『美術館の春まつり』 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
『美術館の春まつり』
2023/3/17~4/9



千鳥ヶ淵や北の丸公園など桜の名所に立地する東京国立近代美術館にて、桜や春にちなんだ作品を公開する『美術館の春まつり』が開かれています。


杉浦非水『非水百花譜』 1920〜22年 国立工芸館

まず目を引くのは杉浦非水の『非水百花譜』で、100種類の花を描いた多色摺木版100点と、それぞれに対応した花の説明書、また同じ花をモノクロームのシルエットにした100点からなる図案集の木版でした。


杉浦非水『非水百花譜』 1920〜22年 国立工芸館

そこにはばらやあぶらな、ひなげしにしゃくやくなどの草花が瑞々しい色彩を伴って描かれていて、細部も図鑑さながらに精緻に表されていました。いずれも非水が原画を担当し、当時の一流の版画家が版画に仕立てたもので、資料ケースには花の説明書も展示されていました。


菊池芳文『小雨ふる吉野』 1914年

桜の時期に相応しい名品といえるのが菊池芳文の『小雨ふる吉野』で、桜の名所である吉野の光景を手前から奥へと鳥瞰的に表していました。


菊池芳文『小雨ふる吉野』(部分) 1914年

タイトルに小雨とありながら、かなりの雨が桜を濡らしていて、水を含むような花びらの描写に魅力を感じました。


鈴木主子『和春』 1936年

梨の花をモチーフにした鈴木主子の『和春』も優品といえるかもしれません。白い花をつけた梨の木がたんぽぽなどが生える地面の上に枝を伸ばしていて、やや鋭く屈曲する枝などは御舟の晩年の表現を連想するものがありました。


鈴木主子『和春』(部分) 1936年

鈴木は生涯にわたって植物を得意としていた画家で、本作に関しては展覧会に出展の際、審査員を務めていた清方が「しっかりして描写が行き届いた佳作」と高く評価しました。


船田玉樹『花の夕』 1938年

こうしたいわば緻密な描写による作品とは異なり、独特の表現を見せているのが船田玉樹の『花の夕』でした。一見、絵具を無造作に垂らして描いているように見えつつ、実は花のひとつひとつを筆でかたちをとっていて、鮮烈なマゼンタ色にも濃淡があるようすを目にすることができました。


児玉靖枝 作品展示風景

この他、展示の高さを変え、複数の作品でインスタレーションのように表現した児玉靖枝の桜をモチーフとした絵画も魅力に満ちていたかもしれません。淡い桜色が光と混じるように広がる光景から春を感じることができました。


なお『美術館の春まつり』では会期中、「春まつりオンライン・トークラリー」が実施されるほか、前庭にお休み処などが設置され、フードのテイクアウトなども行われます。詳しくは同館のWEBサイトをご覧ください。

4月9日まで開催されています。

『美術館の春まつり』 東京国立近代美術館@MOMAT60th
会期:2023年3月17日(金)~4月9日(日)
時間:10:00~17:00。
 *金・土曜は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。ただし3月27日は開館。
料金:一般500(400)円、大学生250(200)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』チケットでも観覧可。
住所:千代田区北の丸公園3-1
交通:東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分。
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『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』
2023/2/25〜4/9



三菱一号館美術館で開催中の『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』を見てきました。

ともに歌川国芳の門下だった浮世絵師、落合芳幾と月岡芳年は、幕末から明治にかけて浮世絵が衰退する中、新たな境地を求めて旺盛に制作を行っていきました。

その芳幾と芳年の画業をたどるのが『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』で、会場には大阪で浅井書店(後の泰山堂)を営んだ浅井勇助氏が収集した幕末明治の浮世絵の「浅井コレクション」を中心に、芳年収集で知られる「西井コレクション」、また国芳研究にて有名な「悳コレクション」など貴重な個人コレクション約200点が公開されていました。

まず最初のプロローグで目を引くのが、芳幾と芳年が14図ずつ分担した『英名二十八衆句』で、いわゆる「血みどろ絵」と呼ばれる歌舞伎や講談から引用される残酷なシーンなどが描かれていました。


芳年『藤原保昌月下弄笛図』 1883(明治16)年 北九州市立美術館

ともに武者絵の浮世絵師として活動をはじめた芳幾と芳年は、芳幾が『太平記英勇伝』において師のスタイルを忠実に模したのに対し、芳年は『武者无類』シリーズのように作風を革新的なものへと変えていて、いずれの作品からは互いの個性を見ることができました。


芳幾『柳光若気競 きん八』 1870(明治3)年 悳コレクション

芳幾の才能が最も発揮されたのは新聞錦絵における制作で、自ら発刊に関わった『東京日日新聞』では、ゴシップ的な記事の内容を錦絵に取り上げて一般の大衆より大きな人気を集めました。



この芳幾の成功により新聞錦絵に多くの追従者が生まれると、芳年も『郵便報知新聞』の錦絵を手がけていて、駆け落ちや心中といった記事へオーバーアクション気味ともいえる迫真的な絵を描きました。

今回の展示ではふたりの絵師のほかに師の国芳、また歌川貞秀や小林清親といった同時代の浮世絵師の作品も並んでいて、いずれも見応えがありました。


芳幾と芳年の肉筆画も思いの外に充実していたかもしれません。またラストに並んだ芳年の傑作、『月百姿』も魅力に溢れていました。

芳幾と芳年が切り開いた表現とは?三菱一号館美術館にて展覧会が開催中 | イロハニアート

4月9日まで開催されています。なお同館は本展を終えると、設備入替および建物メンテナンスのため長期休館します。(2024年秋頃の再開館を予定)

『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2023年2月25日(土)〜4月9日(日)
休館:3月6日(月)、3月13日(月)、3月20日(月)
時間:10:00~18:00。
 *金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1900円、高校・大学生1000円、中学生以下無料。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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『ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展』 日本橋高島屋S.C. 本館8階ホール

