都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「六本木クロッシング2013」 森美術館
森美術館
「六本木クロッシング2013:アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」
2013/9/21-2014/1/13
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/45/dcea58ee2d1e81a3351029b51646a683.jpg)
森美術館で開催中の「六本木クロッシング2013」を見てきました。
2004年より3年に1度、森美術館を舞台に多様な現代美術を紹介してきた「六本木クロッシング」。今年で回を数えること4回目。美術館を代表する企画として定着してきた感もあります。
今回のテーマは「アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」。疑念を意味する『ダウト』を起点にアートをどう捉え、表現していくのか。震災後の初のクロッシング。かの被害をふまえて、当然あるべき、またあったであろう秩序への疑念。言わば価値の転換や再考を促される時代でもあります。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
小林史子「1000の足とはじまりの果実」2013年
さて冒頭の展開が圧巻です。まずは小林史子。展示室入口を塞がんとばかりに立ちはだかるのは「1000の足とはじまりの果実」。大量に摘みあがる椅子に絡み合う洋服。それがまさに天井まで壁のように構築されていく。ちなみに素材はいずれも六本木周辺で入手されたものだそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
小林史子「1000の足とはじまりの果実」2013年
それにしてもこの迫力。小林といえば、より複雑な構成をとった立体も見事ですが、今回はともかく一面の壁。大きさは6m×6m。もはや個では対峙することすら出来ないほどのスケールです。凄まじい圧迫感でした。
さて小林の壁を乗り越えると現れるのが風間サチコ。政治、歴史的テーマを現代の視点から木版に表現します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
風間サチコ「人外交差点」2013年
何と言っても目立つのは「人外交差点」です。渋谷のスクランブルを舞台にしたものですが、そこに跋扈する人間なり生き物は魑魅魍魎。そして看板には目や耳の絵。また「チョットマテ!言ふて良い事 悪い事」、さらには「スパイ」などの文字が。国家、メディア、はたまたネット。時代を超えて様々な統制、また相互監視下にある市民。物議を醸している機密保護法案とも関連があるのでしょうか。ともかくもそうした昨今の状況に警鐘を鳴らしています。
「獄門核分裂235」はどうでしょうか。いわゆる「原子力村」への作家の激しい憤りが表された一枚。言うまでもなく福島第一原子力発電所の事故をふまえての作品に他なりません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
中村宏「基地」1957年
そして後ろを振り返れば中村宏。1932年生まれ、ルポタージュ絵画でも知られる作家ですが、ここでも沖縄戦や基地問題を扱った作品が展示されている。国家と個人の関係。そして何よりも社会への大いなる批判精神。それが風間の作品世界と半ば共鳴しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
丹羽良徳「日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する」2013年
さらにこの後に続く小泉明郎と丹羽良徳の映像も見どころ。丹羽は最近の自身の関心という共産主義の問題をセレクト。ルーマニアと日本における共産主義の問題を取り上げています。
小林にはじまり丹羽へ至る展開。社会が鋭く抉られている。実に見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
遠藤一郎「未来へ丸(模型)」2013年
さて以降は簡単に参ります。(率直に申し上げると冒頭のテンションを維持出来ませんでした。)犬島プロジェクトを提案した柳幸典。そして遠藤一郎の「未来へ丸」などの大掛かりなインスタレーションが目を引きます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
泉太郎「キャラメル」2013年
泉太郎の「キャラメル」が異彩を放ちます。スクリーンに映し出された動物たち。片目の部分は切り抜かれ、モニター越しに人間の目が映っている。シンプルな仕掛けながらも、動物と人間の境界を揺さぶります。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
朝海陽子「ペース」シリーズより 2013年
朝海陽子の2つの写真シリーズは魅惑的です。西表島に滞在して、潮の干満を記録したいという「ペース」(2013)。現地では生活に際し、潮の干満が大変に重要だとか。そこを朝海は複数の写真を用いて、同じ場所の異なる風景を捉える。美しき海をドキュメンタリー的に写します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
菅木志雄「間連空」2013年
ラストは重鎮の菅木志雄でした。「間連空」(2013)と名付けられたサークル状の立体。何やら古代の祭祀の場を思わせるような空間。窓越しには東京の景色が見える。喧噪の六本木の天空に現れた瞑想の場所。そうした印象も受けました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
柳幸典「犬島プロジェクト」1995年~2000年
クロッシングに関するテキストは同館公式ブログでも充実。それを読むとまた違うもしれませんが、果たして展示そのものからどれほどコンセプトなりメッセージが浮かび上がっていたのか。諸々と議論はありそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
