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news commentary

熊手であぶく銭

2023-12-10 16:50:37 | 政治

11月の浅草・鷲神社の酉の市は熊手。熊手でお金をかき集められますようにという縁起ものである。新年10日の大阪・夷神社の十日えびすの縁起物は福笹――商売繁盛笹もってこい。

商売をする人が縁起と実利を願って自民党派閥のパーティー券を買った。派閥の国会議員が派閥の割り当てで政治資金パーティー券を売った。ノルマを超えたぶんはピンハネ――洋風にいえばキックバック、少し品のいい日本語表現では「還流」――を享受した。むかし収入増を目論んでローマ・カトリックの教皇庁が免罪符を売り、その悪辣な手口への批判がプロテスタント教会の誕生につながった。

12月10日の朝日新聞一面に松野官房長官、西村経済産業相、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長の安倍派五人衆の面々の顔写真が並んだ。だが、世間がこれを忘れたころにはこれら5人衆は叙勲の対象者にもなるのだろう。のどかな国柄である。

政治の目標は「善」であるが、「何が善か」は人によって異なるとアリストテレスが『二コマコス倫理学』(岩波文庫)でいっている。世上一般の最も低俗な人々が解する善や幸福は「快楽」である。アリストテレスは快楽追求を善とする生活を畜獣的・奴隷的人間の暮らしと言った。他方、「政治的」生活者が追求するのは他者から己の優越性を求められる名誉である。だがこれもまた「善」とは違うものであると、アリストテレスは言う。

「パンとサーカス」状態をうまくつくり、統治しやすい国民を育成するのが統治の仕事と考える国があったし、今もある。統治者はそれによって権力者の優越性を求める。その地位を永続化させるために、非統治者に向けて快楽的社会を維持しようとする。

12月11日月曜日からのパー券スキャンダルの展開観覧を楽しみに、日曜日の御託はこのくらいにしておこう。

(2023.12.10 花崎泰雄)

 

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喧噪の世界、脱力の日本

2023-11-25 23:23:06 | 政治

もうすぐ12月だ。ウクライナ・ロシア戦争は冬の戦いに入った。ウクライナを支える米国のバイデン政権の足元はふらつき気味だ。米国からの武器援助の先行きを心配するウクライナにとってはつらい戦闘継続になる。

ガザではカタールの仲介でハマスとイスラエルが戦闘停止に入った。それぞれが拘束する人質と受刑者の解放が始まった。そのあと、平和のための交渉が始まるのか、イスラエルがガザ攻撃を再開するのか、正確な予想は専門家によってさまざまである。今回の武力衝突でイスラエル側の死者約1400人に対して、ガザの住民らの死者は約10倍の14,000人になる。パレスチナ人や周囲の国々のイスラム教徒のイスラエルに対する憎しみも増幅されたと考えられる。イスラエルはハマスの軍事部門の攻撃をイスラエルの存亡にかかわるものとみなして、ハマスの地下要塞への攻撃のために病院を襲撃した。このことがイスラエルに対する非難を高めた。

台湾で総統選挙が始まっている。来年1月13日が投票日だ。これを機に日本では、中国がいつ台湾に武力侵攻するのか、と専門家たちがあれこれ予想を口にしている。国際政治学者や戦略論のエキスパートが机上演習を滔滔と語ってくれるのだが、さて、台湾侵攻が北京にとってどんな利益があり、場合によってはどんな損失をもたらすのか、わかりやすく説明してくれる専門家は見当たらない。かつて日本帝国の海軍が真珠湾に奇襲攻撃をかけた時代と違って、台湾周辺に軍艦を終結させば、今ではその動きは手に取るようにわかる。そもそも中国軍が台湾侵攻の準備を始めたという情報はまだない。

アルゼンチンでは風変わりな右派経済学者が大統領選挙で勝利した。オランダでは反移民を唱える極右政党が下院選挙で躍進した。かつて中東やアフリカを植民費支配下に置いて甘い汁を吸った国がヨーロッパには少なくない。それが今や難民・移民の波に洗われている。

 

日本は安倍晋三氏が首相になっとき、ヨーロッパのメディアは安倍氏を右翼ナショナリストだと称した。その評判にたがわず、安倍氏は憲法の考え方に一風変わった解釈を加え、日本の防衛を増強し、米国の世界戦略に寄り添った。現在の岸田政権もそれと変わらぬ対米追従路線を走っている。安全保障環境が激変したと唱えて防衛予算を増やそうとするが、その金をどう工面するのか、はっきりと示すことができないでいる。北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げに成功した。

世界はキナ臭くなっていると岸田政権は言うが、自らの政権基盤の劣化についてはのどかな認識しか示さない。メディアの世論調査では内閣支持率が底辺をさまよっている。政権が任命した副大臣などが次々にスキャンダルで辞任せざるを得なくなった。そのうえ、今度は自民党の派閥のパーティー券売り上げにまつわる不祥事である。政治資金規正法では政治資金パーティーで20万円以上を購入した個人・団体は報告書に記載が義務付けられている。11月25日の朝日新聞朝刊によると、不記載は清和会の約1900万円、志帥会の約900万円、平成研究会の約600万円、志公会の約400万円、宏池政策研究会の約200万円だったと、政治資金オンブズマン代表の上脇博之教授が告発している。朝日新聞の報道では、こうした派閥のパーティー券売り上げ競争に駆り出されるのに嫌気がさして、派閥から離脱する議員も少なくないそうだ。

パーティー発行は利益率の高い金集め策である。売上総額から会場費などの経費を差し引いた純益(派閥収入分)には課税されないことになっている。いわゆる議員まる儲けの好例だ。なぜこんなことが可能なのか。それは規正法を創ったのが議員だったからだ。

(2023.11.25 花崎泰雄)

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井戸塀

2023-11-11 23:13:48 | 政治

週刊誌の報道をきっかけに、神田憲次財務副大臣が、自らが代表取締役をつとめる会社が税金の滞納を理由に、4度にわたって差し押さえを受けていたことを明らかにした。

野党は神田氏に財務副大臣辞任を要求している。メディアも「税理士でもある国会議員が税金の滞納を繰り返し、しかも徴税を担う財務省の副大臣だというのだから、開いた口がふさがらない」(朝日新聞社説)といった論調だ。

