ハンディサイズな障壁画(「寺院別障壁画の見かた」/宮元健次著)

定評のある「すぐわかるシリーズ」より、普段、あまりお目にかかれない障壁画を手元に寄せて見るのに適した一冊が発売されました。それが「寺院別障壁画の見かた」(宮元健次著)です。


「すぐわかる 寺院別 障壁画の見かた」

本来、障壁画は「建築の各要素や空間などを含めて総合的に鑑賞されるべきもの。」(本文より引用)ですが、この本ではその鑑賞の一助となるべく、作品の描かれた背景、もしくは建築物の空間把握などを簡潔に紹介しています。著者の宮元氏は、直近の「日本の美意識」の例を挙げるまでもなく、日本の建築物などを通して独自の文化論を唱えている美術史家です。その賛否はともかくも、実際に今回の本でも、有名な障壁画を写真で追うだけでなく、新書一冊分はあろうかというテキストにて、氏の文化認識を垣間見る形となっています。もちろん概論は入門的ですが、突っ込んだ部分は意外と個性的です。

「日本の美意識/光文社新書/宮元健次」

本書では次の建物の障壁画が紹介されています。

二条城
大徳寺
南禅寺
大覚寺
建仁寺
名古屋城
知恩院
妙心寺
桂離宮



とりわけ著名な二条城からして、障壁画の意味を汲み取るのに相応しい内容ではないでしょうか。不老長寿の松を将軍の居る大広間に、そして諸大名の控えの間には虎の絵を、また勅使の間には朝廷好みの紅葉や花の絵が描かれた例を挙げ、そこから当時の徳川政権と朝廷、諸大名との関係を浮き彫りにします。それに同じく二条城では、城と街全体の配置関係について触れた「二の丸御殿と庭園」も読み応え十分です。二条城は元々、宮廷の行事に用いられた神泉苑の地を中に引き込む形で建てられています。ここでも幕府がこの城に与えた役割を鑑みることが出来そうです。



また同じような建築の観点からでは、「東照宮の色彩」と題した、東照宮における狩野一派の色彩計画について書かれた部分も興味深いものがありました。若干、本筋からブレている気がしないではありませんが、こうしたミニコラムも、各絵師たちが注文主の意向を受け、どのように障壁画を描いていったのかが良く分かる仕掛けとなっています。江戸時代の画料(絵の画稿料)は探幽が一番高かったとは知りませんでした。またその画題も人物画、山水図、名所図、物語図、花鳥図の順で同じく画料が決まっていたのだそうです。この辺は単に絵を見ているだけでは分かりません。



障壁画のある部屋の見取り図が掲載されているのも特徴的です。残念ながら上から見た図のみでは、広さと配置こそ分かるものの、全体の障壁画のイメージが殆ど浮かびませんが、あくまでも空間芸術としての障壁画の構成を見るのには良いのかもしれません。

まずは書店にてご覧ください。
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