日本橋高島屋S.C. 本館8階ホール
『ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展』 
2023/3/1〜3/21



日本橋高島屋S.C. 本館8階ホールで開催中の『ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展』を見てきました。

1946年に生まれ、高島屋宣伝部でイラストレーターとして勤務したのち独立した織田憲嗣は、世界の貴重な名作椅子約1350種類を収集すると、北欧を中心とするテーブルや照明、また食器やおもちゃなどを約8千点のコレクションを築きあげました。

その織田コレクションをもとに北欧のデザインのを紹介するのが『ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展』で、会場には70名以上のデザイナーによる約300点の家具やテーブルウェアなどが公開されていました。



まずフィンランドのオイバ・トイッカのデザインした「トイッカの鳥」に続くのが「椅子と生きる」(第1章)と題したコーナーで、織田コレクションの椅子より選ばれた北欧デザインを代表する名作椅子が展示されていました。



そこにはデンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーの各国のデザイナーの椅子が並んでいて、素材や形状が異なりながらも有機的で美しい北欧の椅子のエッセンスを知ることができました。



第2章「デザインの源泉」ではデンマークのフィン・ユールをはじめ、フィンランドのアルヴァ・アアルトやティモ・サルパネヴァといった北欧を代表する10名のデザイナーの作品をまとめて紹介していて、それぞれの特徴や美意識の違いを見比べられました。



北欧の部屋を再現した「心の居場所」(第3章)が展示のハイライトといえるかもしれません。ここでは北欧の建材メーカーの窓枠や床材を使用してダイニングルームとリビングルームを築き、織田コレクションの家具を配置していて、さらに朝から夜へと移る1日を北欧の照明器具にて演出していました。



また再現展示の前には現行の商品によるアアルトやハンス J・ウェグナーの椅子も置かれていて、実際に座ることも可能でした。名作椅子に座りつつ、光の移ろいによって表情を変化させる部屋を見ていると、いつしか北欧の空間へと誘われるような気持ちにさせられるかもしれません。



このほか欧の生んだインテリアアクセサリーや食器などアートピースをデザイナーごとに紹介するコーナーも充実していて、北欧デザインの魅力に触れることができました。


一連のコレクションは現在、織田が文化芸術コーディネーターを務める北海道東川町にて公有化されていて、同地ではデザインミュージアムの設立準備室が開設されるなどして活動を続けてきました。


「ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展」【見どころ徹底レポート!】 | イロハニアート

3月21日まで開催します。なお東京での展示を終えると、ジェイアール名古屋タカシマヤ10階特設会場(2023年4月20日〜5月7日)と大阪高島屋7階グランドホール(2023年8月9日〜20日)へ巡回します。

『ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展』 日本橋高島屋S.C. 本館8階ホール
会期:2023年3月1日(水) 〜3月21日(火・祝)
休館:会期中無休。
時間:10:30~19:30 
 ※最終日は18時まで
 ※入場は閉場の30分前まで
料金:一般1000円、大学・高校生800円、中学生以下無料
住所:中央区日本橋2-4-1
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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『インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~』 たばこと塩の博物館

たばこと塩の博物館
『江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~』 
2023/1/21~4/9



たばこと塩の博物館で開催中の『江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~』を見てきました。

インドネシアで作られる絣織りの布であるイカットは、近年、伝統染織文化が見直される中、改めて国際的な評価を得るようになりました。

そのイカットの魅力を紹介するのが『インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~』で、会場には民族考古学者として沖縄やインドネシアなどの製塩技術を研究し、イカットを蒐集する江上幹幸(ともこ)氏のコレクションが展示されていました。



まず最初に並ぶのが江上氏の主な調査フィールドであるレンバタ島で蒐集したイカットで、赤茶系を主体としつつ、思いの外に多様な文様の施された腰衣や肩掛けなどを見ることができました。なおレンバタ島とはフローレス島の東にある島で、南のティモール島とともにイカットの産地として知られていました。



これらはいずれも手作りにて生産されていて、日常着や祭礼着として暮らしに根付きながら、いわゆる結納の品としても用いられていました。



このレンバタ島に暮らすのが、元々移住民であり捕鯨や製塩を行う海の民と、先住民で農業が主体の山の民で、互いに物々交換にて交易を行いながら、イカットを生産してきました。

またイカットの材料である綿や染料を持たない海の民は、山の民から綿や藍などを交易で入手してすることで初めてイカットを作ることができるなど、交易が極めて重要な意味を持っていました。



この交易の品でも特に尊ばれるのがクジラ肉で、展示では同島のラマレラの海の民によるクジラ肉を得るための伝統捕鯨と山の民との交易について、銛といった資料を交えてパネルや写真にて丹念に紹介していました。



出漁からクジラ獲得までの捕鯨のプロセスをはじめ、クジラ肉の分配方法などを解説したパネルも興味深い内容だったかもしれません。ラマレラでは世界で唯一の手投げ銛によるマッコウクジラ捕鯨が行われてきました。



このほかにもフローレス島とその東の島々、またティモール島西部で江上氏が蒐集してきたイカットも展示されていて、多彩なデザインを楽しむことができました。



インドネシアの島々の伝統的なイカットを見られるだけでなく、人々の交易や捕鯨といった生活文化までを紐解いた引き出しの多い展示だったのではないでしょうか。見応え十分でした。


撮影も可能です。4月9日まで開催されています。

『江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット~クジラと塩の織りなす布の物語~』 たばこと塩の博物館@tabashio_museum
会期:2023年1月21日(土)~4月9日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00。*入館は16時半まで。
料金:大人・大学生100円、小・中・高校生50円。
住所:墨田区横川1-16-3
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅より徒歩8分。都営浅草線本所吾妻橋駅より徒歩10分。東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成線・東武スカイツリーライン押上駅より徒歩12分。
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『速水御舟展』 茨城県近代美術館

茨城県近代美術館
『速水御舟展』 
2023/2/21~3/26



明治末期より昭和初期にかけて活動した日本画家、速水御舟は、写実や古典への回帰、また平面化など画風を変えながら絵を描き続け、のちの近代日本画の展開に大きな影響を与えました。