ところで「税理士でもある国会議員が税金の滞納を繰り返し」という記述は正確さに欠けるところがある。正確には、税金の滞納を繰り返した税理士の資格も持つ会社経営者が、国会議員であり、副大臣をつとめているということであり、彼の国会議員の立場と、会社経営者としての税金滞納の繰り返しの関連については、それがあるのかどうかまだ説明されていない。

今から20年ほどまえ、大勢の国会議員の年金保険料の未納が明らかになり、ジャーナリズムの格好のネタになったことがある。高齢化社会における福祉の根幹にかかわる未納だが、大山鳴動ネズミ一匹に終わった。国会はこのようなメンタリティーを持った人々が集うところなのだ。

私が子どものころは「井戸塀」という言葉がまだ生きていた。政治に入れあげて、ふと我に返ると、先祖代々の屋敷を失い、井戸と塀しか残っていなかった――そういう地方名家の子孫の政治ごっこに対する、世間のあざけりと当人の自嘲が込められた言葉だった。

いまでは政治家稼業は、この国では、子々孫々に引き継がれる実入りの良い稼業になっている。国会はそれほどまでにうまみのある就業先になった。それを可能にしているのが選挙の三ばん(地盤、看板、鞄)という政治資本の相続である。

(2023.11.11 花崎泰雄)

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マントラ

2023-11-05 17:19:07 | 政治

「法の支配に基づく国際秩序は重大な危機にさらされている……同盟国・同志国の重層的な協力が必要だ……力ではなく法とルールが支配する海洋秩序を守り抜いて行こう」

――色不異空 空不異色 色即是空 空即是色

「ロシアのウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ情勢をはじめ、世界各地で深刻な事態が多発し、日本周辺においても、一方的な現状変更の試みや、北朝鮮の核・ミサイル開発は続けられ、安全保障環境は戦後最も厳しいものになっています。こうした時代、変化の流れを掴み取るため、岸田外交では法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序をさらにもう一歩進めます。『人間の尊厳』という最も根源的な価値を中心に据え、世界を分断・対立ではなく協調に導くとの日本の立場を強く打ち出していきます」

――羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦

「増税メガネ」と言われていることをどう思うか、と国会審議で野党に言われたり、経済対策として減税を口にしたり、法務副大臣が辞任を余儀なくされたり、メディアの世論調査では内閣支持率の低迷が続く岸田首相は秋冷えを感じているのだろう。国会では野党の非力もあって、内閣には危機難が薄いが、首相自身はぬるま湯につかっているような冷えを感じていることだろう。湯桶の中で法を説いても念仏を唱えても、体を動かさないでちじこまっているとどんどん体温が落ちて、風邪をひいてしまうという不安がある。

世界の関心がウクライナとロシアの戦争、イスラエルとハマスの戦争に集中しているさなか、急ぎの案件がないまま、フィリピンとマレーシアに出かけたのは、政治体力維持のための遠足のようなものだ。

思い返せば、2年前の自民党総裁選挙で、岸田氏は手帳を掲げて「国民の声を聴き、手帳にメモを残してきた」と自身の聞く力を誇示してきた。あの手帳に何が書かれていたのか、何も書かれていなかったのか、詳細に報道したメディアは私の記憶にない。「新しい資本主義」などという言葉を口にしたが、岸田版の資本主義の新しい考え方についは岸田氏は実のある中身を何ら説明しなかった。

(2023.11.5 花崎泰雄)

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日朝秘密接触

2023-09-30 18:21:06 | 政治

9月29日付の朝日新聞朝刊が、日本政府関係者と北朝鮮労働党関係者が2023年の3月と5月の2回東南アジアで秘密裡に接触していた、と報じた。同紙は複数の日朝関係筋が証言した、としている。

日本の岸田文雄首相は北朝鮮のキム・ジョンウン総書記との首脳会談実現に向けた環境整備のため、今秋にも平壌に政府高官を派遣することを一時検討していた。現在では、ウクライナと戦争を続けるロシアが北朝鮮に接近するなど国際情勢の変化もあり、首脳会談の実現に向けた交渉は停滞している、と同紙は伝えた。

ところで、「5W1H」という言葉をご存じだろう。いつ(when)、誰が(who)、何を(what)、どこで(where)、なぜ(why)、どのようにして(how)の事である。学校の社会科でニュースの要件であると習った。

このニュースに登場する行為者(actor)は、日本政府関係者、北朝鮮労働党関係者、日朝の関係者の接触があったと言っているのは複数の日朝関係筋である。接触の葉所は東南アジアの主要都市とあいまいである。

東南アジアのどこかの都市で今年前半に日朝の関係者が秘密裏に接触し、日朝関係の改善に向けて話し合いをしたが、話し合いは挫折、現在は過去の交渉エピソードの1つとして記憶されている。

なぜ、この種の記事が突然浮上したのだろうか? さらに、この記事はソウルの東亜日報が今年7月に伝えた、「日朝が水面下接触」の焼き直しのようにも見える。

東亜日報は7月3日付で、日本と北朝鮮の実務者が6月に複数回、中国やシンガポールなどで水面下の接触を行ったと報じた。複数の情報筋の話として、日本人拉致問題や高官級協議の開催などをめぐって議論したが、見解の差が埋まらなかった、としている。東亜日報のニュースは日本の新聞がすぐさまフォローした。

東亜日報が伝えた7月のニュースを、2か月後に再報道するには、東亜日報のニュースを超える正確な事実が必要だ。だが、朝日新聞の日朝秘密接触報道は5W1Hに関する限り新しい要素は少なかった。東亜日報の記事については、日本の松野官房長官がそのような事実はないと否定した。今度の朝日新聞の記事については、複数の首相官邸関係者が秘密接触を事実と認めた、と朝日新聞は報じている。「複数の首相官邸関係者が秘密接触を認めた」という記述と、「複数の首相官邸関係者が匿名を条件に秘密接触を認めた」という記述では、記事の信頼度に違いが出てくる。

ところで、日本の臨時国会は10月20日に召集される。岸田政権は当面の経済政策として5項目を打ち出した。①物価高対策②持続的な賃上げと地方の成長③国内投資促進④人口減少対策⑤国土強靱、国民の安心・安全、である。岸田首相は9月28日朝、都内の運送会社を訪問してトラック運転手と人手不足や負担軽減について車座で意見交換した。国会議員やその周辺の人たちの間では、臨時国会中に首相が解散総選挙の手に出るのではないかと疑心暗鬼が広がっている。政治を前進させているという印象を国民の間にPRし、解散総選挙を予感させる状況を作り出し、その中で臨時国会の議論を乗り切ろうというのが岸田政権の思惑だ。

