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「頴川美術館の名品」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「頴川美術館の名品」 
4/5~5/15



渋谷区立松濤美術館で開催中の「頴川美術館の名品」を見てきました。

兵庫県西宮市に位置する穎川美術館。「えがわ」と読みます。同館の特色は何と言っても日本や中国の古美術コレクションです。

江戸時代から大阪で廻船業を営んだ穎川家。中核を成すのは4代目の徳助が戦後に収集した美術品です。1973年に美術館を設立。以来、一般に向けて公開してきました。

そのコレクションが箱根の山を越えてやってきました。東京でまとめて展示されるのは約30年ぶりのことです。出展作品は135点。(展示替えあり)室町から江戸、近代絵画のほか、書跡、茶道具、ないし工芸品などの優品が一同に展観されています。

冒頭の「光忍上人絵伝断簡」からして状態が良いのには感心しました。時は鎌倉時代。岸和田の神於寺の縁起を描いています。山々の連なる中、ほぼ真ん中で地主明神と役行者が対面。この地に霊場を開くことを決めています。鳥居の朱が目に飛び込んできます。山には桜でしょうか。花も咲いていました。

重要文化財の「山王霊験記」も保存良好です。室町時代の日吉山王社の霊験を表しています。上下には鼠色ないし青い雲。中央に広がるのが市井の風景です。魚をさばき、書を認め、米でしょうか。穀物を選別する様子などを描いています。人々の表情が実に生き生きしていました。皆どこか楽しそうです。細部にまで緩みがありません。


伝能阿弥「三保松原図」 室町時代 15世紀 *前期展示

同じく室町時代の伝能阿弥の「三保松原図」も見応えがあるのではないでしょうか。6幅の掛軸画。重要文化財です。文字通り三保の松原をモチーフとしていますが、元は6曲の屏風絵でした。何でも対になる富士山の作品もあったそうです。パノラマで捉えた雄大な駿河湾、小舟も浮かんでいます。松林はやや濃い墨です。さも等伯の松林図のような素早い筆触で象っています。一方で大気は湿潤。仄かな金泥にて淡い光を表していました。

時代を下って江戸へ進みましょう。土佐光起の「春秋花鳥図」が立派です。一面の金地を背に広がる大屏風。右は春です。柳に桜が咲き誇ります。反対の左は秋。松に紅葉が描かれていました。水の青みは深く、胡粉の盛られた桜の花びらも際立って見えます。紅葉の朱も美しい。色に魅力のある作品でもあります。


長沢蘆雪「月夜山水図」 江戸時代 18世紀 *前期展示

応挙にも佳品ありました。「編豆図」です。月明りを描いたのでしょうか。薄暗い空間の中を蔦が滑らかに広がります。可愛らしい花もいくつか。実に上品です。それに蘆雪の「月夜山水図」も良い。墨画です。高い岩山の彼方の満月。松のシルエットが月にかかっています。辺りは茫洋。霧が立ち込めているのかもしれません。簡素ではありますが、情緒深い光景を表しています。

さらに池大雅や谷文晃、そして中林竹洞、山本梅逸、椿椿山と続きます。うち中林竹洞の「重山雲樹図」と山本梅逸の「松竹梅図」が殊更に魅惑的でした。竹洞の点に梅逸の線。前者が点を重ねて山々の景色を描いたとすれば、後者は引っかき傷のような描線で雨に濡れた梅林を表しています。ちなみに文人画は絵画の中で最も多く作品が出ていました。上方の美術館ならではの特徴と言えるかもしれません。

絵画に次いでは工芸です。やはり挙げるべきは長次郎の「赤楽茶碗 銘 無一物」ではないしょうか。

柿色の楽茶碗。短円筒形で口縁部も端正な円です。僅かに内側へ沿っています。胴はすとんと下に落ちていました。高台は低い。思いの外に薄手でした。色彩はやや古色を帯びています。透明釉をかけていますが、経年変化のために「かせている」(キャプションより)のだそうです。

光悦も素晴らしい。「黒楽茶碗 銘 水翁」です。やや歪みを伴った造形、上から見ると口が大きく反り、楕円の形をしていることが分かります。ほか信長から古田織部、そして徳川家に伝わった「肩衝茶入 銘 勢高」も美しいもの。黒い釉が飴のごとく垂れています。さらに益田鈍翁の「竹茶杓」など一連の茶道具も見どころと言えそうです。


無準師範「墨跡 淋汗」 南宋時代 13世紀 *前期展示

書に思いがけないほど惹かれる作品がありました。「墨跡 淋汗」です。夏に入浴で汗を流した後に茶を嗜む「淋汗茶場」に掛けたという軸。ともかく溌剌としていて力強い。とめやはねにも勢いがあります。

江戸時代の大阪を錦絵に表した「浪花百景」も10点弱ほど展示。天保山や京橋、そして堂島の米市場などが舞台です。元は100枚揃いのシリーズ。歌川国員と六花亭芳雪、そして中村芳瀧の3絵師による合作です。広重の名所江戸百景を意識したとも言われています。

ラストは近代絵画でした。出品は僅かですが、うち竹内栖鳳の「新涼図」が目を引きます。小さな画面、虚空に舞う一匹の蜻蛉。下には緑色で水流が示されています。初夏でしょうか。どことなく涼を感じ取れる一枚でもあります。


「芦屋松林図釜(大名物)」 室町時代 15世紀 *通期展示

順路に沿って地階が絵画、2階が工芸、書跡、錦絵と近代絵画です。薄型の展示ケースも多く、がぶりつきで鑑賞出来るのも嬉しいところでした。

会期は二期制です。会期中、工芸品を除くほぼ全ての作品が入れ替わります。

「頴川美術館の名品」出品リスト(PDF)
前期:4月5日(火)~4月24日(日)
後期:4月26日(火)~5月15日(日)

二期目の割引サービスなどは特にありません。ただし何かとリーズナブルな松濤美術館のことです。入館料自体がワンコインの500円。つまり前後期の2度通っても1000円です。


「阿弥陀曼荼羅図」 平安~鎌倉時代 12世紀 *後期展示

それにしても想像を超える優品ばかり。タイトルの「名品」は何も誇張ではありません。一度、現地の穎川美術館へも行ってみたくなりました。



後期も追いかけます。5月15日まで開催されています。

「頴川美術館の名品」 渋谷区立松濤美術館
会期:4月5日(火)~5月15日(日)
休館:4月11日(月)、18日(月)、25日(月)、5月9日(月)。
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500円、大学生400円、高校生・65歳以上250円、小中学生100円。
 *10名以上の団体は2割引。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。(要各種証明書)
 *土・日曜日、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15~20分。
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