その御舟の画業を明らかにするのが今回の展覧会で、会場では本画約100点と素描30点を加えた計約130点の作品が公開されていました。

まず御舟が最初に絵を習ったのは、松本楓湖の主宰する安雅堂画塾でのことで、14歳の時に入門すると中国や日本の古典を模写するなどして技術を獲得しました。そして安雅堂の先輩であった今村紫紅と出会うと、古画だけでなく西洋の新しい絵画思想にも影響され、紫紅に倣った作品を描いていきました。

御舟が本格的に写実に取り込んだのは1918年頃からで、確かな証拠があるとはされていないものの、北方ルネサンスのデューラーや日本の岸田劉生の影響を伺える作品を手がけました。

その一つ結実とも言えるのが金屏風に描いた『菊花図』で、極めて精緻に菊の花を捉えながらも、西洋絵画を思わせる陰影や細部の鋭利な描写などからは、独自のえぐみとも呼べる味わいを見ることができました。


一方で『鍋島の皿に柘榴』や『茶碗と果実』などでは、モチーフそのもののを端正に絵画へと落とし込んでいて、日本画の顔料を用いながら果実や皿などの実在感を巧みに引き出していました。

このほか琳派への接近や渡欧時に描いた作品、さらには古典に回帰しつつも、モダンで抽象を思わせるような晩年への展開も興味深い内容だったかもしれません。それに御舟の真骨頂とも言うべき花卉画や花鳥画の優品も見ごたえがありました。



作品は東京国立近代美術館、福田美術館、遠山記念館といった全国各地の美術館をはじめ、個人蔵などを網羅していて、質量ともに充実していました。ただ全国屈指の御舟コレクションを誇る山種美術館の作品の出展はありませんでした。(パネルなどにて紹介。)



東京以外での御舟の大規模な回顧展は、2008年の平塚市美術館以降、15年ぶりのこととなります。

一部作品に展示替えがあります。3月26日まで開催されています。

『速水御舟展』 茨城県近代美術館@ibarakikinbi
会期:2023年2月21日(火)~3月26日(日)
休館:3月13日(月)。ただし所蔵作品展は開催。
時間:9:30~17:00 *入館は16:30まで。
料金:一般1100(1000)円、70歳以上550(500)円、大学・高校生870(730)円、中学・小学生490(370)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:水戸市千波町東久保666-1
交通:JR線水戸駅南口より徒歩20分。水戸駅北口8番のりばから払沢方面、または本郷方面行きのバスに乗車し「文化センター入口」下車徒歩5分。
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『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』 横須賀美術館

横須賀美術館
『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』
2023/2/11~4/9



横須賀美術館にて開催中の『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』を見て来ました。

1915年に生まれた土方重巳は、戦前から戦後を通してグラフィックデザイナーとして活動すると、映画のポスターから子ども向けのキャラクターデザイン、また絵本や企業広告など幅広い分野に業績を残しました。

まずはじめに並ぶのが土方が戦前から戦中に手がけた映画のポスターなどで、『白鳥の湖』や『ハムレット』といった舞台公演のポスターも目立っていました。東宝映画会社に入社した土方は、同社の映画のポスターから広告、チラシのデザインを担っていて、戦後に退社した後は他社の演劇やバレエのグラフィックデザインも制作しました。

1949年、劇作家の飯沢匡の勧めによって子ども向けの仕事を手がけるようになると、童画の制作からラジオ、テレビ番組の仕事も担い、とりわけNHKテレビ『おかあさんといっしょ』の人形劇「ブーフーウー」をはじめ、「ダットくん」や「とんでけブッチー」人形劇のデザインで人気を集めました。

さらに構成と文章を飯沢、デザインを土方、また人形制作を川本喜八郎が担った『人形絵本』では、ヨーロッパやアメリカを中心とする世界78ヶ国にて80種類の作品が出版されるなど海外でも評価を得ました。

こうした子ども向けの仕事と並び、土方が旺盛に制作していたのが企業広告やテレビCMの分野で、朝日麦酒のキャラクター人形や花王や大丸、ヤマハといった企業のためのデザインを手がけました。



その企業向けの仕事で今もよく知られるのが、1959年に佐藤製薬の店頭ディスプレイ人形として発表されたサトちゃんで、展示では「サトちゃんワールド」と題し、多くのサトちゃんをはじめ、チラシやデザインの原画が紹介されていました。



これほど知名度のある製薬メーカーのキャラクターも他に存在しないかもしれません。なお「サトちゃんワールド」については撮影も可能でした。


土方重巳の世界展が開催中。あの「サトちゃん」の生みの親! | イロハニアート



4月9日まで開催されています。

『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』 横須賀美術館@yokosuka_moa
会期:2023年2月11日(土)~4月9日(日)
休館:3月6日(月)、4月3日(月)。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生・65歳以上800(640)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *市内在住または在学の高校生は無料。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで
住所:神奈川県横須賀市鴨居4-1
交通:京急線馬堀海岸駅1番乗り場より京急バス観音崎行(須24、堀24)にて「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」下車、徒歩約2分。
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『エゴン・シーレ展』 東京都美術館

東京都美術館
『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』
1/26~4/9



東京都美術館で開催中の『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』を見てきました。

1890年に生まれ、世紀末を経たウィーンにて活動したエゴン・シーレは、人間の内面や性を描き出すと、28歳という短い生涯を駆け抜けました。

そのシーレの世界有数のコレクションで知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心としたのが『エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』で、シーレの油彩画とドローイング約50点に加え、クリムトといった同時代作家たちを含む約120点の作品が公開されていました。

まず冒頭ではシーレが16歳の時に描いたドローイングや、母のすがたを捉えた肖像画などが展示されていて、16歳にてウィーンの美術アカデミーに合格した早熟ともいえる画才を見ることができました。それに続くのがウィーン分離派を設立した頃の作品で、平面的な構図や金や銀を用いた技法に、シーレの才能を見抜いたクリムトの影響が伺えました。