日朝が数か月前に関係改善を進める目的で秘密接触をしたが、結果をだすことができなかった。しかし、岸田政権が拉致被害者とその家族の思いを受けて、目に見えないところで拉致被害者全員の帰国を目指す交渉を続けている姿を国民にしめす。日朝秘密接触は結果が出なかったが、岸田政権の「やってる感」を有権者に印象づけ、解散総選挙があるうるという説得力の一助として、挫折した日朝秘密交渉が廃品利用され再報道されたと推測できなくもない。

(2023.9.30 花崎泰雄)

 

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政局報道記者の懺悔

2023-09-23 19:25:56 | 政治

「30年以上、政局取材に身をやつすと、消したい過去は幾つもある」と朝日新聞編集委員の曽我豪氏が「人事で政権が浮揚しようか」というタイトルの論評で書いていた(朝日新聞9月17日付3面「日曜に想う」)。

詳しいことは新聞を読めばわかるが、曽我氏の論旨は①これまでにいろんな首相が人事で政権浮揚を狙うと何度も書いたが、実際に浮揚した例は少ない②世論の関心は「剛腕」や「国民的人気」「党内融和」に頼る人事ではなく、政策や国会対応がいかに改善されるかにあるからだ、と曽我氏は書いた。

長い間朝日新聞を購読している私も同紙の政局記事には飽きあきしている。例えば本日(9月23日)の朝刊4面には木原誠二氏を自民党幹事長代理に据えた岸田首相(自民党総裁)のねらいは、次の総裁選挙で競争相手になる茂木敏充氏を抑え込むためであるという自民党内の政局記事が長々とつづられている。自民党は派閥の集合体であり、派閥は首相や閣僚を送り出す母体である。永田町界隈で国会議員や大臣や秘書官、官僚たちと接している記者の中には、それが日本国の政治報道であると妙な勘違いをしている人もいる。自民党の中の権力争いを伝えることが、すなわち政治報道であると思い込んでいる。

この手の政局記事は読み手である私は長い間うんざりしてきた。書き手である記者の方も政局記事を書き続けることに、実は倦んでいたことがわかったのは収穫だった。

曽我氏は論考の末尾で次のように語っている。「私たち政治記者の本務は、主権者の審判に資する確かな情報の提供にある。……自分は政局の勝者にまんまと利用されたのではないか。世論をたきつける旗頭の思惑と、政策効果や実現可能性など旗印の難点を政局と同時並行でもっと伝えるべきだった。……一種の罪ほろぼしだと思って私はこのコラムを書いている」

曽我氏のこの述懐は重要である。主権者の審判に役立つ情報を得るのが仕事である政治記者が、政治権力を持つ側の思惑にまんまとはまって政局記事を書いてしまう。有権者の側の側は政治権力を持つ人々が何を考えているのか、それとも、いないのかを知らねばならない。政権が選挙結果に従って出来上がる社会では当然の情報だ。それと同時に、現在政権を握っている政党や政治家にとっては、その地位を守るために有権者を靡かせるような情報をメディアで流布させる必要がある。有権者に必要な政治的情報と、政府首脳に必要なプロパガンダの双方を仲介するのが政治記者と政局記者である。

ベテランの政治記者が政局報道を悔いて、この先うかつな政局記事は書かないと示唆したのだが、一編集委員の懺悔だけで政局記事の過剰流通が収まるわけでもなかろう。

新聞報道が社会に与える影響力に関しては、マス・コミュニケーションの理論書でもそのインパクトの強弱について定説はない。とはいうものの、朝日新聞がかつて連載した『新聞と戦争』(https://www.asahi.com/rensai/list.html?id=1378)を読めば、マス・メディアが権力に取り込まれた時の悲惨な社会がわかるだろう。日本社会がこのようなおぞましい時代を再来させる愚は避けなければならない。

新聞は利益を追求する私企業である。新聞社の収入は企業と従業員を守り、新しい時代の報道態勢を整えるための資金となる。したがって、新聞は読者がどんな記事を読みたいかを考えねばならない。新聞はニュース産業として社会に対する責任を負っている。ストレートな政治記事は読者を退屈させる。スポーツ報道のような政局記事は社会の論理的思考力を弱体化させる。

政治担当の著名な編集委員の懺悔を機会に、政治ニュースのバランスのとれた伝え方を、記者の心構えだけでなく、編集上のシステムとして新聞社が構築することが望まれる。

(2023.9.23 花崎泰雄)

 

 

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残暑お見舞い

2023-09-16 16:17:13 | 政治

今は昔。内田魯庵がこんなことを書いていた。「大臣が平凡なのは古来から定つてる。畢竟属僚の傀儡に過ぎないのだ。僕に一策がある。弾機(ぜんまい)仕掛の人形を作って大臣の服を着せ大臣の印を持たせて大臣室に置き、属僚恭やしく公書を献ぐれば人形殿は首肯いて印を押す、といふ仕掛にしたら第一内閣を変える手数もなく小十萬の俸給が助かるといふものだ。……世の中に何が楽に出来るかと云って、異形な凬體をして無言で歩く廣告屋と頭数を揃へた伴食大臣位容易なものは無らふ」(内田魯庵「變哲家」『社会百面相 上』岩波文庫)。

『社会百面相』が出版されたのは20世紀の初め。日本が日清戦争で勝利し、日露戦争が始まる数年前である。日本が資本主義にまい進し、アジアの遅れてきた帝国主義国家への道へ向かう頃だった。労働働運動が始まり、ストライキが起き、一部の運のいい社会階級が金と権力を求めて狂奔する埃っぽい時代だった。魯庵の『社会百面相』は当時盛んだった社会小説の代表作の一つとされた。

           *

2023年9月13日、岸田首相が内閣を改造した。「新しい資本主義」を唱えてみせたが、その言葉で何を実現しようとしているのかは、はなはだ不明瞭で、人気はかげりを見せている。内閣支持率の低迷を何とかしようと5つの閣僚ポストを女性に割り当てた。そのあとの記者会見で岸田首相は「女性ならではの感性や共感力も十分発揮していただきながら、仕事をしていただくことを期待したい」と語った。「女性ならではの感性」「女性ならではの共感力」とは具体的にはどんなものなのか。

