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「対決 - 巨匠たちの日本美術」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「対決 - 巨匠たちの日本美術」
7/8-8/17(会期終了)



夏の上野を珠玉の日本美術で席巻した「対決 - 巨匠たちの日本美術」が、つい昨日、37日間の会期を終えて閉幕しました。最終週には風神雷神図もお目見えしてヒートアップした同展覧会でしたが、報道によれば、入場者の総計は32万6784人に達したそうです。これを一日あたりに換算すると8832名です。昨年のトップ3(関東地区の一日あたり。レオナルド10076名、モネ9457名、徳川9053名。)には若干届きませんでしたが、暑いこの時期の開催、さらには後半にメディアの露出の多い五輪と重なったことを鑑みても、ビックイベントに恥じない数字をたたき出したと言えるのではないでしょうか。大雑把ながらも明快な切り口、そしてそれを支える名品の数々と、ともかくインパクトにおいてはこの上ない展観であったのは相違ありません。図版でしか知らない有名作にこれほど多く出会えたのも初めてでした。それだけでも満足です。

今更感がありますが、実はまだ私はこの展示についての感想を書けておりません。というわけで短文にて、前回の内覧会記事と重なるものの、いくつか印象深かった点を、ようは「どちらが好きか。」という主観による勝敗とともに挙げていきたいと思います。宜しければおつきあい下さい。

「運慶 vs 快慶」 - 人に象る仏の性
勝ち:快慶
 線の細い快慶作の菩薩像に見る、どことないあどけなさ。一点勝負だったが、平常展の六波羅密寺で補完出来る内容がまた嬉しかった。

「雪舟 vs 雪村」 - 画趣に秘める禅境
勝ち:雪村
 画そのものの完成度としては雪舟に軍配を挙げたいところだが、「蝦蟇鉄拐図」や「呂洞賓図」のアニメーション的な躍動感はともかく強烈。ただし雪舟の「四季花鳥図屏風」の左隻における、雪にも埋もれた木や水辺の迫真の描写は実に印象深い。今にもガラスが砕け散って割れてしまうかのような緊張感をもって凍り付いている。

「永徳 vs 等伯」 - 墨と彩の気韻生動
勝ち:永徳
 永徳好きには「檜図屏風」が、久々に東博で出たことだけでも嬉しいもの。また「花鳥図襖」の、簡潔で流れるような墨線ながらも、見事に輪郭と事物の重量感を生み出す描写に改めて感嘆。等伯の「松林図」は、いつもの国宝室のようなやや過剰気味の演出がないことがむしろ作品の良さを素直に引き出していた。別に暗い部屋で霧と靄を演出する必要はない。

「長次郎 vs 光悦」- 楽碗に競う わび数寄の美
勝ち:長次郎
 形の遊びよりも器に瞑想の小宇宙を見る長次郎に軍配。ただしこの二者ばかりは完全に好みの問題が優先されそう。光悦の三十六歌仙和歌巻では、希代の二者のアーティストが美しいコンチェルトで華麗に響宴していた。跳ね上がるような書のリズムはまさに音楽的。

「宗達 vs 光琳」 - 画想無碍・画才無尽
勝ち:宗達
 まずは見たかった宗達の「蔦の細道図屏風」に感動。ループする大地に無限の広がりを思う。一方の光琳は会期前半こそやや分が悪かったものの、後半の「孔雀・立葵図屏風」にて激しく追い込んだ。図像的な立葵に太い梅の木の下に立つ孔雀という組み合わせが異色。最後に可愛らしい「狗子図」を持って来る妙もあり、総合力で宗達の勝ちか。(オリジナルの優位があるとは言え、先人への追慕の念もこめられた「風神雷神」は基本的に優劣を競う作品ではない。)

「仁清 vs 乾山」 - 彩雅陶から書画陶へ
勝ち:仁清
 琳派好きとしては乾山に挙げたいものの、今回は仁清にぐっと惹かれた。仁清は派手ではなくむしろ繊細。「色絵吉野山図茶壺」のグラデーションの美しさ。

