「高松次郎ミステリーズ」 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
「高松次郎ミステリーズ」
2014/12/2~2015/3/1



東京国立近代美術館で開催中の「高松次郎ミステリーズ」を見て来ました。

1936年に生まれた現代美術家の高松次郎。「ミステリーズ」とはキャッチーなタイトルです。そして本展ではどこか謎めいている高松の作品を「わかりやすくていねいに読み解こう」(公式サイトより。一部改変。)と試みています。

出品はスケッチや資料を含めると150件。初期から晩年までの絵画や彫刻を網羅します。その意味では作家の全貌を見定める回顧展と言えるかもしれません。

さてその「ていねいに読み解く」、冒頭からして確かに一風変わった仕掛けがなされています。

「影ラボ」です。つまり高松の「影」シリーズの原理を体験出来るというもの。自らをモデルに、「影」に関する4つの謎を知ることが出来ます。(*「影ラボ」のみ撮影可能でした。)


「影ラボ」

光そのものはかなりシンプル、例えば二重光源であったり、逆遠近法を利用したものですが、光の前に立って姿を写せば、それこそ高松の「影」になった気分も味わえる。作品世界を知る導入としては効果的ではないでしょうか。


「影ラボ」

「影ラボ4」が変わり種です。というのも主人公は椅子、そして三次元の立体と二次元との影との関係を「回転」のキーワードで結びます。この後の高松の展開しかり、作品のコンセプトは難解というのか、取っ付きにくいところがありますが、確かに廻る椅子と影を眺めれば、何となしに高松の意図した面が感じられるというもの。悪くはありません。

「影ラボ」を抜けましょう。間仕切りを全て取っ払い、大きく開けた一つの展示室が目に飛び込んできました。ここでは高松の1960年代の「点」や「紐」から、90年代の「形」へ至る展開を紹介しています。そして作品の並びはテーマ別ではなく、基本的にはクロニクルです。作家の制作を時間に沿って追えました。

ここにも一つ仕掛けがありました。というのも展示室のほぼ中央には木製のステージが設置されています。つまりそこから作風の変遷なりを俯瞰することが出来るのです。(ちなみに会場構成はトラフ建築設計事務所が手がけています。)

ステージはかつて高松が利用していた自宅兼アトリエの大きさとほぼ同じであるとのこと。随所には高松の言葉が引用されています。残念ながらアトリエは2012年に取り壊されましたが、その前に内部を捉えた鷹野隆大の写真も展示されていました。また書棚は高松の蔵書でしょうか。ウィトゲンシュタインやフォークナーの小説などが目を引きます。


高松次郎「誕生」 1960年 三鷹市美術ギャラリー

最初期のドローイングはまるで細胞の生成を捉えたかのようです。そして一次元の点から二次元の線へと移る。さらに紐へと繋がります。完全な点を求めようとして得られたのは線、さらには紐だったということなのでしょうか。そしてこの増殖するかのように広がる線や面は、晩年の絵画にも通じるものがあります。

「影」の制作では反実在という言葉が重要かもしれません。事物の世界と人のイメージの世界を乗り越えるべくして考え出された半実在の世界。単純化するのは危険ではありますが、少なくとも実在、ようは世界の確かとは何かという哲学的な命題は、高松の制作における根本的な問いであるようです。

「カーテンをあけた女の影」が謎めいていました。作中においてビーナスが像、絵、影、さらに穴の4態に変化しています。さらに良く見ると両側にあるカーテンも事物と影の二つに表されています。見ていると一体、自分がビーナスの何を捉えようとしているのか分からなくなってしまいました。


高松次郎「複合体(椅子とレンガ)」 1972年 The Estate of Jiro Takamatsu

「レンガの単体」も奇妙です。レンガをくり抜いては、切り裂いた破片を再び埋め込んでいます。また「複合体(椅子とレンガ)」は椅子の脚に一つだけレンガを添えたもの。つまり椅子は傾き、座ることは出来ません。それに加えてレンガ自体も本来の用途を為していません。では何物なのか。言ってしまえばもはや何物でもないのかもしれません。

70年代後半以降になると再び絵画が現れます。「イリュージョンを配し、重なりを星座的に構成する。」や「無であると同時に全体であるような方向。」とはキャプションからの言葉。やはり一筋縄ではいきませんが、いくつかの作品はどこか美しくもある。「平面上の空間 No.1035」はモーリス・ルイスを連想するものがあります。


高松次郎「形 No.1202」 1987年 国立国際美術館

そして「形 No.1202」です。線は非常に揺らいでいて、ある意味では粗雑です。むしろ高松の手の自由な動きが表されているとも言えますが、良く見ると色の塗り方にパターン化した面もあり、意図的であることが分かる。やはりコンセプチュアルな傾向が強く出ています。


「影ラボ」

「読み解き」という意図からか、全体的にキャプションを含め、見るよりも読ませる展示だという印象を受けました。しかしながらそのキャプションを読んでも分からない面が多々あるのも事実です。まるで認識をはぐらかすかのような高松の作品、私の足りない頭を差し置くとしても、なかなか理解出来るものでもありません。ただこの展覧会を通して、高松が何をしようとしていたのかを知る切っ掛けにはなりました。


「高松次郎ミステリーズ」会場出口

それにしても偶然なのか、2012年の中西夏之展(DIC川村記念美術館)、また先だっての赤瀬川原平展(千葉市美術館)、そして今回の高松次郎展(東京国立近代美術館)と、ハイレッドセンターのメンバーの展覧会が続きます。


高松次郎「鍵の影」 1969年 *MOMATコレクションより

所蔵作品展「MOMATコレクション」に高松の「鍵の影」が出ていました。また企画展にあわせたのか、中西夏之や河原温など、1960~70年代に活動した美術家の作品が目立っています。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。

高松の思索の旅、その片鱗だけでも触れられた気がします。

2015年3月1日まで開催されています。

「高松次郎ミステリーズ」 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2014年12月2日(火)~2015年3月1日(日)
休館:月曜日。但し1/12は開館、翌1/13は休館。年末年始(12/28~1/1)。
時間:10:00~17:00(毎週金曜日は20時まで)*入館は閉館30分前まで
料金:一般900(600)円、大学生500(250)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *当日に限り 「奈良原一高 王国」と 「MOMATコレクション」も観覧可。
場所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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