朝日新聞9月15日朝刊社会面は「典型的なジェンダーバイアス内面化おじさんの発想。この政権でジェンダー平等は進まないと、絶望的な気持ちになった」と、社会学者の水無田気流氏のコメントを伝えた。

日本国の岸田氏はこんな調子だし、米国のバイデン氏は息子のことで困っている。中国の習氏は政府や軍の高官の首をちょんちょんと切ってはいるが、本人は国際会議への欠席を繰り返し、中国国内に籠りきりだ。ロシア国のプーチン氏も海外出張を嫌って国内にとどまっている。ロシア極東部の宇宙基地で北朝鮮国の金氏と会ったのが最近では唯一の遠出である。

東京はまだ長い残暑が続いている。

(2023.9.16 花崎泰雄)

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お毒見

2023-08-26 00:52:37 | 政治

8月25日付朝日新聞朝刊(東京)1面は

 福島第一 処理水放出

 国産全水産物 中国が禁輸

 日本政府抗議、撤回求める

という3本建ての見出しで「東京電力は24日、福島第一原発の処理水の海への放出を始めた。増え続ける汚染水対策の一環で、少なくとも約30年は放出が続く。これを受けて中国政府は24日、日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止すると発表した」と伝えた。

24日前後のいくつかの英語ニュース・メディアのサイトをのぞくと、

*Japan began a controversial discharge of treated tritium-laced water (Japan Times)

*China retaliates as Japan releases treated nuclear water(BBC)

*After months of controversy and anticipation, Japan is set to begin releasing treated radioactive wastewater from its Fukushima nuclear plant (CNN)

*China bans Japanese seafood over Fukushima nuclear waste water release(South China Morning Post)

と報道されている。

 

福島第一原発敷地内には放射性物質に汚染された水と、62種類の放射性物質をほぼ除去できるALPS (多核種除去設備)を通した処理水の2種類の水を貯めたタンクがある。東電と政府はALPSでの除去が難しいトリチウムが残る処理水を海水で希釈したうえで福島沖に排出するとしている。処理水は環境中に放出するにあたって基準値を下回っており、安全であるというのが、東電と日本政府の説明である。日本国内で発行される日本語新聞の多くは東電・政府の説明を受け入れて、「処理水」という言葉を前面に出した。東電や日本政府の立場を擁護する必要を感じない英語ニュース・メディアは “treated tritium-laced water” “treated nuclear water”  “treated radioactive wastewater”  と「処理済み放射能廃水」という名称にこだわった。日本政府に不信感を持つ人たちにとっては、こうした名称は恐怖を呼び起こし、日本政府に不信感を持たない人をも不安な気持ちにさせる。

中国政府の日本産全水産物輸入措置は想定外だったと25日の朝日新聞は伝えたが、岸田・日本国首相はその直前に米国を訪れてバイデン大統領、ユン韓国大統領との3人で、対中国安全保障強化の相談をしていた。日本国は北京に大使館を置いており、大使館の機能が空転していない限り、中国の対抗措置の強弱については感触を得ていて当然だから、「想定外」という表現には理解しにくいところがある。

中国の輸入禁止を日本政府は科学的根拠をないがしろにした措置であるとして撤回を求めた。そういうことであれば、これは大口の風評被害第1号である。東電・政府はきちんと対応・補償しなければならない。

福島の放射能ほぼ除去済みの処理水が排出される前日の23日には、西村経済産業大臣が全国の水産物などを集めた催しで、東北地方の魚介類を使った海鮮丼などを試食してみせた。この種の風景は過去よく見かけた。1991年にペルーでコレラが流行し、ペルーでとれた海の魚が輸出しにくくなった。保健担当の大臣は生の海産物を使ったペルーの名物料理「セビーチェ」を食べないようにと訴えた。一方で、水産物の輸出不振を解消しようと、当時のフジモリ大統領がテレビの前で何度もセビーチェを食べて見せた。

それから10年ほどたった2002年にはリー・クアンユー首相退陣後、子息のリー・シェンロン氏の首相就任までのつなぎ役だったゴー・チョクトン・シンガポール首相がNEWaterを試飲して見せた。シンガポールは小さな島の都市国家でダムが少ない。水を隣国のマレーシアから長期契約で輸入している。これはシンガポールにとっては国家安全保障上の大きな問題である。シンガポールは海水の淡水化処理施設をつくり、廃水を浄化して利用する方法を試みていた。2002年にこの下水浄水化システムが完成、処理水を “NEWater” と命名、ゴー首相以下この水で乾杯した。

職務とは言いながら、お役目ご苦労さんなことだ。ところで、福島の廃水処理は全タンクが空になるまでに30年かかるという。似たような風景が繰りかえされないことを祈る。

日本には、東京都が太平洋戦争をはさんで1935年から1999年までの間、くみ取り便所から出た糞尿を船に積んで東京湾をぬけ外洋に運んで海洋投棄してきた過去がある。海洋投棄を禁止するロンドン条約が改正され、一般廃棄物である「し尿」も海洋投棄できなくなることから、東京都は64年間にわたる糞尿の海洋投棄をあきらめた。

「黄金のジパング」の国柄はそんなものである。

(2023.8.26 花崎泰雄)

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酷暑の読書

2023-08-20 00:34:33 | 政治

岸田文雄首相が夏休みの友に都内の書店で10冊の本を購入した。それらの本の中から、『地図でスッと頭に入る世界の資源と争奪戦』『まるわかりChatGPT&生成AI』『アマテラスの暗号』といったタイトルをあげて8月18日付の朝日新聞・天声人語が「やぼは言うまい。首相と言えどもすべての分野に精通できるわけではなかろう」と揶揄した。すると、同紙の8月19日付「朝日川柳」に「麻生氏が何読んでるか知りたいね」という句が載った。つい最近、訪問先の台北で血気盛んぶりを見せた八十翁の麻生太郎氏の元気の秘密となった本を知りたいね、というわけだ。麻生氏の現在の愛読書については情報がないが、以前は『ゴルゴ13』が贔屓だった。麻生氏とゴルゴ13の話は新聞に何度も載った。

読書歴は個人情報であり、図書館の貸出記録保存について何度もそのあつかいが議論されている。今はむかし、スハルト時代のインドネシアでは左翼関連の書籍は禁書に指定されていた。マルクスの『資本論』は大学図書館を含め、たいていの図書館で鍵のかかる本棚におさめられていた。資本論を読むためには責任者の許可が必要だった。したがって、前途ある若者は禁書には近づかず、留学先の英語圏の大学院で、社会科学の教師からインドネシアの学生はマルクスから詠み始める必要があり時間がかかる、と評されていた。

