ない世界をあり得るように描いた作品。
「自分にはこうしか見えないのだ。」という主張。=確信犯的
=『絵にしか描けない美しさ』←若冲の目指すところ。
「池沼群虫図」
身近な昆虫を描いた作品。若冲の昆虫へ対する温かい眼差しが感じられる。
「群鶏図」
若冲と言えば鶏とも言われるほど代表的な作品。
自宅に鶏を放し飼いにして写生した。13羽の鶏が描かれている。
細部は不正確。決して実物そのものを表したわけではない。
↓
実物以上の美しさ=『この世ならざる美の世界』
自分の見えるようにしか描かない=肉眼が頭と心に直結してイメージを生む。
→一種の幻覚。(若冲にとってのリアル。)
↓
「バーチャル・リアリティー」の世界
「老松白鳳図」
動植綵絵の中でもとりわけ美しい。
生き生きと軽やかに佇む鳳凰。赤い鶏冠と嘴に、なめやかな切れ目。そしてクリスタルに輝く羽。まるで象牙細工のようだ。
一際目立つ赤いハート。
↓
美しさの秘密(修復時の調査にて判明)
作品の裏に黄色い胡粉(顔料)が塗られている=『裏彩色』
=この技法を巧みに用いて、類い稀な輝きを作り上げた。
ジョー・プライスと若冲
・若冲を愛するジョー・プライス
アメリカ人。カリフォルニア州、ロサンゼルス郊外に邸宅を構える。
カルフォルニア若冲のコレクターとして極めて有名。
「鳥獣花木図屏風」をデザインした風呂を所有。
ろうそくの明かりで所有作品を楽しむ。
24歳の時、ニューヨークの美術商にて若冲と出会った。以後コレクターに。(現在77歳。)
・プライスの若冲観
国内外を問わず、これまで一人もいなかった芸術家である。(「鳥獣花木図屏風」の新しさ。)
美と自然界への愛を持っている。
生き物をまさに生き生きと描き出し、動物たちに誇りすら与えた。
「鳥獣花木図屏風」
・プライスと「鳥獣花木図屏風」
江戸時代のものとは思えない斬新な作品。
プライスコレクションの中でも出色。大のお気に入り。心が安らぐ。
・「鳥獣花木図屏風」について
当時の日本に生息しなかった動物たちも描かれている。=中国の書物より引用。
→動物は平和の象徴として意義付けられている。
西陣織の型紙にヒントを得た正方形の升目。
→升目をそのまま残して描くと言う独特のスタイル。
画人の円熟が感じられる作品。画家として認められたというゆとりすら感じる。
↓
国や時を超えた魅力
以前はそれほど問題にしていなかった日本でも、現在では若冲の代表作として確立した。
↓
動物と植物の楽園=生き物全てに仏が宿っている。→仏国の姿を示した作品
最晩年の若冲
・若冲と石峰寺
京都・伏見の深草にある寺。
1788年、天明の大火で市内より焼け出された若冲が移り住んだ。
晩年の十数年を僧侶として過ごす。
裏山に並ぶ500体の羅漢像。石工に作らせた。ユーモア溢れる表情。
・「果蔬涅槃図」
仏画のモチーフを若冲風にアレンジしたユニークな作品。
大根に見立てた釈迦を、野菜たちが取り囲んで悲しんでいる。
植物の世界にも仏が宿ることを示した。
まとめ
ここ10年ほどの若冲ブーム。
(数十年前は極めて無関心だった。作品も海外へ。)
↓
『美術作品の価値は見る人によって発見されて成り立つ。』=時代が若冲の価値をようやく発見し、近づいた。
→奇想の系譜の画家たちの中でもとりわけ個性的であり、高い芸術性を見せている。
以上です。
基本的に「奇想の系譜」に則った話でしたが、やはり話題のプライス展を意識した構成がとられていました。また著書では全く言及のなかった「鳥獣花木図屏風」が、数多く登場していたのも印象的です。番組内にてかの有名なモザイク風呂を拝見すると、改めてプライス氏のこの作品へ対する愛情が感じられました。展覧会でも人気を集めていたことが思い出されます。
10月初旬から毎週放送されていた「ギョッとする江戸の絵画」も、いよいよ終盤に差し掛かりました。この後は蘆雪、北斎、そして国芳と続きます。こちらも楽しみです。(ちなみにこの回の再放送は、11/13の朝5:05-5:30です。お見逃しの方は是非どうぞ。)
*関連リンク
NHK教育 「知るを楽しむ この人この世界」 - 「ギョッとする江戸の絵画」
*関連エントリ
「ギョッとする江戸の絵画」(NHK教育)は明日(10/2)からです!