「円空 vs 木喰」 - 仏縁世に満ちみつ
勝ち:円空
 円空仏の微笑みは永遠。荒削りな造形に仏像というよりも、もっと古代の普遍的なアニミズムの様相を感じる。

「大雅 vs 蕪村」 - 詩は画の心・画は句の姿
勝ち:蕪村
 前回も触れたように今展観一の見所はここ。とくに会期後半、大雅の「楼閣山水図屏風」と蕪村の「山水図屏風」の金銀屏風対決は圧巻の一言。その他、点描状のタッチにてモネかシニャックを思わせるような、美しい暖色の景色の広がる大雅の「瀟湘勝概図屏風」、または塗り残しを巧みに用い、雪中の鴉を刹那的に示した蕪村の「鳶鴉図」なども見応え十分。そして何と言っても傑作なのは、蕪村の「夜色楼台図」。古今東西の絵画でこれ以上に情景的な雪景色を見たことはない。

「若冲 vs 蕭白」 - 画人・画狂・画仙・画魔
勝ち:若冲
 今展覧会で最もド派手な「群仙図屏風」が登場。そのシュールで薄気味悪いタッチやモチーフに見入りながらも、濃厚な鶏と、地味ながらも視覚効果に長けた石灯籠の硬軟を使い分ける若冲に軍配を挙げたい。次に「仙人掌群鶏図屏風襖」を見られるのはいつのことか。

「応挙 vs 芦雪」 - 写生の静・奇想の動
勝ち:廬雪
 左の二面の展観がなかったのが残念だが、やはり飛び出す絵本、廬雪の「虎図襖」の面白さは群を抜いている。それに対する応挙は「猛虎図屏風」ではなく、やはり水流の表現に彼の真骨頂を見る「保津川図屏風」だろう。

「歌麿 vs 写楽」 - 憂き世を浮き世に化粧して
勝ち:写楽
 美女と美男対決。ここは素直に歌麿といきたいところだが、写楽の大見得をきる様にはどうしても圧倒されてしまう。その威圧感で写楽。

「鉄斎 vs 大観」 - 温故創新の双巨峰
勝ち:鉄斎
 富士山対妙義山の前期はやや締まらない感があったものの、鉄斎が入れ替わり富士山対決となったところでぐっと興味深い対決となった。鉄斎の濃厚さと大観の割り切った造形描写は実に対照的。

如何でしょうか。私としてはこれまでそれほど魅力を感じなかった与謝蕪村や仁清、または雪舟、雪村の面白さを感じ取れたのもこの展覧会での大きな収穫でした。全展示のマイベスト作品は上述の通り、蕪村の「夜色楼台図」です。思わず作品の前で無意識に足が止まり、その画中世界へすっと引き込まれたのは久しぶりのことでした。

これだけの大型展が一応、一区切りを迎えながら、まだ終ったという気がしないのは、やはり秋に大琳派を控えているからなのかもしれません。風神雷神の展観はそれに向けての期待感を高めるよい導入となりました。次は10月です。

*関連エントリ
「対決展@東京国立博物館」がはじまる
大琳派展(東博)、公式サイトオープン
大琳派展@東博、続報(関連講演会、書籍など。)
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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コメント(10/1 コメント投稿終了予定)
 
 
 
なるほど (ogawama)
2008-08-18 23:16:55
終わっちゃいましたね~。
あれだけ混んでも、徳川には及ばなかったのですね。
やっぱりたくさん人を集めるのはネームバリューなのですねえ。
私は、仁清との出会いが一番新鮮でした。
 
 
 
Unknown (あおひー)
2008-08-19 19:57:57
こんばんわ。
この勝ち負けで好みが分かれますよね。

>「風神雷神」は基本的に優劣を競う作品ではない
ほんとちょっと次元の違うところなのですよね。

大淋派も楽しみです。
おそらく2回以上行くことになるだろうなと思い、パスポートももう一つ購入しちゃいました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-08-19 21:15:02
@ogawamaさん

こんばんは。
徳川もかなり混んでいましたよね。まあ僅差ということで、同じくらい成功した展示ということで良いのかもしれません。

>仁清との出会いが一番新鮮

私も今回は仁清にかなり惹かれました。
仁清展というのもそろそろ見たいです。


@あおひーさん

こんばんは。

>勝ち負けで好みが分かれます

同感です。その人の趣向がわかりますよね。

>ちょっと次元の違う

写して描いたという部分にまた価値があるのではないかと思います。
何はともあれ、琳派の系譜を語るには欠かせない作品ですよね。

>パスポートももう一つ購入

お早い!
なるほどそういう手もありましたか。私はまずは前売の一人二回使えるというペア券からといきたいところです。
 
 
 