時と場所によっては、書物は危険物になる。ナチスの焚書、戦前日本の思想警察の暗躍などの例がある。いまの日本ではそうしたむき出しの危険はないが、ある国の首相が購入した本のタイトルをあげて、その人の読書傾向をあげつらうのは、趣味が悪い。

とはいうものの、岸田首相の書店巡りは人気とりのパフォーマンスの面もある。岸田首相は今年8月15日、夫人同伴で(もちろん秘書官や警護の警察官同道)で大名行列ふうに本屋へ行った。ついでに購入した本のタイトルを記者たちに披露した。昨年の12月には本屋にゆき、『忘れる読書』『80歳の壁』『カラマーゾフの兄弟』など約15冊の書籍を購入した。去年の8月にも本屋へ行き、『街とその不確かな壁』など10冊の書籍を購入した。

アジア太平洋地域の安全保障や新しい資本主義に取り組む岸田首相が、ツキディデスのペロポネソス戦争の歴史や、シュムペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』といった本を購入すれば、なんとなく脈絡はある。だが、首相が『地図でスッと頭に入る世界の資源と争奪戦』を買おうが、ツキディデスを買おうが、結局はどうでもいい話しだ。新聞で首相の動静を見ると、平日は官邸で10分刻みで人に会っている。週末はどっと疲れが出て、本を読み始めると眠気が襲ってくるだろう。

岸田首相は8月18日(現地時間)キャンプ・デービッドで、バイデン米大統領、ユン・ソニョル韓国大統領と会談、日米間の安全保障協力関係の強化で合意した。中国・北朝鮮・ロシアのグループに対する新封じ込め作戦だ。既存の覇権国家と新興の大国との反目が戦争に発展することが多い、とする「ツキディデスの罠」論が数年前話題になった。だからといっていまさらツキディデスを読もうという気にならないのが政治家である。学者じゃない、実務家だと自負する人が、日本の政治家には多い。

(2023.8.20 花崎泰雄)

 

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核抑止論

2023-08-12 20:09:22 | 政治

8月6日の広島平和記念式典で松井・広島市長が「核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、世界中の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」とよびかけた。続いて8月9日の長崎平和祈念式典では、鈴木・長崎市長が「核抑止に依存していては、核兵器のない世界を実現することはできない……今こそ核抑止への依存からの脱却を決断すべきだ」と言った。

長崎の式典に岸田首相はビデオ・メッセージをおくり「世界で唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を実現するため、非核三原則を堅持しつつ、たゆまぬ努力を続ける」と言った。

核兵器のない世界を実現するためにたゆまぬ努力を続けるという岸田メッセージの一方で、日本の自民党政権は米国の先制不使用に反対した。米国のオバマ大統領は2016年に、米国が核兵器の先制不使用表明する準備をしていたが、日本政府は米国の核先制不使用の表明に異をとなえた。バイデン政権も先制不使用を表明しようとしたが、同盟国の反対にあって断念した。この時も反対した同盟国の中には日本も入っていた。米国が先制不使用を表明すると中国に誤ったメッセージを伝えることになるというのが、日本政府の考え方だ(2011年11月8日付東京新聞社説)。核兵器保有国の中で「先制不使用」を表明しているのは中国だけである。米国が先制不使用を唱えると、すでに先制不使用を公にしている中国に対してどのような誤ったメッセージを送ることになるのか? 米国の核先制使用表明をおしとどめることが、核兵器のない世界を実現することとどのようにつながっているのか?

「米国は、引き続き、その核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じ、日本に対して拡大抑止を提供する」(日米防衛協力のための指針 2015年4月27日)というのが、日本の安全保障のお守りだ。だが、核抑止論の有効性を証明できる証拠はないのだ。ノーベル経済学賞を受賞したアメリカのトーマス・シェリングは2005年12月8日の受賞記念講演「驚くべき60年: 広島の遺産」の冒頭で次のようなことを言った。

「ここ半世紀におけるもっとも劇的な出来事は、ある出来事が起こらなかったことである。われわれはこの60年間、怒りにまかせて爆発する核兵器を見ることなく過ごせたのだ。なんと素晴らしい成果であろうか。いや、成果でなければ、なんと素晴らしい幸運であろうか」

核兵器が60年間使われなかったことの理由の大半は、核兵器が「タブー」になったことにある、とシェリングは説明する。核兵器は呪われた、特別の兵器であると人々が認識していたのだ、というのがシェリングの見立てである。シェリングの記念講演「驚くべき60年: 広島の遺産」はトーマス・シェリング(斎藤剛訳)『軍備と影響力』勁草書房、で読むことができる。

また、シェリングは『軍備と影響力』でこんなことも書いている。「軍事的見地からすれば、日本の工業都市を2つばかり破壊したところで米国にとって得られるものはわずかであったが、日本は多くを失った。広島と長崎に投下された爆弾は、日本そのものに対する暴力であり、原爆の主たる効果と目的は、爆撃に伴う軍事的な破壊ではなく、苦痛と衝撃を与えること、そしてさらなる苦痛と衝撃を確証させることだったのだ」。

米軍が広島と長崎に原爆を投下した時のトルーマン大統領もさらなる原爆使用は合衆国だけでなく、世界に嫌悪と恐怖を拡散さることを理解していた。アイゼンハワー大統領は核を使えばあとは核の大戦争になると言ったことがある。ケネディー大統領は、核兵器使用が決定されたとたんに核のエスカレーションは止められなくなる、と言っていた。アメリカのワシントンD.C.にあるNPO National Security Archiveで史料 “U.S. Presidents and the Nuclear Taboo”をまとめたウィリアム・バーは解説でそのように書いている。

核をめぐる戦略は1960年代から1970年代にかけて主として米国で議論が重ねられた。議論は大量報復戦略から始まって、柔軟反応戦略を経て、相互確証破壊(Mutual Assured Destruction, MAD)に至った。核戦争を始めれば米ソは共倒れになるという計算式が確立され、米ソはこの数式を共有した。相互確証破壊の考え方を米ソの政治指導者、戦略立案者、軍人が頭の中でこの認識を共有したことで、デリケートな恐怖のバランスによって冷戦が熱くならないですんだ。米ソが暗黙裡に了解し合ったMADの思想の下で核は米ソにとって事実上使えない兵器になった。核兵器は極限的な暴力だが、一方で核戦争を抑止する物神としてあがめるオカルトが核と政治の専門家の間に定着した。