NHK教育テレビ「知るを楽しむ この人この世界」
「ギョッとする江戸の絵画」 第5回 「絵にしか描けない美しさ - 伊藤若冲」
出演 辻惟雄(美術史家)
11/6(午後10:25-10:50)
傑作「動植綵絵」
・「動植綵絵」概略
全30幅。鳳凰、孔雀、魚、昆虫などが精緻に描かれている。
若冲40歳の頃から、約10年以上かけて制作された。(55歳の時に完成。)
完成後は京都・相国寺へ寄進。(明治までは年に一度公開されていた。)
明治22年に宮内庁へ。
→今年の春から夏にかけて、東京・三の丸尚蔵館で6点ずつ、計5回にわけて展示された。
・作品制作の背景
若冲の仏教信仰
相国寺禅師、大典の教えを受ける。
晩年は深草の石峰寺で僧侶として生活。(1788年以降、約10年間。)
「草木国土悉皆(しっかい)成仏」の世界を表現。
=この世にある草木も鳥も動物も、皆仏そのものであるという教え。
・各作品概説
「群魚図」(鯛+タコ)
一見、ありふれた構図ではあるが、一つ一つを細かく見るとただならぬ気配が存在している。
実際に泳いでいる魚ではなく、魚屋の店頭に並べられていたものを描いた。全体的にやや硬い印象。
油彩表現を凌駕するほど美しい鯛のうろこ。
大タコの触手の先にくっ付いた子ダコ→若冲らしいユーモア
↓
千変万化の面白さを追求
「老松孔雀図」
まるで夜会に向う貴婦人のような孔雀。色気すらを感じる。
Veneziaでこの作品を図柄を用いたドレスを見た。→若冲デザインの国際性
↓
あり得ない世界をあり得るように描いた作品。
「自分にはこうしか見えないのだ。」という主張。=確信犯的
=『絵にしか描けない美しさ』←若冲の目指すところ。
「池沼群虫図」
身近な昆虫を描いた作品。若冲の昆虫へ対する温かい眼差しが感じられる。
「群鶏図」
若冲と言えば鶏とも言われるほど代表的な作品。
自宅に鶏を放し飼いにして写生した。13羽の鶏が描かれている。
細部は不正確。決して実物そのものを表したわけではない。
↓
実物以上の美しさ=『この世ならざる美の世界』
自分の見えるようにしか描かない=肉眼が頭と心に直結してイメージを生む。
→一種の幻覚。(若冲にとってのリアル。)
↓
「バーチャル・リアリティー」の世界
「老松白鳳図」
動植綵絵の中でもとりわけ美しい。
生き生きと軽やかに佇む鳳凰。赤い鶏冠と嘴に、なめやかな切れ目。そしてクリスタルに輝く羽。まるで象牙細工のようだ。
一際目立つ赤いハート。
↓
美しさの秘密(修復時の調査にて判明)
作品の裏に黄色い胡粉(顔料)が塗られている=『裏彩色』
=この技法を巧みに用いて、類い稀な輝きを作り上げた。
ジョー・プライスと若冲
・若冲を愛するジョー・プライス
アメリカ人。カリフォルニア州、ロサンゼルス郊外に邸宅を構える。
カルフォルニア若冲のコレクターとして極めて有名。
「鳥獣花木図屏風」をデザインした風呂を所有。
ろうそくの明かりで所有作品を楽しむ。
24歳の時、ニューヨークの美術商にて若冲と出会った。以後コレクターに。(現在77歳。)
・プライスの若冲観
国内外を問わず、これまで一人もいなかった芸術家である。(「鳥獣花木図屏風」の新しさ。)
美と自然界への愛を持っている。
生き物をまさに生き生きと描き出し、動物たちに誇りすら与えた。
「鳥獣花木図屏風」
・プライスと「鳥獣花木図屏風」
江戸時代のものとは思えない斬新な作品。
プライスコレクションの中でも出色。大のお気に入り。心が安らぐ。
・「鳥獣花木図屏風」について
当時の日本に生息しなかった動物たちも描かれている。=中国の書物より引用。
→動物は平和の象徴として意義付けられている。
西陣織の型紙にヒントを得た正方形の升目。
→升目をそのまま残して描くと言う独特のスタイル。
画人の円熟が感じられる作品。画家として認められたというゆとりすら感じる。
↓
国や時を超えた魅力
以前はそれほど問題にしていなかった日本でも、現在では若冲の代表作として確立した。
↓
動物と植物の楽園=生き物全てに仏が宿っている。→仏国の姿を示した作品
最晩年の若冲
・若冲と石峰寺
京都・伏見の深草にある寺。
1788年、天明の大火で市内より焼け出された若冲が移り住んだ。
晩年の十数年を僧侶として過ごす。
裏山に並ぶ500体の羅漢像。石工に作らせた。ユーモア溢れる表情。
・「果蔬涅槃図」
仏画のモチーフを若冲風にアレンジしたユニークな作品。
大根に見立てた釈迦を、野菜たちが取り囲んで悲しんでいる。
植物の世界にも仏が宿ることを示した。
まとめ
ここ10年ほどの若冲ブーム。
(数十年前は極めて無関心だった。作品も海外へ。)
↓
『美術作品の価値は見る人によって発見されて成り立つ。』=時代が若冲の価値をようやく発見し、近づいた。
→奇想の系譜の画家たちの中でもとりわけ個性的であり、高い芸術性を見せている。
以上です。
基本的に「奇想の系譜」に則った話でしたが、やはり話題のプライス展を意識した構成がとられていました。また著書では全く言及のなかった「鳥獣花木図屏風」が、数多く登場していたのも印象的です。番組内にてかの有名なモザイク風呂を拝見すると、改めてプライス氏のこの作品へ対する愛情が感じられました。展覧会でも人気を集めていたことが思い出されます。
10月初旬から毎週放送されていた「ギョッとする江戸の絵画」も、いよいよ終盤に差し掛かりました。この後は蘆雪、北斎、そして国芳と続きます。こちらも楽しみです。(ちなみにこの回の再放送は、11/13の朝5:05-5:30です。お見逃しの方は是非どうぞ。)
*関連リンク
NHK教育 「知るを楽しむ この人この世界」 - 「ギョッとする江戸の絵画」
*関連エントリ
「ギョッとする江戸の絵画」(NHK教育)は明日(10/2)からです!