今回の展覧会ではシーレとともに、モーザーとゲルストル、ココシュカらの作品が一定数まとめて展示されていて、モーザーの色彩鮮やかな風景画や、表現主義の先駆者とされるゲルストルの肖像画に魅せられました。



シーレで特に目立っていたのは自画像をはじめとする肖像の作品で、『ほおずきの実のある自画像』における攻撃的とも怯えているような眼差しからは、画家の自信と不安といった多感な感性が滲み出ているかのようでした。

また女性像や裸体の作品も魅惑的で、とりわけ鉛筆やチョーク、グワッシュを用いて描かれた裸体のドローイングからは、強い官能性とともに、日本の浮世絵にも影響を受けたという独自の空間表現を見て取れました。


エゴン・シーレ『吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)」 1912年 レオポルド美術館

人物画の印象の強いシーレの風景画も面白いかもしれません。シーレは1910年に南ボヘミアのクルマウへ短期間移り住むと、同地の古風な街並みなどを繰り返し描きました。


エゴン・シーレ『モルダウ河畔のクルマウ』 1914年 レオポルド美術館

またノイレングバッハ、トリエステ、トラウン湖、ケルンテン地方などを訪ねると、自然や田舎の風景を表した作品を制作しました。


エゴン・シーレ『小さな街 Ⅲ』 1913年 レオポルド美術館

ただシーレは風景を自らの心象を投影するように風景を再構成したり、平面性や装飾性を強調するなどしていて、単に写生して描いていたわけではありませんでした。


エゴン・シーレ『ドナウ河畔の街シュタイン II』 1913年 レオポルド美術館

そのうちの『ドナウ河畔の街シュタイン II』では、シュタインの特徴的な建物を選び、自ら好きなように再編成して描いて、いわばコラージュのような風景を絵画平面へと築いていました。


エゴン・シーレ『荷造り部屋』 1917年 レオポルド美術館

28歳の短い生涯を駆け抜ける。世紀末のウィーンが生んだ異才、エゴン・シーレの画業|Pen Online

シーレの画業や足跡を中心としながら、ウィーン世紀末の芸術を俯瞰できる好企画ではないでしょうか。作品点数も多く、かなり見応えがありました。


オンラインでの日時予約制です。チケットカウンターでも直近の時間枠による当日券が発売されますが、予定枚数が終了している場合があります。



シーレの風景画の展示コーナーのみ撮影が可能です。4月9日まで開催されています。おすすめします。

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』(@schiele2023jp) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般2200円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1500円、高校生以下無料。
 *オンラインでの日時指定予約制。
 *平日限定ペア割(枚数限定)3600円。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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『トンコハウス・堤大介の「ONI展」』 PLAY! MUSEUM

PLAY! MUSEUM
『トンコハウス・堤大介の「ONI展」』
2023/1/21〜2023/4/2



PLAY! MUSEUMで開催中の『トンコハウス・堤大介の「ONI展」』を見てきました。

2014年に当時ピクサーで同僚だった堤大介とロバート・コンドウが立ち上げたアニメーションスタジオ「トンコハウス」は、デビュー作『ダム・キーパー』がアカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートされるなどして注目を浴びました。

その堤が監督を務め、2022年秋にNetflixにて公開されたのが長編アニメーション『ONI ~ 神々山のおなり』 で、日本の鬼を題材に、森に暮らす妖怪や神々たちが心に潜む恐れと向き合いながら成長する物語が描かれました。



まず会場で紹介されるのが、10歳の女の子で主人公のおなりと父とされるなりどんで、人形やアニメーションの映像を通して『ONI』の世界観を知ることができました。



一連の映像にて目を引くのが、トンコハウスによる美しい自然描写と光と陰影の映像表現で、空調によってゆらゆらと揺れる手漉きの和紙へとアニメを投影した展示では、まるで作品の中の風や光の移ろいまでが再現されているかのようでした。



今回の展覧会は映像作家の菱川勢一とブルーシープが共同で手がけたもので、手づくりの和紙提灯やお面、それに凧や祭りやぐらなど日本の伝統的なものと『ONI』の映像美とが一体となって、異空間へトリップできるように作られていました。



鬼の村とおなりが住む神々山をつなぐ「戻り橋」を進む広がるのが「迷いの森」で、その先には物語のハイライトに登場するやぐらが設置され、作品のさまざまな場面が映像にて紹介されていました。



またここでは森の中の精霊であるモリノコに関する演出も行われていて、実際に太鼓を叩いて光を生み出すこともできました。



こうした空間演出のほかに充実していたのは、『ONI』の制作プロセスを紹介したメイキングの展示でした。



そこにはパイロット版のためにつくられたコマ撮り用の人形やスタジオセットから、キャラクターを描いたスケッチ、またカラースクリプトやライティングといったトンコハウスの映像づくりがパネルなどにて紹介されていて、どのように『ONI』が着想され、映像化していったのかをたどることができました。



会場の最後には特設シアターが設けられていて、『ONI』をはじめとしたトンコハウスの4つアニメーション作品が紹介されていました。なお『ONI』は1日数回時間指定で、会期中期間を区切って全4話が上映されます。スケジュールは公式サイトをご確認ください。



トンコハウス・堤大介の「ONI展」の見どころレポート! | イロハニアート

事前に『ONI』の内容を知らずとも楽しめるように工夫されていますが、先にアニメーションを鑑賞した上で展示を見た方がより面白いかもしれません。みんなで「どんつこつこつこ わっしょい!わっしょい!」と歌うラストの感動的なシーンが蘇りました。