Unknown (テツ)
2008-08-20 07:00:36
>全展示のマイベスト作品は上述の通り、蕪村の「夜色楼台図」

はろるどさんらしい渋い選択眼を感じます。
静かで凛とした雪の日の情感が漂っていましたね。
そのなかに暮らす人々の
息遣いまで伝わってくるような気がします。

普段利用しない音声ガイドも、
声優オールスター登場で楽しめました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-08-21 01:05:10
テツさんこんばんは。

>そのなかに暮らす人々の息遣いまで伝わってくるような気がします

うっすらとした朱色にて家の中の灯火が表されているのが、また良いなと思いました。雪の下で健気に生きる者の、仰る通り息遣いでしょうね。

>音声ガイドも声優オールスター登場

なかなか意欲的な取り組みだと思います。
声優さんに惹かれてという方も多かったのではないでしょうか。
 
 
 
空前絶後の展覧会 (prelude)
2008-08-24 11:00:53
こんにちは。

本当に「凄い」としか言いようのない展覧会でした。私も、まだ感想を書き終えておりません(というか、まだ感想を書き始めてもいませんし、敢えて感想を書かないかもしれません。いや、私には書けないかもしれません)。

私は若冲目当てで行きましたが、結果的に最も印象に残ったのは芦雪の「虎図襖」でした。比較的混雑していない時間帯に行くことができたのをいいことに、角度を変えたりしゃがみ込んだりと、その場を離れようとしませんでした。

「対決」という観点では、私とはろるどさんのジャッジが分かれたのは1つだけで、私は長次郎ではなく光悦に軍配を上げました。但し、私の場合は、ずるいとは思いつつ「ドロー」が4つもありますので、その他が完全に一致したわけではありません。

この後に「大琳派展」が控えていると思うと、ゾクゾクします。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-08-24 11:25:04
preludeさんこんにちは。お元気でしょうか。コメントありがとうございます!

>結果的に最も印象に残ったのは芦雪の「虎図襖」

全幅展示されていないのが不思議でしたが、
それでもあの飛び出す感じの様は何とも愛くるしいですよね。
私も角度を変えたりして色々と楽しみました。

>私とはろるどさんのジャッジが分かれたのは1つだけで、私は長次郎ではなく光悦に軍配を上げました。

何と!一つ以外は全て同じでしたか。それは光栄です!
ちなみに長次郎と光悦でしたら、多くの方が光悦を挙げられると思います。
実際、私も琳派好きなので光悦も良いとは思うのですが、
長次郎の瞑想性にも強く惹かれたので今回は彼にしました。
もちろん好き好きの問題ですが…。

>この後に「大琳派展」が控えている

楽しみですよね。
少し涼しくなりましたが、早く秋が来ないものかと今から指折り数えています!
 
 
 
Unknown (Minnet)
2008-08-25 01:41:30
こんばんは。
大盛況の展覧会でしたね。1日平均8832人でしたか。新日曜美術館で特集されなかったこと、開催日数が短く、後半の追い上げが足りなかったことが数字に出たのかもしれません。
さて、蕪村と大雅の文人画対決は、私も、見れば見るほど深い味わいを感じました。
また、私はニコニコ顔の木喰が好きですが、円空の「普遍的なアニミズムの様相」は、まったくその通りだと思いました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-08-25 22:22:22
Minnetさんこんばんは。
コメントありがとうございます。

>新日曜美術館で特集されなかった

そう言えば新日曜美術館で取り上げられなかったのですね。
スポンサー絡み云々でということかもしれませんが、確かにあの展示の規模を考えればもう少しメディアの露出があっても良さそうでした。(もちろんそれでもかなり混んでいましたが…。)
後半は風神雷神で追い込んだという感じかもしれませんね。

>文人画対決は、私も、見れば見るほど深い味わいを感じました

詩情にもあふれた文人画が、若冲や蕭白のような表現主義的な作品と見事対等に渡り合っていました。
私の中でのMVPは蕪村です。
 
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