「鈴木康広展 近所の地球」 水戸芸術館

水戸芸術館
「鈴木康広展 近所の地球」 
8/2-10/19



水戸芸術館で開催中の「鈴木康広展 近所の地球」を見てきました。

1979年に静岡で生まれ、現代美術のみならず、企業や大学とのコラボレーションなど、多方面で活動するアーティスト、鈴木康広。

このクラスでの個展は初めてかもしれません。水戸芸の特徴的なホワイトキューブを「無限大」のイメージに見立て、新旧様々なインスタレーションを展開しています。

さて無限の回廊、初めは暗室、いきなり「地球」です。グローブジャングルによる映像インスタレーション、回転させることで、公園のイメージが浮かびあがります。ふと見上げると「時計」です。淡々と時を刻む針。これは作家の近所の公園の時計を朝から夕方まで撮影したものと、水戸の現在の時間を合わせたものだとか。作家はこれを「時間の生け捕り」と呼んでいます。全く異なる場所と時間が一つの時計を介して繋がりました。

まるで実際に水が波立っているかのようです。「無限の池」と名付けられたレリーフ状の作品、上から投影された映像によって回転すると水面のように見える。もちろん実際に水はありません。思わず手を触れたくなってしまいます。


「日本列島の方位磁針」 2011年

暗室を抜けると小さな日本列島が水に浮かんでいました。正面から見ると北海道が上を向いている。何と列島の形をした磁石です。それが方角を正確に示しています。簡素な仕掛けですが、これほど明瞭に自分の日本列島での向きが分かることはありません。

日本列島を抜けた廊下では概ね旧作、もしくは小品の展示が続きます。うち特に面白いのが「砂漠のコップ」と「器の人」、それに「手のせっけん」です。

通路上にただ一つ、少し高い位置に置かれたコップ。気がつかないと通り過ぎてしまうかもしれませんが、よく目を凝らすと、とある現象が起きていることが分かります。

種を明かせば天井からコップをめがけて水が一滴ずつ静かに落ちているのです。水滴がコップの表面に落ちる瞬間、まさに砂に染み込む雨のように消えてなくなる。その姿は見えるか見えないか分からないくらい繊細です。

「器の人」は文字通り人型のコップや小皿を象ったもの。頭の部分がおちょこになり胴体が大きな器、そして脚がコップとなって、最後の足首が小皿となる。マトリョーシカとも言えるかもしれません。ようは人の形を輪切りして器に仕立て上げているわけです。

「手のせっけん」、エピソードを聞いて驚きました。実物大の手のひら型の石鹸ですが、鈴木はこれを高校生の時に思いつき、友人にプレゼントしたとか。手の石鹸をあげることで、その人の手が三つになる、また身体を触るための手をあえて石鹸にする、つまりはそれで身体を洗ってもらうことに面白さを見出したそうです。

それにしてもこうしたアイデア、一体何処から出てくるのでしょうか。鈴木のアプローチはメディアやオブジェ、さらに平面と多様ですが、ともかく感心するのは奇想天外とも言える豊富なアイデアです。宇宙、地球、時間、さらには人体への強い関心、それを思いがけないほど身近な素材を用いて作品として見せること。しかも知性的である。この点においては少なくとも私は鈴木を超える作家を知りません。


「気球の人」 2014年

小品を抜けると一転しての大型のインスタレーション、「気球の人」が待ち構えていました。巨大な透明ビニールの球体に頭を突っ込んでは浮く人形たち。大きさはまちまち、小さな人形もいます。そしていずれも中は空洞、空気で満たされていました。

コンセプトを知って驚きました。何でも球体が地球として、人が皆同じ空気を吸っていることを表したとか。しかも例えば地球に水が豊富にある場所とそうでない場所があるように、空気にもやがて独占する人とそうでない人が現れるのではないかという、言わば危機感をもって出来た作品なのです。だからこそ人の大きさが様々なのです。

「気球の人」では周囲にも注目です。端に置かれた椅子と台。とはいえ椅子は丸く、奥まで深く腰掛けると天井を見上げる形になります。そして台は足の形です。足の上にさらに自分の足を載せることで、少し高い地点から景色を見渡すことになる。つまりはどちらも地面から解放(見えなくなり、また離れる。)されることを意図しています。


「まばたきの葉」 2003年 Courtesy of SPIRAL/Wacoal Art Center

お馴染みの「まばたきの葉」とも再開出来ました。瞳の描かれた木の葉の紙が吹き上がっては舞い降りるインスタレーション、よく見ると見開かれた瞳は地球で、閉じたそれは日本列島の形をしています。

子どもたちが何度も葉をかき集めては吹き上げようとしている姿が印象的でした。ここは童心に帰ってしばし遊びたいものです。

その後は作家の制作ノートやアトリエの再現展示と続きます。アトリエでは「椅子の反映」が興味深い。椅子のミニチュアが並んだ板が回転していますが、そこに映る影が音符のように見える。椅子がまるで音符の一つとしてリズムを持つように動いているのです。


「大きな空気の人」 2007年

作家のギャラリートークが行われた日に観覧しました。会場内、歩きながら作品について語ることおおよそ2時間です。話もすこぶる面白く、最後まで聞き惚れてしまいました。

本人の手書きによる会場地図も参考になるのではないでしょうか。見る前と見た後では少し「世界」が違って見えるような展覧会、些細なはずの「日常」に実は新奇な発見と驚きが潜んでいることに気づかされます。期待以上でした。

「まばたきとはばたき/鈴木康広/青幻舎」

もう間もなく会期末です。10月19日まで開催されています。おすすめします。

「鈴木康広展 近所の地球」 水戸芸術館@MITOGEI_Gallery
会期:8月2日(土)~10月19日(日)
休館:月曜日。但し9月15日、10月13日(月・祝)は開館。9月16日、10月14日(火)は休館。
時間:9:30~18:00 *入館は17:30まで。
料金:一般800円、団体(20名以上)600円。中学生以下、65歳以上は無料。
住所:水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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