「六本木クロッシング2016」 森美術館

森美術館
「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」
3/26~7/10



森美術館で開催中の「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」を見てきました。

2004年より3年に1度、森美術館を舞台に現代美術を紹介してきた「六本木クロッシング」。今年で早くも5回目です。

テーマは「僕の身体(からだ)、あなたの声」。日本、韓国、台湾の4人のキュレーターによって選ばれた20組のアーティストが様々な作品を展開しています。


毛利悠子「From A」 2015‒2016年

冒頭は毛利悠子。昨年の日産アートアワードでグランプリを受賞した作家です。立ちはだかるのは白い壁。扇風機やフライパン、それにハタキなどの日用品が、ケーブルやワイヤーで繋がっています。可動式です。時にビクンと波打ち、パタンと動きます。規則性があるのか、はたまたランダムなのかは俄かには判別しません。互いに関係しながら自律しています。各々の品は壁というステージを借りては何かを演ずる役者のようでもありました。


石川竜一「okinawan portraits 2010‒2012」 シリーズより 2010‒2012年 ほか

2014年に木村伊兵衛賞を受賞した石川竜一が「okinawan portraits」の未発表作品を展示しています。いずれも沖縄で撮影したポートレートです。しかしながら顔が限りなく拡大されているゆえに、衣服なり、背景があまり明らかではありません。人を取り巻く生活や仕事といった文脈から切り離されているようにも見えます。また何台か積まれたブラウン管モニターにも注目です。そこでも写真と同様、顔が交互に映し出されていました。


片山真理「you’re mine #001」 2014年 ほか

タイトルの「身体」を強く意識させる作品と言えるかもしれません。片山真理です。目に飛び込んでくるのは足や腕の欠けた人物のオブジェ。さらに写真も加わります。モデルは女性です。下着姿でしょうか。白いリネンに包まれてはポーズをとっています。そしてここでもやはり足が失われていました。

片山自身、幼少期に両足を切断し、義足で生活を続けてきたそうです。自らを半ば「さらけ出して」(キャプションより)まで見せた私の「身体」。ゴージャスに飾られた部屋の中でも姿を露わにしています。プライベートを意識させた空間も個性的でした。


山城大督「トーキング・ライツ」 2016年

太鼓や骨董の器、ないしシャモジといった道具類を巧みに操っています。山城大督の「トーキング・ライツ」です。白く広い台に並べられた道具類。次々とライトが変化してはしゃべり出します。子どもの声でしょうか。もはや演劇です。ただし道具自体は動きません。ただそれでも音声と光の演出により何らかのストーリーを追うかのごとく展開していきます。ふと付喪神を連想しました。その現代版舞台とでも表せるかもしれません。


野村和弘「笑う祭壇」 2015年

カチャンコトンという音が鳴り響いていました。野村和弘の「笑う祭壇」です。白線の引かれた区間。立ち入れません。その中に何やら細い台のようなものが設置されています。祭壇でしょうか。手前にはたくさんの小さなボタン。台の周りの床にも無数に散乱しています。

結論からすれば参加型のインスタレーションでした。観客は祭壇を目掛けてボタンを投げ入れます。目標は祭壇上の小さな平面です。当然、私もやってみました。たまには台に当たります。ただし上に載せることは不可能。そもそも土台無理な話なのかもしれません。にも関わらず、どこか諦めながらボタンを投げてしまいます。もはや無為とも言えないでしょうか。笑っているのはむしろ祭壇の方かもしれません。


後藤靖香「寄書」 2008年 国立国際美術館

後藤靖香の絵画に迫力がありました。テーマは第二次世界大戦です。自らの祖父の従軍したエピソードを基にしています。「寄書」は配属された同期との寄せ書きの場面を描いたもの。中央で力強く筆をとるのが祖父なのでしょうか。皆、当然ながら軍服姿。緊張しているのかもしれません。肩に力が入っている様子が伝わってきます。一方で周囲の同期は表情豊かです。ニヤリと笑ったり、どこか不安げに口を開けている者もいます。


後藤靖香「あいおいばし」 2013年

「あいおいばし」では少年と入隊後の祖父を二つの平面上で邂逅させています。もちろん空想上の光景ではありますが、好奇心旺盛な眼差しで体を前にくねらせては互いに見遣っています。ちなみに後藤が絵を描く際に素材としているのは墨汁です。近寄ってみると確かに墨に独特の滲みが広がっていることがわかりました。


ナイル・ケティング「マグニチュード」 2016年

白熱電球の研究開発をテーマとしたナイル・ケティングがやや異色です。タイトルは「マグニチュード」。何やら舞台装置のようなインスタレーションを展開させています。


さわひらき「カメラの中の男(自画像のための習作)」 2016年

展覧会の核をなしているのは映像と言えるかもしれません。自画像をテーマとしたさわひらきにはじまり、日本の戦前の教育制度を現代の韓国人の視座からも問い直す藤井光、そして旗をテーマに性差や共同体の問題を捉える佐々瞬、さらには山口の離島で飼育される「見島牛」を8ミリに収めた志村信裕や、2人の祖母のインタビューを時にトリッキーに編集した百瀬文などと実力派揃い。テーマも多岐に渡ります。じっくり向き合うには物理的に相当の時間もかかります。


藤井光「帝国の教育制度」 2016年

実のところこれほど映像が多いと思っていなかった私は、その後の都合もあり、駆け足での観覧となってしまいました。また西原尚の可動式のインスタレーション、「ブリンブリン」も調整中のため、観覧出来ませんでした。その意味でも改めて出直したいと思います。


佐々瞬「旗の行方」 2016年

なかなか全体として捉えるのが難しい展覧会ではありますが、映像しかり、個々には考えさせられる作品も少なくありません。

なお会場内は撮影が可能です。一定の規定を守ればSNSでも利用出来ます。

ロングランの展覧会です。7月10日まで開催されています。

「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」 森美術館@mori_art_museum
会期:3月26日(土)~ 7月10日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *但し火曜日は17時で閉館。(5月3日は22時まで開館。) 
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・高校生1200円、中学生以下(4歳まで)600円、シニア(65歳以上)1500円。
 *本展チケットで展望台へも入館可。
場所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。


注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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