会場内はシアターを除いて撮影も可能です。


4月2日まで開催されています。

『トンコハウス・堤大介の「ONI展」』 PLAY! MUSEUM@PLAY_2020
会期:2023年1月21日(土)〜2023年4月2日(日)
休館:会期中無休。ただし3月5日(日)を除く
料金:一般1800円、大学生1200円、高校生1000円、中・小学生600円、未就学児無料。
 *当日券で入場可。ただし休日および混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)を販売。
時間:10:00~17:00。
 *土日祝は18:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 2F
交通:JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約10分
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『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』 森美術館

森美術館
『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』
2022/12/1~2023/3/26

森美術館で開催中の『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』を見てきました。


呉夏枝(オ・ハヂ) 展示風景

3年に1度、森美術館が日本の現代アートシーンを総覧する『六本木クロッシング』展も、今年度で第7回を数えるに至りました。

今回のサブタイトルは「往来オーライ!」で、コロナ禍で途絶えてしまった人々の往来を再び取り戻したいという願いを込め、1940年代から1990年代生まれの日本のアーティスト22組の作品約120点が展示されていました。


O JUN 展示風景

まずトップバッターをつとめたのは画家のO JUNで、肖像画や風景画とともにビル群の模型など複数の作品からなる「マチトエノムレ」と題するインスタレーションを公開していました。


青木千絵 展示風景

このO JUNと対になるスペースで展示を行っていたのが彫刻を手がける青木千絵で、いずれも人体の一部と思しき造形に漆を施した立体作品を見せていました。接地しているかと思いきや、吊られてわずかに宙に浮いていたりするなど、作品の見せ方も面白く感じられました。


横山奈美 展示風景

横山奈美のネオンサインを描く絵画も印象深かったかもしれません。これは身近な人物に「History」や「Love」の言葉を手書きしてもらい、それを元にしたネオンサインを発注し、さらにネオンを写実的に描いたもので、まるでネオンサインの光がキャンバスから「love」のメッセージとともに空間へ滲み出ているように思えました。


市原えつこ 展示風景

市原えつこの『未来SUSHI』も目立っていたのではないでしょうか。ロボットのペッパーくんの周りに配置されたコンベアの上には「下級国民用寿司」といったディストピアを思わせるネタの寿司が回っていて、未来の寿司の消費のあり方について考えさせれるものがありました。


石内都 展示風景

写真家の石内都は私的に親しみのある場所や身近なモチーフを写した作品を展示していて、慣れ親しんだという神奈川県の金沢八景やプリントを行った暗室、また自らの身体を捉えた写真を見ることができました。スケールやモチーフの異なる写真が断片的に連なるようすを目にしていると、どこか一編の詩が紡がれているような味わいも感じられました。


SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD 展示風景

「風景にノイズを起こす」をテーマに公共空間を舞台としたプロジェクトを手がけるSIDE COREと、匿名のアーティストにより結成されたEVERYDAY HOLIDAY SQUADによるインスタレーションも迫力がありました。


SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD 展示風景

ここではいずれも都市の風景から着想を得た夜間工事用の照明機材が用いていて、福島県より発信されるという時計の標準電波と同期する赤い工事現場のライトが点滅を繰り返していました。


青木野枝 展示風景

鉄を素材にリング状をオブジェを手がける青木野枝の作品も見応えがあったかもしれません。鉄本来の持つ重厚感を見せながらも、水泡を想起させるような浮遊感も同時に表されていて、独特の魅力をたたえていました。


3月26日まで開催されています。

『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』 森美術館@mori_art_museum
会期:2022年12月1日(木)~2023年3月26日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。
 *12月6日(火)は16時、1月3日(火)と3月21日(火・祝)は22時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:[平日]一般1800(1600)円、高校・大学生1200(1100)円、4歳~中学生600(500)円、65歳以上1500(1300)円
[土・日・休日]一般2000(1800)円、高校・大学生1300(1200)円、4歳~中学生700(600)円、65歳以上1700(1500)円。
 *( )内はオンラインチケット料金。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
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『山下麻衣+小林直人 −もし太陽に名前がなかったら−』 千葉県立美術館

千葉県立美術館
『山下麻衣+小林直人 −もし太陽に名前がなかったら−』
2023/1/25~3/21



千葉県立美術館で開催中の『山下麻衣+小林直人 −もし太陽に名前がなかったら−』を見てきました。

千葉県出身のアート・ユニットの山下麻衣+小林直人は、映像やインスタレーションなどを制作し、国内外にて個展を開いてきたほか、芸術祭に参加するなどして活動してきました。


『Artist’s Notebook』 2014年〜

その山下と小林の国内では過去最大規模の個展が『山下麻衣+小林直人 −もし太陽に名前がなかったら−』で、初期作から近作に至るビデオ、インスタレーション、絵画など57点の作品が公開されていました。



まず目を引くのはガーゼマスクによるスクリーンに映された『NC_045512』で、リゾート地を思わせる海辺の景色を背景に小林がひたすらアルファベットを書き連ねていく様子が映されていました。


『NC_045512』 2023年

その文字列とは新型コロナの最初に検出されたウイルスのゲノム情報の塩基配列で、いずれも山下が読み上げながら小林に文字列の情報を提供していました。データにして29.9キロバイトながらも、29000以上もの文字に表されていて、すべて書くまでに約13時間もかかるということにも驚かされました。


『世界はどうしてこんなに美しいんだ』 2019年

自転車のペダルを漕ぐことで表現を行ったのが『世界はどうしてこんなに美しいんだ』などの3点の映像で、表題の作品では瀬戸内の夕陽と美しい風景を背景に疾走する自転車を長回しで捉えていました、



いずれの映像も車輪にLEDホイールライトが付けられていて、残像効果によって風景にメッセージを添えるように言葉が浮き上がっていました。

なお同作においてのメッセージは、ヴォクトール・フランクルによるユダヤ人強制収容所の記録『夜の霧』から、明日の生もわからない囚人が夕焼けを見た瞬間に口にした言葉を引用していました。



千葉の土地を舞台にしたのが『大地から作った1本のスプーン』と題したインスタレーションで、山下と小林が九十九里浜の飯岡海岸にて砂鉄を集め、そこから鉄を抽出して1本のスプーンを作る様子が映されていました。


