「山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈」刊行記念トークショー 丸善丸の内本店

丸善丸の内本店
「『山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈』刊行記念トークショー」
11/4 15:00~
出演 山口晃

ご一緒させていただいた方のブログには、既にこの講演の充実したレポが掲載されていますが、一応私のメモもアップしておきます。三越での大個展の記憶も鮮やかな山口晃氏のトークショーです。内容は主に、先日出版された「山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈」(東京大学出版会)のお話でした。作品の一点一点の仕掛けを、親切丁寧に解き明かして下さいます。

「山口晃が描く東京風景―本郷東大界隈/山口晃/東京大学出版会」


「本郷東大界隈」について

・絵葉書になるような作品を依頼された。
・作品の質にはムラがある。
・出版会のオススメコースを描いた。
・東大と東京芸大(山口の出身校)の不思議な繋がり。縁を感じる。(不忍池を谷間に挟んだ、それぞれ二つの台地に建つ。)


「本郷東大界隈」の各作品解説(全24点。)



・赤門
 旧加賀藩屋敷御朱殿門。1827年建設。
 明治時代のモダンな雰囲気を出してみた。(石造りの土台。)
 赤提灯の「帝国大学」(明治中頃までは実際に掲げられていたらしい。)
 バンカラ風の東大生を歩かせる。

・百萬石(理学部2号館向い) 
 創業明治32年の老舗料亭。一度入ってみたい場所。
 籠に乗る武士とネクタイ姿の男性の組み合わせ。

・旧発電所
 明治43年建設。現存する大学内最古の建造物。
 現在は塀に囲まれていて立ち入りすることが出来ない。→写真を見て描いた。
 廃墟風にアレンジしている。(←打ち捨てられたものの悲しみを表現。)
 かつては付属病院の発電所だった。



・教授の部屋(法文2号館) 
 1827年完成。
 ローマ史専門の木庭教授の研究室。中世の僧院をイメージ。
 上からの鳥瞰図。
 一度見た記憶を元に描写。
 →実際とは異なるイメージがたくさん出て来る。(流しや木彫、それにブラインドなど。)

・上部建増し(工学部2号館)
 1924年の建造物。建て増ししたのは2005年。
 旧建築を保存する形でありながらも、どこか不格好。(→帝冠様式にアレンジ。)

・三四郎池
 ごくふつうのありふれた光景。つまらない場所になってしまった。
 猫を描き入れるなどして、情緒的な味わいを表現する。

・七徳堂
 1938年建造。
 帝冠様式の立派な建物。コンクリートと瓦のミスマッチが面白い。
 中は畳敷きの武道場。

・地下街(法文2号館)
 実際にある2号館地下の様子。食堂などが軒を連ねている。
 地上の重厚な趣きとは違った面白い場所。
 地下街の下に空想の地下鉄を通してみた。(実際にもメトロという喫茶店が存在する。)

・アルムな場所(医学部3号館うらて)
 医学実験のための山羊の小屋。2、30年前から建っている。バラック風。

・仮説の庇(医学部3号館)
 シンプルな庇を大仏様のようにアレンジ。美を感じる。



・ビヤホール計画(理学部2号館北)
 殺風景な2号館を賑わうビヤホールに。
 ガラスをはめ込んだテラス。開放的。



・東大タワー
 帝冠様式の上に伸びるタワー。赤と白の着色。
 奥深い山に建つ鉄塔をイメージ。

・ラテンな清掃員
 日本人でありながら、いかにもラテン風(ちりちり頭や金時計など。)な清掃員。(←目撃情報を元にした空想の人物。)
 楽しそうに掃除をしている姿と、一仕事を終えた後の姿のギャップ。

・秘密のはなぞの(付属病院第一研究棟)
 医学部付属病院の前の光景。
 守衛(?)が養生している奇妙な植物を描く。驚くべきアイディアのガーデニング。
 ペットボトルに始まり、電話機やボーリングのトロフィーなどの廃品を使う。

