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「白絵展」 神奈川県立歴史博物館

神奈川県立歴史博物館
「白絵ー祈りと寿ぎのかたち」 
10/11-11/16



神奈川県立歴史博物館で開催中の「白絵ー祈りと寿ぎのかたち」を見て来ました。

出産、成長、または冠婚葬祭の場などにおいて古来より尊ばれてきた白の調度品。古くは平安時代の出産時の道具に白が多く用いられ、江戸時代には白地に白で模様を描く「白絵屏風」も制作された。また年中行事などでも広く普及した白の美術工芸品、しかしながら意外とそれだけを取り出して見ることは少ないかもしれません。

そこを狙うのが白絵展です。いかに日本の美術に白が関わり、その根底に人々のどのような意識があったのか。それを探っていく展覧会でもあります。


重要文化財「源氏物語 若菜二」 土佐光吉筆 慶長17(1612)年 和泉市久保惣記念美術館 (展示期間:10/11~10/25)

はじめは出産の場における白です。例えば鎌倉時代の「聖徳太子絵伝」、太子の幼少期の事蹟を描いていますが、画面下方の出産の場面、皇女が白い装束に身を包んだ女性たちに囲まれています。

また「御産部類記」です。寛弘5年(1008年)の後一条天皇の誕生に関する記事を収めたものですが、産所の屏風には白綾屏風をたて、白桶、白木の台盤などが調度として使われたと記されています。平安時代の出産における白の扱いが分かる資料の一つと言えるかもしれません。


「白絵屏風」(左隻) 伝原在中筆 江戸時代 京都府立総合資料館

ちなみにこの白綾屏風とは白い綾絹で紋様を表したもの。それが南北朝時代には紙にとってかわります。さらに進んで江戸時代の「白絵屏風」です。言うまでもなく産所に立て掛けられた屏風、松に竹、そして鶴や亀の吉祥的なモチーフが描かれる。全て胡粉の濃淡の表現です。また雲母が使われているからでしょうか。少し角度を変えると表面が仄かに光ることが見て取れます。

展示全体として出産時に使われた白の調度品が目立ちます。例えば赤ん坊のための白の産着や押桶に胞衣桶。押桶とは産所で用いる湯水を入れるもの。また胞衣桶とは出産後、赤ん坊の胎盤を埋納するために使われた桶のことです。木地に胡粉でやはり松竹鶴などの吉祥文が描かれています。


「白絹地竹に雀紋松竹梅鶴亀銀描絵小袖」 江戸時代 仙台市博物館

さて出産と同様、白が尊重されたのが婚礼です。そして仏教において白は清浄な色とされています。一方で死装束に代表されるように死とも密接でした。一口に白とはいえども、その在り方は当然がら多様であります。

うち目を引くのが家康の生涯と東照宮の由来を記した「東照社縁起絵巻」です。展示では一巻と三巻が出ていましたが、前者は家康の誕生シーンが描かれているのに対し、後者は死した家康が久能山に送られる様子が表されている。誕生の場面の調度はお馴染みの白屏風です。一方、葬送の列で豪華な櫃輿を担ぐのは白装束の男たち。同じ白が生と死の場面で重要な地位を占めていることがわかります。


国宝「六道絵 人道不浄相」(十五幅のうち一幅) 鎌倉時代 聖衆来迎寺 (展示期間:11/1~11/16)

聖衆来迎寺の「六道絵 人道不浄相」(10/31までは模本)がやって来ました。いわゆる死んだ人間がいかにして朽ち果てていくかを表した作品、画面下部では死人が烏や犬に食われて血を流す姿などの凄惨な描写も目を引きますが、ここでは最上段に注目しましょう。死後間もない女性が野辺に横たわっていますが、遺骸には銀の紋様を施した白い衣装が着せられている。やはりここでも葬送と白のイメージとが繋がっています。

また天児も興味深い。これは一度着物を天児に着せ、その後産まれた子に着せることで、生まれてくる子の災厄の身代りになると信じられていたものとか。そのほかには錦絵の死絵なども数点出ていました。


「犬筥」(二体) 江戸時代 個人蔵

出品は70件ほどです。また「白絵」とありますが、絵画よりも工芸の方が多いかもしれません。それにしてもありそうでなかった白絵をまとめた展覧会。まずは好企画ではないでしょうか。

展示替えの情報です。会期中に一部の作品が入れ替わります。

「白絵展」出品リスト(PDF)
前期:10月11日~10月26日
後期:10月28日~11月16日

聖衆来迎寺の国宝「六道絵」は11月1日からの展示です。ご注意下さい。


「白絵展」会場入口

全出品作の図版、及び一部の作品解説のついた図録が1200円で販売されていました。内容からしてもお得だと思います。


神奈川県立歴史博物館

会期は僅か一ヶ月強です。11月16日まで開催されています。おすすめします。

「白絵ー祈りと寿ぎのかたち」 神奈川県立歴史博物館
会期:10月11日(土)~11月16日(日)
休館:毎週月曜日。但し10月13日、11月3日は開館。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般900(800)円、学生600(500)円、高校生・65歳以上100(100)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市中区南仲通5-60
交通:みなとみらい線馬車道駅3・5番出口徒歩1分。横浜市営地下鉄関内駅9番出口より徒歩5分。JR線桜木町駅、関内駅より徒歩10分。
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