『大地から作った1本のスプーン』 2009年

磁石を用いて砂鉄を集め、スプーンを作り出していく行為は、まさに「無から何かを生み出すこと」を体現していて、小さなスプーンには途方もない労力の痕跡が示されているかのようでした。


『1000WAVES』 2007年

ドイツのバルト海に面した海岸にて、打ち寄せる波を1000まで数えた映像『1000WAVES』も印象に深いかもしれません。そもそもどの波を1にするかも曖昧でありつつ、数えること自体が無意味に感じられながら、しばらく映像を追っているといつしか山下と小林のように波を数えている自分に気づきました。

山下と小林が自然に向き合い、人との関係を問い直しつつ、ひたむきに表現していくすがたそのものも面白いのではないでしょうか。自然や社会の様々な現象について、自らの行為を媒介として捉え直そうとするふたりの制作のスタンスを伺い知ることができました。


3月21日まで開催されています。

『山下麻衣+小林直人 −もし太陽に名前がなかったら−』 千葉県立美術館@chiba_pref_muse
会期:2023年1月25日(水)~3月21日(火・祝)
休館:月曜日。2月28日(火)
時間:9:00~16:30。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般300(240)円、高校・大学生150(120)円、中学生以下、65歳以上無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *第4期コレクション展 「名品4-旧制千葉中学から広がる堀江正章の系譜-」との共通券
住所:千葉市中央区中央港1-10-1
交通:JR線・千葉都市モノレール千葉みなと駅より徒歩約10分。
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『加藤泉一寄生するプラモデル』 ワタリウム美術館

ワタリウム美術館
『加藤泉一寄生するプラモデル』
2022/11/6〜2023/3/12



ワタリウム美術館で開催中の『加藤泉一寄生するプラモデル』を見てきました。



1969年に生まれた美術家の加藤泉は、2000年代から主に人型をした木彫を発表すると、ソフトビニール、石、布など幅広い素材を用いて作品を制作してきました。



その加藤がコロナ禍の中、じっくり向き合ったというプラモデルを中心に構成されたのが『加藤泉一寄生するプラモデル』で、「ジオラマ」シリーズをはじめ、木版画や石の作品などが展示されていました。



「ジオラマ」シリーズとは、ビンテージプラモデルと木彫を取り入れた作品で、山や海、草地などを木で象った上に、ソフトビニールによる人型とプラモデルが組み込まれていました。どことなくシュールな雰囲気も面白いかもしれません。



また人の顔をしつつ、4本の脚で馬のように立つ木彫の背中に、ゴリラや鳥などのプラモデルが乗っている大型の彫刻も目立っていました。一般的にプラモデルはつなぎ目を消すものの、あえて強調するように残しているのも興味深く感じました。



今回の個展で最も面白く思えたのが、『オリジナル・プラスチックモデル』と題されたプラモデルの作品でした。



これは加藤が重要な素材として用いる石をプラモデルに仕立てたもので、プラスチックのパーツだけでなく、パーツに貼るデカールから作品解釈を記したポスター、また組立説明書、さらに次回作を予告した箱までも作って展示していました。

自作の石をプラモデル化し、さらにひとつのパッケージとして見せるアイデアそのものも大変にユニークではないでしょうか。昔のプラモデルをオマージュしたようなビンテージ風の箱といった細部の作り込みにも大いに目を引かれました。



ワタリウム美術館より外苑西通りを挟んだ屋外のスペースでも、石を用いた人型の作品が公開されていました。これは宮城県石巻市にて開かれた『リボーンアートフェスティバル 2021-22』に出展されたもので、同地の採石場で取り出された稲井石を素材としていました。


石がプラモデルに!? 新たな素材と表現に挑戦する美術家、加藤泉の創作世界|Pen Online



3月12日まで開催されています。

『加藤泉一寄生するプラモデル』 ワタリウム美術館@watarium
会期:2022年11月6日(日)〜 2023年3月12日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00 
 *毎週水曜日は21時まで開館。
料金:一般1200円、25歳以下(学生・高校生)及び70歳以上1000円、小・中学生500円。
 *ペア券:大人2人2000円。
住所:渋谷区神宮前3-7-6
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩8分。
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『中﨑透 フィクション・トラベラー』 水戸芸術館

水戸芸術館 現代美術ギャラリー
『中﨑透 フィクション・トラベラー』 
2022/11/5~2023/1/29



水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中の『中﨑透 フィクション・トラベラー』を見てきました。

1976年に生まれた美術家、中﨑透は、絵画やドローイング、また看板をモチーフとした作品を手がけ、言葉や認識の中に生じる「ズレ」をテーマに多様な活動をしてきました。



その中﨑が生まれ育った茨城県水戸市の水戸芸術館にて開かれているのが『中﨑透 フィクション・トラベラー』で、絵画から過去のインスタレーションの再構成、はたまたカラーアクリルと蛍光灯による近年の立体などが展示されていました。



まず今回の個展で面白いのは単に作品を回顧的に示すのではなく、美術館そのものをモチーフに、水戸および同館にまつわる物語が展開していることで、水戸市界隈に住む30代から70代の5名に行ったインタビューをもとに制作されました。



このインタビューをもとにしたテキストが会場の壁の随所に展示されていて、いずれも水戸や水戸芸術館にまつわる過去の出来事や思い出、また個人的で曖昧な記憶などが記されていました。



はじめは戦前の水戸で防空壕に入った記憶や戦後の配給などのエピソードが綴られていて、それとともにテキストの一部を引用した中﨑による絵画や紅白幕を用いた作品などが並んでいました。



会場の中央で行手を遮るかのように展示されたのが鉄パイプの足場を組んだインスタレーションで、そこでは水戸芸術館の設計から誕生、また館長の選任から建設への反対運動など、いわば美術館の成り立ちがテキストにて示されていました。