「六本木クロッシング2013」展示室風景
一部を除き、作品の撮影が可能でした。なお本エントリに掲載の写真は全て「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
館内は空いていました。2014年1月13日まで開催されています。
「六本木クロッシング2013:アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」 森美術館(@mori_art_museum)
会期:2013年9月21日(土)~2014年1月13日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00(火曜のみ17時まで。)*12月の金曜日は24時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下(4歳まで)500円。
*入館料で展望台「東京シティビュー」にも入場可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
「六本木クロッシング2013:アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」
2013/9/21-2014/1/13
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/45/dcea58ee2d1e81a3351029b51646a683.jpg)
森美術館で開催中の「六本木クロッシング2013」を見てきました。
2004年より3年に1度、森美術館を舞台に多様な現代美術を紹介してきた「六本木クロッシング」。今年で回を数えること4回目。美術館を代表する企画として定着してきた感もあります。
今回のテーマは「アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」。疑念を意味する『ダウト』を起点にアートをどう捉え、表現していくのか。震災後の初のクロッシング。かの被害をふまえて、当然あるべき、またあったであろう秩序への疑念。言わば価値の転換や再考を促される時代でもあります。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/68/5be56b1d185f2bf4bf087031393c1cb8.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
小林史子「1000の足とはじまりの果実」2013年
さて冒頭の展開が圧巻です。まずは小林史子。展示室入口を塞がんとばかりに立ちはだかるのは「1000の足とはじまりの果実」。大量に摘みあがる椅子に絡み合う洋服。それがまさに天井まで壁のように構築されていく。ちなみに素材はいずれも六本木周辺で入手されたものだそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/4b/3d54a44e876a5b1b590b2958578c065f.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
小林史子「1000の足とはじまりの果実」2013年
それにしてもこの迫力。小林といえば、より複雑な構成をとった立体も見事ですが、今回はともかく一面の壁。大きさは6m×6m。もはや個では対峙することすら出来ないほどのスケールです。凄まじい圧迫感でした。
さて小林の壁を乗り越えると現れるのが風間サチコ。政治、歴史的テーマを現代の視点から木版に表現します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/95/173c4c3ffd2faf8f1f1070a9d39d2d77.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
風間サチコ「人外交差点」2013年
何と言っても目立つのは「人外交差点」です。渋谷のスクランブルを舞台にしたものですが、そこに跋扈する人間なり生き物は魑魅魍魎。そして看板には目や耳の絵。また「チョットマテ!言ふて良い事 悪い事」、さらには「スパイ」などの文字が。国家、メディア、はたまたネット。時代を超えて様々な統制、また相互監視下にある市民。物議を醸している機密保護法案とも関連があるのでしょうか。ともかくもそうした昨今の状況に警鐘を鳴らしています。
「獄門核分裂235」はどうでしょうか。いわゆる「原子力村」への作家の激しい憤りが表された一枚。言うまでもなく福島第一原子力発電所の事故をふまえての作品に他なりません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/9d/d6c0522790f158bed4053359183a2268.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
中村宏「基地」1957年
そして後ろを振り返れば中村宏。1932年生まれ、ルポタージュ絵画でも知られる作家ですが、ここでも沖縄戦や基地問題を扱った作品が展示されている。国家と個人の関係。そして何よりも社会への大いなる批判精神。それが風間の作品世界と半ば共鳴しています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/c4/83a9c163c014d9a2034952c540104ef9.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
丹羽良徳「日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する」2013年
さらにこの後に続く小泉明郎と丹羽良徳の映像も見どころ。丹羽は最近の自身の関心という共産主義の問題をセレクト。ルーマニアと日本における共産主義の問題を取り上げています。