だが、ロシアのプーチン大統領とその戦略参謀たちと米国のバイデン大統領と参謀たちの頭の中にある核抑止の観念は、冷戦時代の米ソ首脳の頭にあったものと同じだろうか。さらに、米国から拡大抑止(核の傘)を受けている諸国に対してロシアや中国はどのような戦略を考えているのだろうか。長くなったので、これはまた次の機会に。

(2023.8.12 花崎泰雄)

 

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会食三昧

2023-07-07 17:38:06 | 政治

先ごろの公開された国会議員の2022年分の所得等報告書で、7党首のうち、自民党総裁の岸田文雄首相が3863万円で所得額1位。2位が共産党の志位和夫委員長で2050万円。岸田氏の2021年分の所得は2837万円だったから、首相の職務を1年間続けた2022年の所得は前年より1000万円ほど増えた。

所得増と関係があるのかどうかは不明であるが、このところの岸田首相の旺盛な食欲も新聞が記録している。朝日新聞の「首相動静」は岸田氏の会食三昧を次のように伝えた。

<6月30日金曜日>。午後0時2分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急。日本料理店「水簾」で森山裕自民党選対委員長と食事。午後6時27分、東京・赤坂の日本料理店「赤坂浅田」。松本総務相、加藤厚労相、河野デジタル相と食事。松野官房長官同席。

<6月29日木曜日>午後6時44分、東京・銀座の上一ビルディング。イタリア料理店「Meri Principessa」で平口洋同党衆院議員らと食事。

<6月28日水曜日>午後0時1分、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ。日本料理店「千羽鶴」で同党の二階俊博元幹事長、林幹雄元幹事長代理と食事。午後6時27分、東京・虎ノ門のホテル「The Okura Tokyo」。宴会場「ローズ」で秘書官と食事。

6月27日火曜日>午後6時58分、東京・銀座のすし店「銀座 鮨あらい」。自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長と食事。

<6月26日月曜日>午前7時53分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急。宴会場「桜・橘」で原田一之日本民営鉄道協会会長らとの勉強会。森昌文首相補佐官、藤井直樹国土交通事務次官同席。

4000万円弱の所得があれば、この程度の会食費用は岸田氏のポケットマネーでまかなえるのかどうか――と想像しても意味はない。政治家の行動には私事と公務の境界がはっきりしない部分がある。例えば、仮定の話であるが、ある首相が自分の子どもを首相秘書官に任命し、しばらくして不祥事を理由に更迭したとき、首相が他の秘書官と一緒に秘書官であった息子をホテルのレストランに招き食事しながら秘書官の職務について改めて話し合ったとしよう。その時の費用は、私費を当てるのが適当なのか、会合費・会議費として処理できるのか、人によって判断が異なるだろう。

 

それにしても、高額な飲み食いを日常茶飯にしている日本の政治家は少なくない。

 

2020年12月4日の朝日新聞デジタル版によると、同紙記者が閣僚らの政治資金収支報告書(2018-19年)をもとに調べたところ、飲食代が2年間で1億5千万円にのぼった。

その結果、この2年間で政治家側は1234店に計1922回、総額1億5358万431円を支出していた。支出先の1位から4位までをホテル関係が占めていた。支出回数を議員別に見ると、最多は武田良太総務相(当時)の443回(計3151万1447円)。支出回数では、麻生太郎財務相(当時)が335回(4551万7085円)で続いた。支出額は最多で、1回あたりの平均支出は、28人中トップの約13万6千円。

政治資金は政治資金であって議員のポケットマネーではない。なぜならポケットマネーによる会食であれば政治資金収支報告書に記載する必要はないからだ。

政治的な会合の合間に食事をともにしているのか、食事をするために会合を開いているのか、これまた判別に苦しむところがある。首相が政治の一環として人に会うのであれば、そのために官邸がある。官邸には食堂もあって、そこのかけ蕎麦はうまい、ということになっている。菅義偉元首相は官邸食堂のかけ蕎麦が好きだったと、どこかの新聞で読んだ記憶がある。多忙な首相が官邸を出て、近くのレストランで会食するのは、政務の一環なのか、息抜きなのか。判定が難しいところである。

その昔、「待合政治」という言葉が世間に流通していた。待合政治とは、待合茶屋で談合・折衝を重ねることによって、取り運ばれる政治、と辞書は説明する。待合茶屋とは、男女の密会や芸妓と客のための席を貸す茶屋のこと、と辞書は言う。

自民党政治の近代化で待合政治がすたれ、待合という施設が次々と店を閉めたのはこれまた昔の話である。待合からホテルへ場所は変わったが、自民党政権の待合政治ぶりは形を変えていまだ健在である。

(2023.7.7 花崎泰雄)

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日米、阿吽の呼吸

2023-06-30 00:51:47 | 政治

日米安保条約は日本という国家にとって、憲法の上位にある約束事だ、という冗談があった。集団的自衛権は日本国憲法の精神にそぐわないと、長らく政府はこれを否定してきたが、安保条約の相手国である米国の意向をくんで、内閣法制局に憲法の考え方に背かない集団的自衛権なら憲法無視にならないと言わせた。米国にせっつかれて集団的自衛権を認めたのか、米国から催促される前に安全保障環境を考えて、自らの判断で認めたのか、はっきりしない。同じよう安全保障環境の急変とは具体的に何を指しているのかもきちんと議論していない。

先ごろバイデン米大統領が、岸田首相を説得して日本に防衛費倍増を実現させた、とカリフォルニアの選挙キャンペーンのレセプションで語った。恒例のバイデン氏はこのところ失言や言い回しのミスが多い。

そこで日本の松野内閣官房長官が、バイデン発言はミスリーディングであって、防衛予算の増額は岸田首相の主体的な判断であると米政府に申し入れた。

すると、バイデン氏が岸田首相に防衛予算の事で話をしようとしたさい、岸田氏の方が先に防衛費増額について話し出した、と前言を修正した。

米国大統領は他国の予算について催促がましいことは言わなかったが、他国の首相が米国大統領の気持ちを忖度した、ということのようである。

岸田日本国首相が米国に催促されるまでもなく、独自の判断から防衛予算の増額を決めたのであるなら、その予算を組むための財源について見通しがついていないのはなぜだろうか。

