新日本フィル定期 「ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス」 メッツマッハー

新日本フィルハーモニー交響楽団 第531回定期演奏会(トリフォニー・シリーズ)

ツィンマーマン 管弦楽のスケッチ「静寂と反転」
ベートヴェン 「ミサ・ソレムニス」ニ長調

ソプラノ スザンネ・ベルンハルト
メゾ・ソプラノ マリー=クロード・シャピュイ
テノール マクシミリアン・シュミット
バス トーマス・タッツル
合唱 栗友会合唱団
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
指揮 インゴ・メッツマッハー

2014/10/4 14:00~ すみだトリフォニーホール



インゴ・メッツマッハー指揮、新日本フィル定期のベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」を聞いて来ました。

2013年に同フィルの「Conductor in Residence」に就任したインゴ・メッツマッハー。新シーズン開幕となる定期演奏会です。

さて曲はツィンマーマンの「静寂と反転」にベートヴェンの「ミサ・ソレムニス」。入口で解説の冊子をいただいた際、中に以下のような文章を記した一枚の紙が差し込まれていました。

「本公演では、指揮者の強い希望により、1曲目と2曲目の間には、途中休憩がございません。1曲目と2曲目は続けて演奏いたします。予めご了承ください。」

「静寂と反転」はおおよそ10分程度、しかしながらメインのミサソレが80分強の演奏時間であることを考えると、休憩があってもおかしくはない。そこを「指揮者の強い希望」により通して演奏する。もちろん希望とは何らかの演奏効果を意図してのことなのでしょう。一体どのような演奏になるのかと期待しながらともかくは耳を傾けてみることにしました。

結論から言えば、確かに1曲目と2曲目には切れ目がなかった。しかもほぼアタッカ、「静寂と反転」から間髪入れずにミサソレへと移行したのです。

「静寂と反転」は作曲家の最晩年の音楽です。「反転」とあるように、音の断片的なモチーフが現れては消えてゆく。解説に「幻聴」とありましたが、確かに細やかに変化する音楽の表情はどこか虚ろで、「静寂」というよりも「沈黙」が支配するような音楽でもあります。

そのラスト、張り詰めた緊張感の中でのピアニッシモ、ホールに溶けていくかのように静まった瞬間、今度はベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」が始まりました。どうでしょうか。キリエの静かながらも豊潤な響き、まるで「静寂と反転」が彼岸か宇宙の音楽とすれば、ミサソレはまさに地上、人間のための音楽です。曲は次第に力強くなり、鎮魂のためというよりも、生命賛歌を思わせるように高らかに鳴り響きます。

解説によれば両者に通底するのは「D」の音。確かに全く異なる音楽でありながらも、その連続に違和感はありません。天から地へと降りた音楽が、聞く者を優しく包み込む。かつてないほどにミサソレの冒頭が美しく聴こえてきました。

メッツマッハーに率いられた新日フィル、好演と言えるのではないでしょうか。ドライブ感があるからか、グローリアやクレドでのリズムも見事。それでいて単に力押し過ぎることはなく、先にも触れたピアニッシモ方向にも繊細な意識が払われている。合唱は男声に特に美しさを感じました。

実のところミサソレ、これまでなかなか馴染めない曲でしたが、今日ほど表情豊かに思えたことはなかったかもしれません。

メッツマッハーと新日フィル、これからもプログラミングを含めて期待出来るのではないかと思います。
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