・謎の建物(大講堂南側)
 給水ポンプの残骸(?)。中央のスイッチにより作動したのか?
 赤錆びてもう使われていない。

・外階段(付属病院第一研究棟)
 実際の階段をエッシャー風にアレンジ。

・S坂
 根津神社から東大へ向う坂。鴎外がS坂と名付けた。(正式には権現坂。)
 実景を元にしたはずだが、道路の舗装などは異なっている。
 清水堂を再現。

・環境安全研究センター
 実景をまったくそのまま描いた。

・ロータリー(第二食堂前)
 バスに瓦をのせる。レトロ風。



・東京大学出版会
 一番初めに描いた作品。会心作。

・グレーゾーン(旧診療棟)
 建物の迫力をそのまま表現。神社建築を思わせる建物。

・レッテルの店(いけのはた)
 両山堂光景。実際の建物に負けてしまっている。



・本郷館
 下宿屋。三階建てを四階建てに。実物よりも温かい雰囲気が出ている。

・安田講堂
 東大のシンボル。屋根に幟や大砲など。要塞をイメージ。
 正面に小競り合いの光景を描くつもりだったが、その歴史に鑑みて描くのを止めた。


質疑応答

・実際に外でデッサンをするのか
 頭の中のイメージを大切にするため、極力外では描かない。写真を参考程度に。

・原画の大きさ
 絵葉書よりも一回り大きなサイズ。

以上です。

実際の講演では、ここに記載した内容よりも、山口氏の軽妙洒脱なアドリブの方が印象に残りました。(むしろそのアドリブがメインになっていたとさえ思います。)会場は何度も笑いの渦に包まれました。こんな温かい雰囲気の講演も珍しいくらいです。

山口氏は現在、名古屋(中京大学アートギャラリー)でも個展を開催中ですが、12月からは中目黒のミヅマアートギャラリーでも同様の展覧会が予定されています。(12/7-2007/1/20)こちらも是非拝見したいです。

・講演会関連リンク
山口晃と歩く本郷東大界隈(Art & Bell by Tora/美術散歩
『山口晃が描く東京風景 本郷東大界隈』刊行記念講演(弐代目・青い日記帳
山口晃講演会 (徒然と 美術と本と映画好き...

(掲載の作品画像は、著書のパンフレットから転載させていただきました。)
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
« 祝・新「芸力... 「絵にしか描... »
 
コメント
 
 
 
Unknown (グリシーヌ)
2006-11-08 10:03:52
素敵な企画があるのですね

東大と東京芸大(山口の出身校)の不思議な繋がり。
って面白いですね
こないだ抱一のカレンダー買いに行ったときに、
ちょうど、このルートで帰ってきました。

不忍池を谷間に挟んだ、それぞれ二つの台地に建つ
芸大はあまり高いところにあるように思えませんでしたが、
確かに一回下りますよね。
今度はこの本もって、
東大の中を通ってこようかな。
 
 
 
山口晃 (とら)
2006-11-08 20:33:18
はろるどさん、わたしの拙速レビューにリンクを張っていただき恐縮です。
久し振りで目の覚める講義を聴いたような気がします。はろるどさんの詳細な記事でその場の雰囲気を思い出しました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2006-11-09 22:09:32
@グリシーヌさん

こんばんは!

>このルートで帰ってきました。

あの界隈はお散歩も楽しいですよね。
坂が多くて難儀しますが、
見る施設も色々とありますし、
特に谷中界隈などはただ歩いているだけでも楽しめます。

>芸大はあまり高いところにあるように思えません

確かにそうですよね。
ただ中央通りの方から芸大方向の上野の山へ歩くと、
結構な昇り坂なので高さが実感出来ます。
東京は意外と起伏の多い街ですよね。

>今度はこの本もって、
東大の中

私も一度本を片手に廻ってみたいです。


@とらさん

こんばんは。

>拙速レビューにリンク

何をおっしゃいます!
とらさんの詳細なレビューもたくさん参考にさせていただきました!
 
 
 
Unknown (きゃおきゃお)
2009-06-29 00:26:06
初めまして。(一度だけコメントしたことがありますが…)古い記事にコメントして申し訳有りません。
先日東京大学を、この本を手に散歩してきました。実際の建物との対比、面白いなって思いながら観てきました。
よろしければブログにこの記事のURLを貼っても良いでしょうか。どうぞ宜しくお願いいたします。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-06-29 21:42:26
きゃおきゃおさんこんばんは。ご丁寧なコメントをありがとうございます。
URLの件、大歓迎です。どうぞ宜しくお願いします!

>東京大学を、この本を手に散歩してきました

それは素晴らしいですね。
あの界隈は古い建物もたくさん残っていますので、
散歩にもまた精が出そうです。
 
 
 
有難うございます。 (きゃおきゃお)
2009-06-29 22:18:51
はろるどさん、こんばんは。
実際にスケッチの場所に立ち、山口ワールドの凄さに感動しました。(ちょっと笑いも…。)

広いので、まだ弥生門をくぐったばかりで先が長くなりそうですが、ぼちぼちUPしていきますので、よろしければ散歩をご一緒に楽しんでみてください。
本は、ぎゅっと広げるとばらばらになりそうで、予習に使いましたが(笑!)実際は持って行きませんでした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-06-29 22:51:44
きゃおきゃおさんこんばんは。

>まだ弥生門をくぐったばかりで先が長くなりそうですが、ぼちぼちUPしていきますので、よろしければ散歩をご一緒に楽しんでみてください。

早速ありがとうございます。後ほどお邪魔させていただきますね!
訪問シリーズ、楽しみです!
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。