この一連のインタビューと中﨑の作品を交互に追っていくと、水戸と美術館、そして同地に関する人々や中﨑本人の生き様などが浮かび上がるようで、物語は自叙伝的要素を含みつつ、あたかも虚構と現実がないまぜになるかのようにして重層的に展開していました。



中﨑の活動の中核の1つである「看板屋なかざき」の看板の作品も目立っていたかもしれません。新旧の作品とテキストが交差する展示室を歩いていると、過去から未来へと紡がれた水戸のもう1つの物語の中を旅しているかのようでした。


一部の作品を除いて撮影が可能でした。



会期も残すところ約1週間となりました。1月29日まで開催されています。

『中﨑透 フィクション・トラベラー』 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(@MITOGEI_Gallery
会期:2022年11月5日(土)~2023年1月29日(日)
休館:月曜日。年末年始(12月26日~1月3日)、ただし1月9日(月・祝)は開館し、1月10日は休館。
時間:10:00~18:00 
 *入館は17:30まで。
料金:一般900円、団体(20名以上)700円。高校生以下、70歳以上は無料。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
交通:JR線水戸駅北口バスターミナル4~7番のりばから「泉町1丁目」下車。徒歩2分。
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『ドリーム/ランド』 神奈川県民ホールギャラリー

神奈川県民ホールギャラリー
『ドリーム/ランド』
2022/12/18~2023/1/28



ランドとドリームの2つのキーワードを起点に、現代アーティストが作品を展示する展覧会が、神奈川県民ホールギャラリーにて開かれています。



それが『ドリーム/ランド』で、青山悟、枝史織、角文平、笹岡由梨子、林勇気、山嵜雷蔵、シンゴ・ヨシダの各アーティストが、刺繍や油絵、日本画、彫刻、映像などの幅広いジャンルの作品を公開していました。



工業用ミシンを用い、精緻な刺繍を素材にした作品を手がける青山悟は、1万円札と1ドル札をモチーフとしたインスタレーションを展開していて、ジュラルミンケースの中では刺繍を制作する様子を捉えた映像も見ることができました。



生花と顔面をモチーフにした人形たちが歌う笹岡由梨子の『パンジー』も賑やかかもしれません。色とりどりの電飾などで彩られた人形たちは、奇怪でありながらも親しみも覚え、ユーモラスでかつ哀愁を帯びた表情をしていました。



奇岩ともいえるような島を岩絵具で描いたのが、複数の視点から捉えた空間を繋ぎ合わせた風景画のシリーズで知られる日本画家の山嵜雷蔵でした。



いずれもほぼ揺らぎのない水面の上に、まるで宙に浮くかのようにして島が静かに横たわっていて、幻想的な雰囲気に包まれていました。それこそ島へ向かえばもう戻ることのできない彼岸が広がっているようにも感じられました。



日常的な素材を用いつつ、本来のものの持つ機能や意味をずらし、新たな意味を与える彫刻を制作する角文平の『Monkey trail』と題したインスタレーションも充実していたのではないでしょうか。



さまざまなオブジェが一本の道の左右にジオラマのように広がっていて、最奥部には惑星を思わせる巨大な球体とアンテナをつけた家などの建造物が宙に浮いていました。



ハイライトを飾るのが、階段のある吹き抜けの大空間にて展示された林勇気の映像インスタレーション、『another world - vanishing point』でした。



自ら撮影した膨大な量の写真をコンピュータに取り込み、切り抜き重ね合わせることで映像を作る手法で知られる林は、ここで5000ものアイテムを空間全体へ投影していて、暗闇の中で次第にスピードを加速させるようにぐるぐると巡っていました。


その無数のアイテムの回転に身を委ね、速度を上げては渦巻く光景を目にしていると、いつしかアイテムの波に飲まれて自身も消えゆくような錯覚に陥りました。この特徴的な巨大空間だからこそ成し得た迫力ある映像インスタレーションといえるかもしれません。

水曜日がお休みです。1月28日まで開催されています。

『ドリーム/ランド』 神奈川県民ホールギャラリー@kanaken_gallery
会期:2022年12月18日(日)~2023年1月28日(土)
休館:水曜日、年末年始(12月30日~1月4日)
時間:11:00~18:00
料金:一般800円、学生・65歳以上500円、高校生以下無料。
住所:横浜市中区山下町3-1
交通:みなとみらい線日本大通り駅3番出口より徒歩約6分。JR線関内、石川町両駅より徒歩約15分。横浜市営地下鉄関内1番出口より徒歩約15分。
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『特別企画「大安寺の仏像」』 東京国立博物館 本館11室

東京国立博物館 本館11室
『特別企画「大安寺の仏像」』
2023/1/2~3/19


重要文化財『不空羂索観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

東京国立博物館 本館11室で開催中の『特別企画「大安寺の仏像」』を見てきました。

奈良時代に7つの大寺院の筆頭とされた大安寺は、国家によって造営された日本最初の国立寺院として知られ、日本の仏教の歴史上にとって重要な役割を果たしました。

その大安寺に伝わる奈良時代の仏像を紹介するのが『特別企画「大安寺の仏像」』で、重要文化財7件を含む8躯の仏像に加え、同寺に出土した奈良時代の瓦などが展示されていました。


重要文化財『多聞天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

まず会場の入口にて展示されていたのが四天王立像のうちの『多聞天立像』で、左手を腰に当てつつ右手を振り上げながら、憤怒の表情にて人を見下ろすように立っていました。


重要文化財『多聞天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

幅と奥行きのある体つきは重厚感があり、兜や胸の甲には中国の唐に由来するという緻密な文様が刻まれていて、右足を曲げているからか躍動感も感じられました。


重要文化財『増長天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

同じように右手を振り上げながらもやや落ち着いた表情を見せるのが、同じ四天王立像のうちの『増長天立像』で、顎を引きつつ両足を開いてはどっしりと直立していました。

大安寺の四天王立像はいずれも体が太めに表され、甲には装飾的な文様が象られているのが特徴で、像の高さや作風に違いが見られるものの、奈良時代の後期の頃に造られました。