そうこうしているうちに、サイバー攻撃への対処のために「通信の秘密の保護」を規定する電気通信事業法など複数の法改正を政府が検討していることが分かった、と新聞が報じた。

新聞記事によると、サイバー攻撃に対処するために欧米では「積極的サイバー防衛(Active Cyber Defense)」が行われている。日本もこれにならって、重要インフラや政府機関を狙ったサイバー攻撃を防ぐため、海外のサーバーなどに侵入し、相手のサイバー活動を監視・無害化するため自衛隊法を改正するかどうかも検討する。この対策を「能動的サイバー防衛」と呼称するとのことだ。そうして、監視・収集したデータを米軍などと一定程度共有することも想定している。

日本政府は長らく米軍の核持ち込みを①米軍の重要な装備変更は事前協議の対象となる②これまで米軍から核の日本持ち込みについて協議の申し入れはなかった③よって、米軍の核の日本持ち込みはなかった、と米軍の核持ち込みを素朴な3段論法で外交の闇の中に閉じ込めてきた。日米が阿吽の呼吸で日本国民を欺いてきた。このことは10年ほど前に、日米密約問題の調査をすすめた有識者委員会(北岡伸一座長)が1960年の日米安全保障条約改定時に、核兵器を搭載した米軍艦船の日本への寄港を事実上認める了解があったかどうかについて、「暗黙の合意」があったと指摘、「広義の密約」だったと結論づけた、と当時の新聞が報道した。

(2023.6.30 花崎泰雄)

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極意としての「なりゆき」

2023-06-23 00:23:42 | 政治

「なりゆき」とは日本語辞典によると、自分の意志を持たず、ただただ物事の変化とその結果に身を委ねることをいう。岸田首相の権力維持の要諦はなりゆきまかせにあるようにみえる。

首相秘書官に任命した実の息子の海外出張時のショッピングや、首相公邸での親族を集めて宴会などの醜聞には、どこ吹く風を決め込んでいたが、周辺からの批判が高まると、あっさりと息子を秘書官から解任し、一件落着とケロッとしている。

G7の広島サミット開催で自慢顔だったが、世界政治の進展という面では目を見張る議論は報道されなかった。G7の首脳を広島平和記念資料館に案内し、40分をかけて展示品をみせ、自らが説明役を務めたそうだが、日本政府は彼らがどのような資料を見たかについては口を閉ざした。

6月21日に閉会した通常国会では防衛費の増額に対応するための財源確保法や、改正入管法、改正刑法、LGBT理解増進法を成立させた。いずれも野党に政治的体力があれば、そうとうもめる可能性があった法案だが、非力な野党という状況下で成立した。

2024年の秋に現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに統合することもきめた。マイナンバーカードをめぐる混乱が収まらない中で、岸田首相が通常国会閉会にあたって、混乱については陳謝するが、保険証は予定通り2024年秋に廃止すると断言した。なりゆき主義の波に乗った強気である。

統一教会、細田衆議院議長の問題については雲散霧消した。

少子化対策の現金給付計画や防衛力増強の資金をどこから捻出するかについては年末の議論になる。そのときは、少しは白熱した語論になるだろう。

いや、ならないかもしれない。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ報告書」によると、日本における平等は世界125位で、前年の116位からさらに後退した。政治も経済活動も市民社会も、なりゆきまかせのぬるま湯の中で昼寝しているような国柄なので、「防衛力増強も少子化対策も待ったなしの課題であり、資金のめどがつかなければ、またまた国債」という呪文で落着するなりゆきになるのであろう。

(2023.6.21 花崎泰雄)

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解散風吹き止む、どんより梅雨空

2023-06-16 00:02:23 | 政治

岸田文雄・日本国首相は6月13日の記者会見で、衆院解散・総選挙について「いつが適切なのか諸般の情勢を総合して判断する」と語っていた。その舌の根もかわかぬ15日には「今国会で解散はしない」と記者団に語った。

少子化対策としての児童手当の拡充など、現金をばらまく岸田政権の姿勢は総選挙は解散・総選挙の準備と受け取られていた。そのバラマキには3.5兆円が必要だが、資金をどうやって工面するかは後回しになっていた。財源捻出で話がこんがらがる前に、児童手当拡充の岸田政権を表看板に総選挙を始めるのが得策だと考える人は岸田首相周辺に少なくなかった。

議会を解散する理由――いわゆる解散の大義――については語らぬまま、「解散の時期は諸般の情勢による」から一転して「解散はしない」と手のひらを返した物言いは、解散の権限は首相が握っているとする永田町の業界慣習の上にたっている者の驕りである。

衆議院の解散については、憲法第69条が「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と定めている。第7条が天皇は内閣の助言と承認により、衆議院を解散するとしている。7条は天皇が国民のためにおこなう国事行為を①憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること②国会を召集すること③衆議院を解散すること④国会議員の総選挙の施行を公示すること⑤国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること⑥大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること⑦栄典を授与すること⑧批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること⑨外国の大使及び公使を接受すること⑩儀式を行うこと、と定めている。

衆議院の解散は憲法69条か7条が法的根拠になっている。最近はもっぱら7条による解散である。天皇の国事行為は内閣の助言と承認必要だ。したがって、解散は内閣の判断であり、閣議で解散に反対する閣僚は首相がそのクビを据えかえればよい。内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる(68条)ので、解散の権限は首相がにぎることになる。

1952年に当時の吉田首相が憲法7条を根拠に衆議院を解散した時、当時議員だった苫米地義三氏が解散を違憲だとして裁判に訴えたことがあった。1960年に最高裁は、高度に政治性のある国家行為は裁判所の審査権の外にあるとして苫米地氏の訴えを退けた。

また、1948年の事だが、当時の吉田首相が憲法第7条を根拠に衆院を解散しようとしたとき、GHQが解散は69条でしかできないはずと指導に乗り出した。

以来、憲法の条文に首相が解散権を持つことが明記されていないにもかかわらず、政治的慣行として7条解散が重ねられてきた。解散が政権党の権力維持の手法として珍重されてきたのである。

議院内閣制を採用している国の中で、首相が解散権を党利党略や自己保持のために自在に使っている国として日本は突出している。イギリスでは政権の恣意的な解散から政治を守るために、議会を解散するためには議員の3分の2以上の賛成が必要であるとする「2011 年議会期固定法」を制定したが、2022年に廃止された。

議院内閣制のモデルであるイギリスでは、首相の専権による解散について一時期とはいえ反省があった。日本では反省がない。政権を握る政党が自己保存のために解散を決めることに、表だった異論は唱えられていない。政治家たちは解散が首相の専権事項であると喧伝し、メディアはそれを鸚鵡返しのように国民に伝える。

解散にあたっては、天皇が署名した解散詔書が紫のふくさに包まれて本会議場に持ち込まれ、7条解散の場合なら議長が「日本国憲法7条により衆議院を解散する」と代読する。すかさず議員たちは「バンザイ」と叫ぶ。己の失職に「バンザイ」と叫ぶのである。

戦前の大日本帝国憲法は「第7条 天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス」と定めていた。その古びた解散の残像を現行憲法第7条の上にかぶせ、議員たちは「(天皇陛下)バンザイ」と叫ぶ。日本の政治家の政治リテラシーはこんなものである。

(2023.6.16 花崎泰雄)

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安全保障環境は悪化したか

2023-05-07 01:35:07 | 政治

日本国首相の岸田文雄氏がアフリカ4か国とシンガポールを訪問した。アフリカ各国のリーダーとの意見交換のテーマは①力による一方的な現状変更の試みに反対②法の支配の下での自由で開かれた国際秩序の堅持の2点であった。訪問先のメディアの報道ぶりには不案内だが、日本の新聞を見た限りでは盛り上がりに欠けた訪問だったようだ。5月に予定しているG7をグローバル・サウスと呼ばれる国々に触れ歩く、相撲本場所を知らせる触れ太鼓のようなものだった。

日本の5月は祝日や土日がつながる仕事休みの期間が長く、勤め人はこの時期家族旅行で忙しい。閣僚も国会議員も連休を利用して、海外出張や視察旅行に出かける。安全保障環境の急速な悪化に伴って、日本が存立危機に陥る可能性について、国民あげて深刻に考えばならないと政権幹部は唱えている。そして防衛費の大幅積み上げと沖縄周辺の軍備強化に努めている。そのわりには、のどかな5月連休の首相海外出張旅行だった。

「存立危機事態」とは何か。「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と政府は定義している(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)。存立危機事態になれば、条件次第で敵基地を反撃することもありうると、4月の国会で岸田首相は言明した。

日本の領域に対する武力攻撃で、日本の存立・国民の生命・自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が生じる事態は想像できないことはない。だが、密接な関係にある他国への攻撃で日本が存立危機事態に陥るというのは、想像自体が難しい。米国の大都市がミサイル攻撃を受け、おびただしい人命が失われたと仮定しても、その事件によって日本が存立危機事に陥るとはかぎらない。米国の太平洋側の大都市であるシアトル、サンフランシスコ、ロサンジェルスが攻撃を受けた場合、日本には攻撃がなくとも、日本は反撃を開始するのか。あるいはサンフランシスコ攻撃だけでも反撃するのか。日本の領域にある米軍基地が攻撃された場合は、反撃を始めるのか。中国の台湾侵攻が始まり、日本から台湾に向かった米軍が攻撃された場合、それは日本の存立危機になるのか。

核兵器を使うのか、使わないのか、それを前もって明らかにしないでおくのが、核戦略の極意であると言われてきた。日本の存立危機事態であるのかをはっきりさせないのが、安全保障戦略の秘訣である。

日本の自民党政権は安全保障環境の急変をしばしば口にする。第2次大戦終結後、連合国側は強国ドイツの再来を嫌って米ソがドイツを分割し、2つのドイツをつくった。日本国憲法に第9条の戦争放棄を盛り込んだのは連合国側のアイディアである。通説ではそうであるが、じつはこの条文は、日本の軍国主義再生を嫌った連合国側が思いついたものか、戦争の反省から日本側が発案したものか、その議論は今でも決着がついていない。憲法の誕生に関して、このようなあいまいさが残っているのが、日本人の歴史感覚の鈍さである。

安全保障環境の激変との言葉は新聞報道に盛んに書かれているが、どう変わったのか詳しい話を新聞で読む機会は少ない。かつて米国とソ連が大量の核兵器を抱え、核戦争になればともに消滅するしかない知った果ての相互確証破壊(MAD: mutual assured destruction)という MAD-ness な時代があった。第2次大戦後は戦争で核兵器が使われることはなかったが、通常兵器による戦争はたくさんあった。朝鮮戦争があり、ベトナム戦争があり、アフガニスタン侵攻、イラク戦争があった。日本人の多くにとっては、米国が関わったそれらの戦争は自国の存立を脅かすようなものとは認識されなかった。

北朝鮮が核兵器とミサイルを開発した。その意図は米国に対して北朝鮮の国家としての認知を求めるものだ。北朝鮮には、日本の民間施設をミサイル攻撃の標的する理由がない。もし狙うとすれば、日本領域内の米軍基地だろう。

中国は台湾に対する武力攻撃の可能性を否定していない。台湾に対する武力攻撃が成功しない場合は、共産党指導部の瓦解につながりかねない。かつて日本が明治維新後に富国強兵の道をたどった時、富国の要は繊維製品の輸出で、その5割が生糸だった。日本の女性労働者が紡いだ生糸の売り上げで大砲を買った。明治維新から半世紀もたたないうちに、日本は日清戦争や日露戦争を戦い、明治維新後73年で日米戦争を引き起こし、4年後に敗戦、存立危機にはまり込んだ。

中国が毛沢東指導部の発案で土法高炉による粗鋼生産を始めた。みじめな失敗に終わったが、それから40年後には中国は世界最大の粗鋼生産国になった。資金と技術情報があれば、たいていの国は産業国家になりうる。経済で大をなした中国は武力で大をなし、中国沿岸にまで及んでいる米国の制海権を太平洋中央部に向かって押し返そうとしている。歴史的には中国の対外意識は西の内陸部に向けられていたが、今では海洋国家・中国を目指して東進しようとしている。国家の行動様式の典型である。ただ、そうした姿勢を公に鮮明にしたため、中国軍の実力が中国共産党指導部の信任と結びついた。したがって、台湾侵攻をうかつに始めることができない。

現在の日本をめぐる安全保障環境はそういうことである。米国世界戦略に追随することは自民党の政権維持政策の柱である。しかし、そういうことはあからさまに言えないので、「存立危機事態」「敵基地攻撃(反撃能力)」などという新語を発明しただけのことである。

(2023.5.7 花崎泰雄)

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