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
« 「山口晃が描... | 「仏像 一木... » |
見所の多い番組でしたね。
群鶏図の前に挿入された、鶏たちの映像。特に襟巻き付(?)のそっくりさにびっくり!
動植綵絵全幅が並ぶ相国寺の様子。壮観!承天閣よりこっちで観てみたい。
北斎編は小布施が登場するようで、鳳凰つながりで驚異のビゲローコレクションも登場するかもと楽しみです。
コメントありがとうございます!
>群鶏図の前に挿入された、鶏たちの映像。特に襟巻き付(?)のそっくりさにびっくり
カラフルで鮮やかな色もそっくりでしたよね。
ジッと観察していたであろう若冲の姿が思い浮かびました。
>動植綵絵全幅が並ぶ相国寺の様子。壮観!承天閣よりこっちで観てみたい。
同感です!
映像を通して見るだけでも感激しました!
是非拝見したいですよね。
>北斎編は小布施が登場するようで、鳳凰つながりで驚異のビゲローコレクションも登場
やはり次は北斎が一番楽しみですよね。
昨年開催された、あの凄まじい展覧会を思い出しながら、
番組を見たいものです。
再放送録画予約しておきました。
予約表見ていたら、
世界美術館紀行の再放送やってるんですね。
この番組好きでした。
見逃したのやるといいなぁ。
それと、酒井抱一の本到着しました。
酒井抱一はほとんどの写真がカラーで、
お値打ちな感じですね。
江戸淋派は今からじっくり読みたいです。
素敵な本の紹介ありがとうございました
>再放送録画予約しておきました。
予約表見ていたら
それは良かったです。来週の月曜日が楽しみですね。
それにしてもいきなりプライスさんのモザイク風呂が登場したので驚きました。
あとは見てのお楽しみということで…。?
>酒井抱一の本到着しました。
酒井抱一はほとんどの写真がカラーで、
お値打ちな感じですね。
薄い本ですが、名作をうまくおさめていますよね。
まずは必携の一冊かと思います。
いつかは、そこに掲載されている作品の全てをこの目に収めてみたいものです。
>江戸淋派は今からじっくり読みたいです。
素敵な本の紹介ありがとうございました
いえいえ、こちらこそご丁寧にありがとうございます。
江戸琳派は雑誌ですが、なかなか読み応えがあります。
ゆっくり楽しんでみて下さい。
「鳥獣花木図屏風」のお風呂は笑えますね~
屏風がまっすぐにびろ~んとした状態の図録写真は、
本来の姿じゃないし、画家も想定して描いてないから、なんか変だろうといつも思ってます。
(資料なのでしょうがないのでしょうが)
この「鳥獣花木図屏風」はノバした状態でも、
素敵だと思います。
それを円柱状のお風呂に使う発想は面白い。
でも、格好いいという点で言えば、
銭湯とかにあった方がいいんじゃないかなぁっと
思いました(笑)
プライスさんのブログ大好きでした。
偽物買ったり、偽物と本物の違いを書いてあったり、
その他いろいろ。
それにしても、自分のコレクションが、
国立博物館で生きているうちに行われるなんて、
コレクター冥利に尽きますよね
再度コメントをありがとうございます。
>それを円柱状のお風呂に使う発想は面白い。
でも、格好いいという点で言えば、銭湯とかにあった方がいいんじゃないかなぁっと思いました
あの図柄の銭湯は良いですね!ピッタリです。
是非入りたいですね!(どこかで採用していただけないかと…。)
>自分のコレクションが、国立博物館で生きているうちに行われるなんて、コレクター冥利本来の姿じゃない
全く仰る通りかと思います。
若冲はもちろんのこと、あれほど質の高い江戸絵画コレクションは、
東博の所蔵作品すら上回ってしまうほどの充実度です。
次に拝見出来るのはいつでしょうね。
本当に貴重な展覧会でした。
美術作品の価値は見る人によって発見されて成り立つは誰の言葉ですか?
コメントありがとうございます。
>誰の言葉ですか?
相当に前のことですので、うる覚えで恐縮ですが、多分、辻先生と思われます。
間違っていたら申し訳ありません。