重要文化財『楊柳観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

奈良時代の木彫の中でも優れた作例とされるのが『楊柳観音菩薩立像』で、目尻を上げつつ憤怒の表情をしながら、均整のとれた体躯を見せつつ立っていました。また口の開きと連動して上がるこめかみといった筋肉をはじめ、衣の柔らかな表現などに豊かな造形感覚を見ることができました。


重要文化財『広目天立像(四天王立像のうち)』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

大安寺の木彫群はいずれも頭部から足下の台座までを一材から彫り出していて、『楊柳観音菩薩立像』や『聖観音菩薩立像』における腕や胸の飾りも体と同じ木から彫られていました。


重要文化財『聖観音菩薩立像』 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺

この『聖観音菩薩立像』の物静かながらも微かに笑みを浮かべた表情も魅惑的だったかもしれません。やや上目を向いて遠くを眺めるようなすがたにはどことなく哀愁すら感じられました。


『単弁蓮華文軒丸瓦』 奈良時代・8世紀 他

会場は本館の玄関より右手すぐの11室です。総合文化展(常設展)の料金にて観覧することができます。


撮影も可能でした。3月19日まで開催されています。

『特別企画「大安寺の仏像」』 東京国立博物館 本館11室(@TNM_PR
会期:2023年1月2日(月・休)~3月19日(日)
休館:月曜日。1月10日(火)、2月7日(火)。ただし1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
 *総合文化展観覧料
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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『博物館に初もうで 2023』 東京国立博物館

東京国立博物館
『博物館に初もうで 2023』
2023/1/2~1/29



お正月に際し、吉祥主題や干支に因んだ作品などを公開する『博物館に初もうで』も、今年で20年目を数えるに至りました。

まず平成館の企画展示室では特集「兎にも角にもうさぎ年」が開かれていて、兎に角うさぎ、月のうさぎ、波に乗るうさぎをはじめとする5つのテーマより、うさぎをモチーフとした日本や東アジアの造形作品が紹介されていました。


『染付水葵に兎図大皿』 伊万里 江戸時代・19世紀

『染付水葵に兎図大皿』は、幕末に焼かれた伊万里焼の大皿で、会話をしているようなかわいらしい2羽のうさぎがレリーフ状に表されていました。前面のうさぎと水葵や流水による賑やかな背景とのコントラストも魅力かもしれません。


『染付兎形皿』 御深井 江戸時代・19世紀

『染付兎形皿』とは、名古屋城内に築窯された御深井焼の一種とされる皿で、胴体を桃のような形にとり、正面を向いたうさぎを象っていました。くり抜かれた両目の眼差しもユニークで、ちょうどうさぎが伏せて丸まっているようなすがたに見えました。


『金茶糸素懸威波頭形兜』 江戸時代・17世紀

波とうさぎを意匠にした『金茶糸素懸威波頭形兜』も目立っていたかもしれません。うさぎは素早く、多産であることから戦国武将にも好まれていて、こうした大胆な造形を見せる兜が作られました。


『仏涅槃図』 鎌倉時代・14世紀

「うさぎはどこだ」として紹介された鎌倉時代の『仏涅槃図』も興味深いのではないでしょうか。釈迦が亡くなった時の様子を描いた作品には、身を横たえる釈迦とともに菩薩や羅漢、それに多くの動物たちが描かれていて、馬の近くにはうさぎのすがたも見ることができました。


尾形光琳『竹梅図屏風』 江戸時代・18世紀

こうした特集「兎にも角にもうさぎ年」の他にも、本館の各展示室では日本や東洋の吉祥模様の作品が展示されていて、松竹梅より竹と梅を表した尾形光琳の『竹梅図屏風』や白梅と布袋を描いた酒井抱一の『扇面雑画』に魅せられました。


酒井抱一『扇面雑画 白梅』 江戸時代・18〜19世紀

また通常、新春に国宝室にてお披露目される長谷川等伯の『松林図屏風』は、江戸の屏風などを展示する本館7室にて公開されていました。


長谷川等伯『松林図屏風』 安土桃山時代・16世紀 展示風景

昨年に開催された『国宝 東京国立博物館のすべて』でも人気を集めた東博屈指の名品だけに、これを目当てに『博物館に初もうで』を訪ねる方も多いのかもしれません。


伊藤若冲『玄圃瑤華』 江戸時代・明和5(1768)年

一方の国宝室では伊藤若冲の『玄圃瑤華』全48図のうち「蕪・鳳仙花」や「紫陽花・冬葵」など数点が公開されていて、若冲ならではの大胆な構図や植物や虫の生き生きとした様態を見ることができました。


伊藤若冲『玄圃瑤華』 江戸時代・明和5(1768)年

仙人の居どころである玄圃、そして玉のように美しい花の瑤華を意味する同作は、草花や野菜、昆虫などを組み合わせて描いた拓版画で、若冲53歳の時に制作されました。とりわけ穴の開いた葉をはじめ、渦を巻くような植物の茎やつたなどに若冲の遊び心と画才が感じられるかもしれません。


『振袖 紺平絹地御簾檜扇模様』 江戸〜明治時代・19世紀

出展作品により展示期間が異なる場合があります。詳しくは博物館の公式サイトをご覧ください。*『松林図屏風』は15日まで公開。


今年もコロナ禍前に行われていた獅子舞や和太鼓の演舞は取りやめとなりました。来年こそはより華やかなお正月を迎えられればと願ってなりません。



1月2日よりはじまった特別企画『大安寺の仏像』が想像以上に見応えがありました。改めて別のエントリにてご紹介したいと思います。

1月29日まで開催されています。

『博物館に初もうで 2023』 東京国立博物館@TNM_PR
会期:2023年1月2日(月・休)~1月29日(日)
休館:月曜日。ただし1月3日(月)、1月10日(月・祝)は開館。1月4日(火) 、1月11日(火)。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000円、大学生500円、高校生以下無料。
 *総合文化展観覧料
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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