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「桂ゆきーある寓話」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「桂ゆきーある寓話」
4/6-6/9



東京都現代美術館で開催中の「桂ゆきーある寓話」へ行ってきました。

「戦前と戦後を繋ぐ女性芸術家のパイオニア」(公式サイトより引用)桂ゆき(1913-1991)。コラージュに細密画、そして戯画から前衛、また立体表現まで。60年にわたる芸術家人生。実に多岐にわたっています。

その桂ゆきの全貌を「寓意表現」を通して展観。東京では初めてとなる包括的な回顧展が行われています。

さて桂、まず申し上げると、私自身、全く名前を存じ上げませんでした。ということでまずは一体、どのような作品が待ち構えているのか。

冒頭は何と日本画です。1926年に女学校を卒業した桂は日本画家の元で手習いを。その後、岡田三郎助のアトリエを訪ね、洋画に関心を向けていきますが、最初期は花や鳥を流麗に描いた日本画の画帖などを制作。漆を用いた作品などもあります。


「無題」1930年 写真/紙 おかざき世界子ども美術博物館

一方で制作の基盤となったのがコラージュです。写真をちぎっては画面に貼付けたり、時にコルクを並べあわせるなどして独特の平面を展開。1935年には海老原喜之助のすすめもあってコラージュによる初個展も開きました。

さらには児童書の挿絵も。そして次第におとぎ話の世界に接近。1948年には「さるかに合戦」という作品を残しています。


「抵抗」1952年 油彩/カンヴァス 東京都現代美術館

しかしながらおとぎ話や戯画とは言えども、単純に可愛らしいだけでないのが、桂の面白いところです。先にあげた「さるかに合戦」、背景を見るとまるでキュビズムでも思わせるような幾何学面が。


「人と魚」1954年 油彩/カンヴァス 愛知県美術館

なお二科展に出品した「人の魚」(1954年)も要注目。曲線を多様し、具象でありながらも抽象的な色面を構成。ちなみにこの作品はビキニ環礁の水爆実験をテーマとしたものだそうです。

さて戦後の桂ゆき、一つポイントになるのが約6年にも及ぶ海外滞在の経験です。1956年にパリへ渡り、当地の画家らと交流。さらに1958年には当時フランス領だった中央アフリカに寄宿したことも。最後にはニューヨークへと移って、2年近く絵画の制作を行いました。

そのニューヨークで制作、公開されたのが「Four Canvases」(1960年)。表裏2面の衝立て状の作品。今回初めて日本へ里帰りしたものです。

ここに見られるのは前衛と『和』が合わせ重なった表現。大きな黒い円に三つの黒い色面。何やら岡田謙三とも堂本尚郎とも。その他、この時期の作品にはロスコ風の抽象も。アメリカ現代美術の摂取を伺わせます。

帰国後は本の装幀や雑誌の挿絵の仕事を。また社会的なテーマを持つ作品を手がけているのも重要なポイントです。特にニューヨークの若者の問題を巡るボールドウィンの小説「もうひとつの国」(1963-64年)と、社会事業家の沢田美喜の自伝「黒い肌と白い肌」の(1963年)の挿絵は注目されました。


「おいも」1987年 油彩、紙/カンヴァス 個人蔵

これらで面白いのが被膜をまとう人が登場すること。この『被膜人間』は以降の桂の作品に多く出現します。


「無題」1985年 紅絹、綿 個人蔵

ラストは衝撃の展開です。何と展示されているのは赤い布で覆われた巨大な釜のオブジェ。1985年の個展では、女性の着物の裏地に使われる紅絹という素材で様々な道具を包んだ新作を発表します。なお釜は古くなった器物が捨てられて妖怪になった付喪神とも関係しているそうです。

[桂ゆき展関連レクチャー]

日時:4月27日(土) 講師:中村宏氏(画家)

日時:5月3日(金) 講師:湯本豪一氏(漫画史)

日時:5月11日(土) 講師:小勝禮子氏(栃木県立美術館学芸課長)

日時:5月18日(土) 講師:小谷野匡子氏(絵画保存研究所)

日時:5月25日(土) 講師:北澤憲昭氏(美術評論家)

日時:6月1日(土) 講師:Namiko Kunimoto氏(American University助教授)

会場:東京都現代美術館 企画展示室3階(桂ゆき展示室内)14時から。
*要観覧券。

日本画に始まり釜のオブジェに終わる桂ゆきの回顧展。前衛と日常、日本と西洋。その多様性。長きにわたる旺盛な制作には圧倒されました。

「余白を生きるー甦る女流天才画家/桂ゆき/清流出版」

6月9日まで開催されています。

「桂ゆきーある寓話」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:4月6日(土)~6月9日(日)
休館:月曜日。但し4月29日、5月6日は開館。4月30日、5月7日はは休館。
時間:10:00~18:00
料金:一般1000(800)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *「フランシス・アリス展」との共通券あり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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