小林にはじまり丹羽へ至る展開。社会が鋭く抉られている。実に見応えがありました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/a7/c40778f9f49cb6d699579ff1472ae7bb.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
遠藤一郎「未来へ丸(模型)」2013年
さて以降は簡単に参ります。(率直に申し上げると冒頭のテンションを維持出来ませんでした。)犬島プロジェクトを提案した柳幸典。そして遠藤一郎の「未来へ丸」などの大掛かりなインスタレーションが目を引きます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/09/ca9fd326fc9763276ca2c5f2abc992c2.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
泉太郎「キャラメル」2013年
泉太郎の「キャラメル」が異彩を放ちます。スクリーンに映し出された動物たち。片目の部分は切り抜かれ、モニター越しに人間の目が映っている。シンプルな仕掛けながらも、動物と人間の境界を揺さぶります。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/48/120fcfdba08ae8c99f1a3029e14b4b86.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
朝海陽子「ペース」シリーズより 2013年
朝海陽子の2つの写真シリーズは魅惑的です。西表島に滞在して、潮の干満を記録したいという「ペース」(2013)。現地では生活に際し、潮の干満が大変に重要だとか。そこを朝海は複数の写真を用いて、同じ場所の異なる風景を捉える。美しき海をドキュメンタリー的に写します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/59/b1/178766f95aaac421b5d9f188073ea712.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
菅木志雄「間連空」2013年
ラストは重鎮の菅木志雄でした。「間連空」(2013)と名付けられたサークル状の立体。何やら古代の祭祀の場を思わせるような空間。窓越しには東京の景色が見える。喧噪の六本木の天空に現れた瞑想の場所。そうした印象も受けました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/fa/51679a6df5f6bb0539086da94f8c2297.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
柳幸典「犬島プロジェクト」1995年~2000年
クロッシングに関するテキストは同館公式ブログでも充実。それを読むとまた違うもしれませんが、果たして展示そのものからどれほどコンセプトなりメッセージが浮かび上がっていたのか。諸々と議論はありそうです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/09/19/6745530509d1924efa397555bec3472d.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/4d/4c7b2d0468563a66237c13e1c62dc593.png)
「六本木クロッシング2013」展示室風景
一部を除き、作品の撮影が可能でした。なお本エントリに掲載の写真は全て「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
館内は空いていました。2014年1月13日まで開催されています。
「六本木クロッシング2013:アウト・オブ・ダウトー来たるべき風景のために」 森美術館(@mori_art_museum)
会期:2013年9月21日(土)~2014年1月13日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00(火曜のみ17時まで。)*12月の金曜日は24時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下(4歳まで)500円。
*入館料で展望台「東京シティビュー」にも入場可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
« 「ミュージア... | 「楽園創造(... » |
僕も、スヌーピーは先にみて、六本木クロッシングはまだなのですが、なんか展望台のところで、また別の展覧会みたいの?やっていたようなーはろるどさん、気付かれましたか?もう終わったのかな?
こんばんは。
>チケットを買うお客さんはスヌーピー展の人ばかり
実は私もスヌーピー展の長い列に驚きまして、一度、入場をやめようと思いましたが、
係の方にクロッシングのみとお伝えするとスムーズに入れていただけて助かりました。
森美術館も10周年なのですね。これまでの展覧会が懐かしいです。
共産党のビデオは面白いですね。
日本共産党はカール マルクスをどう扱うか、共産党支部にいろいろ行って、マルクスの写真を掲げろ、と迫る。
はろるどさんのおっしゃるように、前半が面白く、時間をかけて観たのでー個人的には赤瀬川原平夢中に読んでいましたー後半は疲れました。
しかし、最後の福島盆踊り、悲しみをかかえつつ、敢えて盆踊りする映像には撃たれましたね。
震災後、日本は何を発信出来るのか?
ところで、チラシコーナーに来年秋の富士美術館のチラシ気付かれましたか?
ロイヤルアカデミー展、なんか来年は、ラファエル前派の年になりそうですね。
こんばんは。
丹羽さんは面白かったですね。非常にメッセージ性の強い作品でした。
どうしても前半が面白いと後半が…という印象も拭えません。
ただ今回は震災後初のクロッシング、仰るように福島に目を向けた作品も少なくありませんでした。その点では非常に考えさせられるものがあります。
>来年秋の富士美術館のチラシ気付かれましたか?
気がつきませんでした…ラファエル前派、楽しみです。