「近世初期風俗画 躍動と快楽」 たばこと塩の博物館

たばこと塩の博物館渋谷区神南1-16-8
「近世初期風俗画 躍動と快楽」
10/25-11/30



噂には聞いていましたが、まさかここまで充実した展示とは思いませんでした。近世初期、主に庶民風俗を描いた様々な屏風群を概観します。たばこと塩の博物館の「躍動と快楽」へ行ってきました。

手狭なスペースということで、いつもの如く量への期待は出来ませんが、質の面においては過去、同博物館で開催された一連の企画でも指折りであると言えるでしょう。まず壮観なのは「洛中洛外図」(国立歴史民俗博物館蔵)、通称「歴博甲本」です。これはおそらくは狩野元信一派が手がけたとされる、現存最古の洛中洛外図ですが、足利幕府末期の京都市中の賑わいの様子が、千三百人にも及ぶ登場人物によって華やかに表されています。表面にやや剥離している箇所もありましたが、細やかな線描による建物や人物の生き生きとした光景を見ると、当時の街の息づかいを肌で感じることが出来ました。金閣などの今も変わらぬ名勝をはじめ、喧嘩をしたり施しを受けたりする人など、都市のあらゆる階層が分け隔てない俯瞰的な視点で示されています。これを楽しむだけでもゆうに30分以上はかかってしまいました。

当時の息づかいと言えば、歴史物、ようは秀吉が宮中にて能の会を催した光景を描いた「観能図」(神戸市立博物館蔵)と、原本こそ失われたものの、模写として大阪冬の陣を臨場感に溢れた描写で示す、その名も「大阪冬の陣図」(東京国立博物館蔵)の二点を挙げないわけにはいきません。前者には、前景にせり出した舞台にて舞われる能を、御簾の奥の後水尾院、もしくは金の扇子を手にしながら得意げに座る秀吉らが眺める様子が描かれています。一方の「大阪冬の陣図」には、言わば戦いの『表』と『裏』が示されています。中央の天守閣に座る男女はおそらく淀君と秀頼だと思われますが、槍をもって合戦に明け暮れる足軽の姿はともかくも、何と城外の陣にて煙草を吹かす者や、そこへ食べ物を売りにくる人物の様子までが事細かに表されていました。血塗られた戦いの裏には、死と隣り合わせでありながらも、このようなごく普通の日常の光景が淡々と続いていたようです。まさに腹が減っては戦が出来ぬということなのでしょう。



たばこと塩の博物館とのことで、煙草に関係する光景を良く見ることが出来るのも興味深いところです。また「江戸名所遊楽図」(細身美術館蔵)など、普段なかなか見慣れない貴重な屏風もいくつか展示されています。これで入場料300円とは心底驚かされました。

展示は本日で終了します。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )