Podium

news commentary

ワシントン参拝

2024-04-14 00:57:13 | 政治

”Boldly go where no one has gone before”と.訪米した日本国首相・岸田文雄氏は晩餐会の挨拶で、アメリカ製のドラマ『スタートレック』のキャッチフレーズを引用した。「日米はゆるぎない。前人未到の地へ、果敢に挑もう」と言った岸田氏に対して、米大統領バイデン氏は「同じ未来に乾杯」と返した。正確にいうと1960年代の『スタートレック』初期シリーズでは” boldly go where no man has gone before”だったが、のちのシリーズでは”no man”が”no one”と言いかえられた。アメリカ合衆国にジェンダーの視点が広がったせいだ。岸田氏のレセプション・スピーチを書いた日本政府のスタッフもその程度の時代の変化はわきまえていた。

日本国首相が米国の対中国包囲網に積極的に関与することを明言した。米国大統領は日本国の安全保障関係の費用負担増と、世界で指折りの軍事力を持つまでになった自衛隊と米軍の指揮統制の調整協議に意欲を示した。

思い返せば――。

1945年にポツダム宣言を受け入れて日本は連合軍に占領されたのだが、ポツダム宣言では、日本が占領を解かれて独立国となる場合は、占領軍は速やかに日本から撤収する約束になっていた。

サンフランシスコ条約で日本が主権を回復したのは1952年である。朝鮮戦争は1950年に始まっていた。占領軍が一斉に日本を去る事態は、東アジアに深刻な武力の真空を生じさせると考えた米国は、日本と安全保障条約を結んだ。この条約はサンフランシスコ条約と同時に1952に発効した。この条約で米軍は米国の反共世界戦略の最前線に軍事基地を確保した。

朝鮮戦争のさい米軍は日本駐留兵力を朝鮮半島に出動させたので、日本国内での安全保障能力が低下した。そこで、米国政府は日本政府に警察予備隊をつくるよう要請した。

警察予備隊が日本再軍備の始まりだった。警察予備隊は保安隊と改称され、1954年には自衛隊となった。自衛隊を管理する防衛庁は2007年に防衛省と改称。近い将来には航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に拡充する計を進めている。さらには、イギリス、イタリアと共同開発する戦闘機の第3国への輸出も行う予定である。GDPの1パーセントを上限とする日本の軍事費はやがて2パーセントに迫るようになる。

戦後70余年、憲法の条文を無視して日本国の首相の多くは米国に媚び続けたのである。憲法を変える前に、人事権を用いて内閣法制局に憲法条文の新解釈を編み出させて既成事実を作り上げる手法は、有権者の政治嫌悪を増幅させた。議員職の世襲化がつのる万年与党は権力の上に胡坐をかいて、仲良しのお友達とくるま座でわが世の春を合唱してきた。国債乱発のツケはかならず回ってくるし、アメリカに寄り添う保守政党が醸し出した国民の政治的悪酔いが、まだどの国も行ったことがない領域の果てに日本を追い込むことだろう。岸田首相帰国後の国会の論戦の盛り上がりを楽しみにしている。

(2024.4.14 花崎泰雄)

 

 

 

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ハーフタイム

2024-04-06 23:49:59 | 政治

4月6日から14日まで、永田町の議員の先生がたは自民党派閥パーティー券問題をめぐるつかみいあいの闘争劇を中断してハーフタイムに入った。8日から14日まで岸田首相が訪米するからだ。岸田・日本国首相はバイデン・米大統領と面談、米連邦議会で演説する。首相官邸や外務省の訪米日程を見ても、これといった緊急の案件は明示されていない。

頼・台湾新総統の就任後の東アジア情勢をめぐっての意見交換や、イスラエルの攻撃により生じているガザの人道問題、ソ連の侵攻と戦っているウクライナの問題の見通しやその対策、トランプ氏との大統領選挙の攻防など、バイデン大統領の方は、できれば岸田氏と相談したい案件を抱えている。しかし、自民党の党内スキャンダルで支持率を下げた岸田政権を相手に相談する気にはなれないだろう。相談したところで、解決の手を差し伸べてもらえないことは、バイデン氏もわかっている。

いっぽう岸田氏の方は、自民党のボス連中の怨念が渦巻く日本を離れて、ワシントンで穏やかに眠りにつくことができる平穏な1週間になる。

といっても、首相は訪米後、自民党内の大ボス、小ボス、中堅ボスの不満のガス抜きをし、自らの総裁ポストの基盤修復を行い、政治資金関連の法律の作り替えを行わねばならない。これらの作業の中でのちょっとした火花が、たまっていていたガスに引火、自民党が分解してしまうこともありうる。自民党からのスピンアウト議員が野党爆発の誘爆材になるかもしれない。

永田町あたりに棲息している人々には、プリンシプルやディシプリンは希薄な一方で、機を見ることだけには敏、という傾向が強いので、日本の有権者もやがて、心配のあまり寝つきがわるくなることだろう。春愁である。

(2024.4.6 花崎泰雄)

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サバイバルゲーム

2024-03-30 18:25:23 | 政治

3月29日、東京で桜の開花宣言があり、30日黄沙が吹いた。

3月30日はぽかぽか陽気だった。近くの公園に散歩に出かけた。公園内の遊歩道には屋台のトラックがずらりと並んでいた。桜明神の縁日のようだ。

人々は園内の草地にシートを敷き、そのうえで飲食、談笑している。お花見なのだが、木には開花した花がまだ少ない。1輪の桜花を十人以上でながめるような花見だ。普段、公園には犬を連れた散歩人が多く、犬は木の根元をかぎ、オシッコをし、時にはウンチもする。散歩者によってはオシッコにペットボトルの水をかけ、ウンチを拾って持ってきたプラスチックバッグにおさめて持ち帰る。もちろんそうでない人もいる。とはいえこの公園の遊歩道と草地は、パリの裏通りより糞が少ない。

花見らしい花見ができるにはあと数日かかるだろう。仕事を持つ勤め人には30日か31日の土日しかない。次の週末は落下さかんのころだろう。日本国首相の岸田文雄氏は花見どころではないだろう。4月に入ると党紀委員会で派閥パーティー券に関わった議員たちの処分を決めなければならない。30日付の朝日新聞朝刊によると、29日夕方自民党福総裁の麻生太郎氏と自民党幹事長の茂木敏充氏が、首相官邸の裏口から官邸に入り、岸田氏と話し合った。自民党副総裁・幹事長の党幹部が裏口から官邸に入ったのはなぜだろうか。

朝日新聞によると、自民党派閥の裏金事件をめぐり、岸田文雄首相は29日、自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ら党幹部と首相官邸で会談した。安倍派幹部ら裏金作りに関与した関係議員の来週中の処分に向け、意見交換した。麻生・茂木両氏が自民党総裁である岸田氏と会うために官邸の裏口を使ったことについて朝日新聞はその意図を記事にしてない。おそらくは来訪の記録を残したくなかったと推察できる。

4月に入って新しい週が始まると安倍派幹部だった議員たちの処分が発表される。安倍派の旧幹部たちが政治的に身動きできなくなり、影のボスとうわさされた森元首相の影響力が党内で薄くなる。麻生氏や茂木氏も今のままでは党総裁になりにくい。岸田氏本人も低支持率で党内の支持が薄らいでいる。パーティー券スキャンダルに乗じて、禍福を逆転させようとした岸田氏の派閥解消作戦が功を奏して自民党が解体し始めた。自民党は派閥の連合体なのだから。小泉純一郎氏は、自民党をぶっ壊せと叫んで自民党の人気者になった。そのおかげで後継者の進次郎氏は、これといった業績もないのに、世評では首相にしたい議員に入っている。

パーティー券キックバックの議員処分、4月下旬の衆院3補選、首相訪米などの結果に加え、首相の人気があがる外交成果がなければ岸田政権は沈没する。

 

(2024.3.30 花崎泰雄)

 

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捨て台詞

2024-03-26 01:09:29 | 政治

自民党の二階俊博氏が25日記者会見し次の総選挙に立候補しないとかたった。

自民党はパーティー券で裏金づくりをやっていた安倍派の幹部で衆参の政治倫理審査会に出席した塩谷立氏、下村博文元氏、松野博一氏、西村康稔氏、高木毅氏、世耕弘成氏から再度事情を聴き、4月に処分を決め入る方針を明らかにしていた。

二階氏の記者会見の一部をテレビが放映した。立候補しない理由は政治資金収支報告書に不記載があったためなのか、それとも、年齢の問題か、と記者が質問した。

二階氏応えて曰く。「お前もその歳くるんだよ。ばかやろう」。二階俊博氏、85歳。

アメリカ合衆国では、日本流にいえば後期高齢者にあたる男性2人が次の大統領職を目指してしのぎを削っている。お互いに固有名詞を言い間違えながら演説する。メディアは嬉しそうにそうした言い間違いをあげつらっている。あるいは、政治家にも賞味期限というものがあるのだよと、冷やかしている。

ローマ帝国のウェスパシアヌス帝は国家財政健全化のために市中に公衆便所を建て、集めたし尿を販売した。当時、し尿は羊毛から油分を落とすために使われた。せこい奴と政敵からあざけられたが、ウェスパシアヌス帝は「金は匂わない」と応じたという故事が伝えられている。

江戸の町では近隣の農家がし尿をくみ取り、住民に対価を支払っていた。

自民党の議員の一部は議員の立場を利用して、支持者の意向を汲み上げる場としてのパーティーを開き、利益率9割ともいわれる意向汲み取り料金を集めていた。

(2024.3.26 花崎泰雄)

 

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いずれにしても……

2024-03-16 23:29:53 | 政治

インドネシア大統領選挙でプラボウォ・スビアント氏が勝利した。この人は元軍人でスハルト元大統領の娘と結婚したことがあり、治安部隊のチーフとして反体制派の学生や活動家を弾圧した疑いがもたれ、スハルト政権崩壊後に軍籍をはく奪されて、一時期国外に退避していたことがある。プラボウォ氏の勝利はインドネシアの有権者の政治的記憶力の反映である。

ロシアで大統領選挙が行われた。結果が確認できるまでしばらく時間がかかるが、世界中のメディアがプーチン氏の勝利は間違いないと予測している。プーチンの勝利はロシアの選挙民の政治理解度の反映である。

今年秋のアメリカ合衆国大統領選挙はバイデン現大統領とトランプ前大統領の戦になるようであるが、政治的な判断の根拠が安定的でないトランプ氏のような人物が当選してもおかしくないという状況を生み出したのは、合衆国の選挙民の政治理解度の反映である。

日本では自民党の派閥の政治パーティー券の裏金問題で国会が大騒ぎになっている。裏金を受け取った議員たちは「知らなかった」「わからない」を連発した。だんまりを決め込む者も少なくなかった。政治資金は日本の民主政治を発展させるための活動資金であると議員たちは口にする。その大事なお金の出入りに無頓着だったということは、日本の民主主義政治の発展に無頓着だったということになる。特定政党の長期政権をゆるし、このようなみっともない事態を招いたのは、日本の有権者の政治理解度の反映である。

知らなかった・わからない・記憶にない、などと言った議員たちは専門医の診察を受けたほうがいい。残る議員たちで、政治資金をめぐる不正が発覚した場合、それを処罰する法律を作り直す方がいい。

政治資金については、個別の政党に寄付する方式を禁じ、寄付受付の窓口を一つにまとめ、「民主政治発展基金」のような組織を設けて個人、団体からの寄付を受けつける。「基金」は集めた金を希望する国会議員に平等に配布する。配布した基金の額、その使途については、着服、横領、目的外使用などを防ぐために定期的に明細を提出させる。議員は受け取った基金の一部を党組織におさめることができるが、党組織はその金の使途について「基金」に報告する。

上記のような政治資金共同募金法でもつくらないと、議員たちの銭をめぐるフーガの技法がやむことはないだろう。

(2024.3.16 花崎泰雄)

 

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歴史が逆流を始めた

2024-02-12 23:17:23 | 政治

ウクライナのゼレンスキー大統領がウクライナ軍のザルジニー司令官を解任した。ロシア軍に占領された地域の奪還が進まないことで、両者の間に確執があったという観測記事が流れたが、詳しいことはわからない。

アメリカの大統領選挙に出馬予定のトランプ前大統領の側近である元テレビ司会者タッカー・カールソン氏がロシアに行きプーチン大統領と面談した。ウクライナとロシアの戦争は24時間で止めることができる、と法螺を吹いたトランプ氏と、ロシアのウクライナ侵攻を正当化しようとするプーチンの思惑が一致し、カールソン氏がメッセンジャーをつとめたヤラセ番組のように見えるが、これも詳しいことは報道されていない。

バイデン米大統領が副大統領時代に機密文書を自宅に持ち帰っていた問題で、ロバート・ハー特別検察官はこの件でバイデン大統領を訴追しないと公表した。ついでにバイデン氏のことを「高齢で記憶力が乏しい」と評した。むかしブレジネフ政権下のソ連・モスクワで、泥酔した市民がブレジネフはバカ者だと叫びながら通りを歩いていたところ、物陰から秘密警察が現れて、国家機密漏洩でその市民を逮捕した。市民はブレジネフがバカ者だと言っただけだと抗議した。秘密警察は答えて曰く。「それが国家機密なのだ」。古い政治冗談。

トランプ氏の2023年中の政治献金のうち約70億円以上が彼自身の裁判費用に充てられていた、とアメリカで報道された。トランプ氏が裁判まみれになっているのは明らかだが、どのような手品を使えば政治献金が裁判費用に使えるのか、日本の新聞を読んでいる限り種明かしの説明はない。それにしてもアメリカの弁護士費用は途方もない額だ。

2月14日にインドネシア大統領選挙が行われる。ジョコ政権のプラボウォ国防相がジョコ大統領の息子でスラカルタ市長のギブラン氏を副大統領に立てて3度目の大統領選挙に挑む。現地の世論調査会社の調査ではプラボウォ氏の支持は50パーセントを超えているとか。2月12日の朝日新聞朝刊はインドネシア大統領選挙候補者の紹介でプラボウォ氏について「過去の人権侵害事件に関与した疑い」と書いている。参考までに英紙ガーディアンの記事をどうぞ。

https://www.theguardian.com/world/2024/jan/09/indonesia-election-prabowo-subianto-rebranding-kidnapping-accusations

30年も前の事だが、ソ連の崩壊を目撃したフランシス・フクヤマ氏は『歴史の終わり』を書いて一躍時の人になった。歴史とは民主主義と共産主義の政治イデオロギー上の対決過程であり、それは民主主義の勝利となり、歴史は終わった。そういう趣旨だった。終わったはずの歴史が、今度は逆流を始めている。歴史の勝利者であるはずのアメリカにはトランプ氏が頭をもたげ、敗者となったソ連後継のロシアにはプーチン氏が現れた。プーチン氏はNATOによるロシア包囲を恐れてウクライナに侵攻した。トランプ氏は大統領在任中にNATO加盟国に対して防衛費の増額を要求し、それに応えない国にはロシアに容赦ない攻撃してもらうと告げたことがあった、とさきごろ共和党の集会で公言した。ホワイトハウスは正気の発言ではない、と驚きの声明を出した。

日本では政治パーティー券と統一教会の問題に関わった自民党議員が次々と明るみに出て、自民党は与党の機能をはたせなくなっている。日米戦争の日本敗戦を機に、占領軍のアメリカが種をまいた戦後民主主義の生育過程が終わり、日本の政治過程が昭和・大正・明治へと先祖返りしている不気味さがある。

(2024.2.12 花崎泰雄)

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北方領土

2024-02-04 00:21:00 | 政治

第213回通常国会が始まった。永田町や霞が関を闊歩してきた自民党の派閥の議員たちがうなだれている。テレビが彼らを日本の政治の後進性の象徴のように映し出す。そのうえ派閥・麻生派を率いる自民党副総裁の麻生太郎氏が女性の外務大臣について「そんなに美しい方とは思わない」などと言ったことも国会本会議の質問で取り上げられた。麻生氏はシャッポをぬいで(シャッポはフランス語由来だが、麻生氏愛用のボルサリーノはイタリア製)発言を取り消すしぐさをした。能登地震などの問題を抱える深刻な国会審議だが、自民党派閥裏金問題から生じた失笑国会でもある。

お笑いは日本の国会だけではない。1月31日の朝日新聞夕刊によると、ロシアのメドベージェフ前大統領が、日本の岸田首相が1月30日の施政方針演説で、ロシアとの領土問題解決や平和条約締結に触れたことを受けてSNSで言った。「いわゆる北方領土についての『日本人の感情』は知ったことではない。それは『係争中の領土』でなく、ロシア(の領土)だ……特に悲しむサムライは、伝統的な日本の手法で人生を終えればいい。切腹だ。もちろん勇気があればだが」。

おりしも2月7日は政府がきめた「北方領土の日」である。ウクライナに対して侵略戦争を続けているロシアとしては、軍事的侵略で獲得した土地の返還交渉に応じるようなそぶりを見せるには今は具合が悪い。

日本の外務省は①日本とロシアは、1855年の日魯通好条約で択捉島とウルップ島の間に国境線をしいた②樺太千島交換条約(1875年)で日本は千島列島(千島列島最北端のシュムシュ島からウルップ島までの18島)をロシアから譲り受け、かわりにロシアに対して樺太全島を引きわたした③日露戦争後のポーツマス条約(1905年)で、日本はロシアから樺太の北緯50度以南の部分を譲り受けた④1951年9月のサンフランシスコ平和条約で、日本はポーツマス条約で獲得した樺太の一部と千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄した、と経緯を説明している。

1951年の平和条約は第2条(c)で「日本国は、千島列島並びに日本国が1905年9月5日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」としている。放棄した千島列島には、択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島は含まれていない、と日本は主張し、ロシアは択捉・国後・色丹・歯舞も千島列島の一部だと主張している。

サンフランシスコ平和条約の条文に関して、日本はこれらの島は千島列島に含まれないと米国側に説明したが、結局、平和条約の条文は、”(c) Japan renounces all right, title and claim to the Kurile Islands, and to that portion of Sakhalin and the islands adjacent to it over which Japan acquired sovereignty as a consequence of the Treaty of Portsmouth of September 5, 1905.”とされた。当時のソ連はサンフランシスコ平和条約に調印しておらず、また、条約は日本が放棄した千島列島の帰属先も明示していない。 日本がポツダム宣言を受諾した後に、千島列島に兵を進めたソ連が、北方4島を実効支配する形になり、それを現在のロシアが継承している。歯舞群島の貝殻島周辺にコンブ漁に出る北海道の漁船はロシアに入漁料を支払い、安全操業の目印に漁船の船体に赤いペンキを塗っている。

サンフランシスコ平和条約から70年余、その間ソ連・ロシアは歯舞・色丹の返還を考慮してもいいようなそぶりを示したこともある。日本は、国後・択捉は国際的了解では千島列島の一部であるが、歴史的には日本の領土であるとい主張を続けた。その一方で、国後・択捉を含む南千島という呼称は千島列島の権利を放棄した平和条約の条文と領域の面で混乱を生むという理由で「北方領土」という言い方に変更した。この言い方の方が日本国民から「情」を引き出しやすいからだ。サンフランシスコ平和条約第3条は「日本国は、北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする」と範囲をきっちり規定している。いわゆる北方領土問題の問題点は、放棄する権利の対象としての千島列島の範囲を示さないままで平和条約に調印したことである。

外交的な失態ではあるが、目の前には「独立回復」と「国際社会」への復帰というニンジンがぶら下がっていた。

フォークランド諸島は1833年以来英国の支配下にあり、グアンタナモ基地は1903年に米国がキューバから永久租借している土地である。ジブラルタルは1713年からイギリスの海外領土だ。フォークランド諸島をめぐっては1982年にアルゼンチンとイギリスが戦争している。グアンタナモ基地はキューバが返還を求めている。ジブラルタルはスペインが領有権を主張している。

プーチン政権のあとのロシアがどんな外交方針を採用するかわからないが、北方領土と日ロ平和条約締結の交渉は、その時までは動き出さないだろう。日本の北方領土、フォークランド、グアンタナモ基地、ジブラルタル、どの問題解決が早いだろうか。

(2024.2.3 花崎泰雄)

 

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国会が始まった

2024-01-30 18:40:11 | 政治

日本国の2024年度予算案を審議する通常国会が1月26日に召集された。

26日は開会式だけ。27・28日の土・日を挟んで29日から実質的な論議が始まった。これまでの通常国会は開会式のあと、首相の施政方針演説、各党の代表質問、そののちに予算委員会での審議が始まるのが通例だった。

こんどの国会では、施政方針演説に先立って、特別に予算委員会の議論があった。テーマは自民党派閥のパーティー券をめぐる裏金問題だ。この問題では何人かの議員が逮捕されたり起訴されたりしている。メディアが好きなスキャンダル報道もあって、自民党の派閥の多くが派閥解散を宣言した。うちは何もうしろぐらいことをしていない、解散する理由はないと突っぱねたのは麻生派だけだ。麻生太郎氏はその政治的発言のS//N比(政治的なシグナルであるSと政治的な雑音であるノイズ)が雑音の方に大きくずれていることで有名な議員である。メディアは彼の政治的シグナルは小さく、ノイズを大きく伝える。このようないきさつから、自民党執行部は首相の施政方針演説にさきがけて、派閥と裏金の問題を質す予算委員会を開くことに反対するだけの力は残っていなかった。

29日に開かれた衆議院と参議院の予算委員会で、岸田首相は①連座制の導入について自民党としての考えをまとめたい②政治活動費の効果については自民党としても真摯に対応したい、などのぬらりくらりの瓢箪鯰的答弁を重ねるだけだった。

30日は岸田首相が施政方針演説を行った。岸田首相の演説は、一言で評すなら、先送りできない課題のリストアップだった。課題のリストアップは担当省庁が行い、それを官邸のスタッフが取捨し、さいごに首相がメリハリをつけるのだが、この日の岸田演説は一覧表の朗読に終わった。どちらの方向へ、どのような手法で、問題の可決をはかるのかを示すのが、施政方針だ。それをベースにして政党が議論を尽くすのが国会の仕事なのに、岸田演説には、よろずのことについて真摯に対応したいという心構えの表明しかなかった。

家業として職を継いだけの自民党国会議員と、野心につき動かされて散り散りになった野党が演じる不毛な国会劇をすでに長い間見続けてきた。

(2024.1.30 花崎泰雄)

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さて、これからだ

2024-01-20 22:36:50 | 政治

通常国会が1月26日に召集される。

26日は金曜日で開会式だけ。29日の月曜日には自民党派閥の政治資金パーティーに関わるスキャンダルについて――品良く言うと政治とカネをめぐる問題で――予算委員会が集中審議をする予定になっている。その審議が終わったあと、30日に施政方針演説が行われる。前例がない、異様な国会の幕開けになる。

自民党が長期にわたって政権を握り続けた。その間に、日本の生産性は落ちた。賃金が下がり続けた。高等教育の予算が削られた。たまったのは国債残高と企業の内部留保だけである。過去の遺産を食いつぶすような経済になった。GDPでドイツに抜かれた。

たまらず岸田首相が「新しい資本主義」の構築を叫んだ。しかし、彼が言った新しい資本主義とはいかなるものか説明できる人はいない。おそらく岸田氏本人もご存じないのだろう。サッチャリズム、レーガノミックス、アベノミックス、と同じような中身のないネーミングで世間をけむに巻こうとしたのだ。日本は資本主義デモクラシーを標榜する国だ。新しい資本主義は新しいデモクラシーを生むのだろうか。

伝えられる自民党派閥のパーティー券売上の還流や中抜きは、日本の保守政治家の下劣な金銭感覚――品のない言い方をすると日本の前近代のまつりごとの恥部を世界にさらけだした。このまま放置すると、少なからぬ政治家たちがまたまた同じことを繰り返すだろう。何時まで恥の上塗りを続けるのだろうか。

パーティー券売りは祝い事ではなく政治献金集めだからこれを禁止する。政治献金は個人だけに認める。現金手渡しはやめさせる。銀行振り込みに限定する。政党や政治家が使った政治資金の報告書には領収書の添付を義務付ける。報告書は議員の名義で提出を求め、これを特別の監査機関で検討する。違反した議員は裁判にかける。公民権停止によって一定期間、そのような人物を政治から遠ざける。せめてその程度の制度整備はやってもらいたい。

自民党は還流に溺れ、いまや政治的に漂流している。与党としての責任上、来年度予算は成立させなければならない。自民党のオウンゴールで生まれた好機である。これを機会に政権交代に向かって攻めきれないような野党なら、政党としての存在理由がない。そもそもあれだけのスキャンダルを暴露された政党は、政治の常識からいえば、自ら下野するのがせめても良識なのだから。

今月末からの国会中継が楽しみだ。

(2024.1.20 花崎泰雄)

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性悪説

2023-12-16 22:51:29 | 政治

人間の本性は悪である。その悪い性を改善できるのは教育だ。むかし中国の荀子がそんなことを言っていた。

日本で国政に携わる国会議員の多くが、勉強をしたかどうか定かではないが、ともあれ大学を卒業している。自民党派閥の政治資金パーティー券売上金キックバックなどの行為はよくないことだと知っていながら、ついついその種の金に手を出してしまうのは、彼らの本性が悪いからだ。と同時に、これらの人びとの性根を教育で矯正することはできなかった。ロッキード事件、リクルート事件など過去に恥ずかしいスキャンダルがあったが、彼らがこれらの政治スキャンダルを教材にして政治倫理を学ぶことはなかった。

東京地検特捜部が国会閉会を機に、パーティー券にかかわった議員から任意で事情聴取を始めた。捜査が順調に運び、パーティー券スキャンダルにかかわった議員を起訴し、有罪に持ち込み、公民権停止まで持っていけるか。検察の評価がかかる展開が週明けから始まる。

自民党や野党の対応を注意深く眺めつつ、できるだけ多くの議員に対して公民権停止の判決が出るよう有権者としては、怒りの視線を政界に向けることになる。

ただし、ぼんやりと検察の捜査を眺めるのではなく、政治資金をめぐる法規制を、性悪の議員たちが逸脱できないような厳しいものに変える作業を国会に求めなければならない。まずは政治資金の使い道に徹底的に領収証の添付を義務付けそれを公開することだ。やや、これはきつい。議員稼業は子どもには継がせたくない仕事になってしまった、と現役国会議員がぼやくまでに規制をかければ、日本の政治がまともになるきっかけになるだろう。金を潤滑油に使う政治よりも、清潔第一の政治をしばらくの間やってみるのも悪くはない。

(2023.12.16 花崎泰雄)

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熊手であぶく銭

2023-12-10 16:50:37 | 政治

11月の浅草・鷲神社の酉の市は熊手。熊手でお金をかき集められますようにという縁起ものである。新年10日の大阪・夷神社の十日えびすの縁起物は福笹――商売繁盛笹もってこい。

商売をする人が縁起と実利を願って自民党派閥のパーティー券を買った。派閥の国会議員が派閥の割り当てで政治資金パーティー券を売った。ノルマを超えたぶんはピンハネ――洋風にいえばキックバック、少し品のいい日本語表現では「還流」――を享受した。むかし収入増を目論んでローマ・カトリックの教皇庁が免罪符を売り、その悪辣な手口への批判がプロテスタント教会の誕生につながった。

12月10日の朝日新聞一面に松野官房長官、西村経済産業相、萩生田政調会長、高木国対委員長、世耕参院幹事長の安倍派五人衆の面々の顔写真が並んだ。だが、世間がこれを忘れたころにはこれら5人衆は叙勲の対象者にもなるのだろう。のどかな国柄である。

政治の目標は「善」であるが、「何が善か」は人によって異なるとアリストテレスが『二コマコス倫理学』(岩波文庫)でいっている。世上一般の最も低俗な人々が解する善や幸福は「快楽」である。アリストテレスは快楽追求を善とする生活を畜獣的・奴隷的人間の暮らしと言った。他方、「政治的」生活者が追求するのは他者から己の優越性を求められる名誉である。だがこれもまた「善」とは違うものであると、アリストテレスは言う。

「パンとサーカス」状態をうまくつくり、統治しやすい国民を育成するのが統治の仕事と考える国があったし、今もある。統治者はそれによって権力者の優越性を求める。その地位を永続化させるために、非統治者に向けて快楽的社会を維持しようとする。

12月11日月曜日からのパー券スキャンダルの展開観覧を楽しみに、日曜日の御託はこのくらいにしておこう。

(2023.12.10 花崎泰雄)

 

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喧噪の世界、脱力の日本

2023-11-25 23:23:06 | 政治

もうすぐ12月だ。ウクライナ・ロシア戦争は冬の戦いに入った。ウクライナを支える米国のバイデン政権の足元はふらつき気味だ。米国からの武器援助の先行きを心配するウクライナにとってはつらい戦闘継続になる。

ガザではカタールの仲介でハマスとイスラエルが戦闘停止に入った。それぞれが拘束する人質と受刑者の解放が始まった。そのあと、平和のための交渉が始まるのか、イスラエルがガザ攻撃を再開するのか、正確な予想は専門家によってさまざまである。今回の武力衝突でイスラエル側の死者約1400人に対して、ガザの住民らの死者は約10倍の14,000人になる。パレスチナ人や周囲の国々のイスラム教徒のイスラエルに対する憎しみも増幅されたと考えられる。イスラエルはハマスの軍事部門の攻撃をイスラエルの存亡にかかわるものとみなして、ハマスの地下要塞への攻撃のために病院を襲撃した。このことがイスラエルに対する非難を高めた。

台湾で総統選挙が始まっている。来年1月13日が投票日だ。これを機に日本では、中国がいつ台湾に武力侵攻するのか、と専門家たちがあれこれ予想を口にしている。国際政治学者や戦略論のエキスパートが机上演習を滔滔と語ってくれるのだが、さて、台湾侵攻が北京にとってどんな利益があり、場合によってはどんな損失をもたらすのか、わかりやすく説明してくれる専門家は見当たらない。かつて日本帝国の海軍が真珠湾に奇襲攻撃をかけた時代と違って、台湾周辺に軍艦を終結させば、今ではその動きは手に取るようにわかる。そもそも中国軍が台湾侵攻の準備を始めたという情報はまだない。

アルゼンチンでは風変わりな右派経済学者が大統領選挙で勝利した。オランダでは反移民を唱える極右政党が下院選挙で躍進した。かつて中東やアフリカを植民費支配下に置いて甘い汁を吸った国がヨーロッパには少なくない。それが今や難民・移民の波に洗われている。

 

日本は安倍晋三氏が首相になっとき、ヨーロッパのメディアは安倍氏を右翼ナショナリストだと称した。その評判にたがわず、安倍氏は憲法の考え方に一風変わった解釈を加え、日本の防衛を増強し、米国の世界戦略に寄り添った。現在の岸田政権もそれと変わらぬ対米追従路線を走っている。安全保障環境が激変したと唱えて防衛予算を増やそうとするが、その金をどう工面するのか、はっきりと示すことができないでいる。北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げに成功した。

世界はキナ臭くなっていると岸田政権は言うが、自らの政権基盤の劣化についてはのどかな認識しか示さない。メディアの世論調査では内閣支持率が底辺をさまよっている。政権が任命した副大臣などが次々にスキャンダルで辞任せざるを得なくなった。そのうえ、今度は自民党の派閥のパーティー券売り上げにまつわる不祥事である。政治資金規正法では政治資金パーティーで20万円以上を購入した個人・団体は報告書に記載が義務付けられている。11月25日の朝日新聞朝刊によると、不記載は清和会の約1900万円、志帥会の約900万円、平成研究会の約600万円、志公会の約400万円、宏池政策研究会の約200万円だったと、政治資金オンブズマン代表の上脇博之教授が告発している。朝日新聞の報道では、こうした派閥のパーティー券売り上げ競争に駆り出されるのに嫌気がさして、派閥から離脱する議員も少なくないそうだ。

パーティー発行は利益率の高い金集め策である。売上総額から会場費などの経費を差し引いた純益(派閥収入分)には課税されないことになっている。いわゆる議員まる儲けの好例だ。なぜこんなことが可能なのか。それは規正法を創ったのが議員だったからだ。

(2023.11.25 花崎泰雄)

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井戸塀

2023-11-11 23:13:48 | 政治

週刊誌の報道をきっかけに、神田憲次財務副大臣が、自らが代表取締役をつとめる会社が税金の滞納を理由に、4度にわたって差し押さえを受けていたことを明らかにした。

野党は神田氏に財務副大臣辞任を要求している。メディアも「税理士でもある国会議員が税金の滞納を繰り返し、しかも徴税を担う財務省の副大臣だというのだから、開いた口がふさがらない」(朝日新聞社説)といった論調だ。

ところで「税理士でもある国会議員が税金の滞納を繰り返し」という記述は正確さに欠けるところがある。正確には、税金の滞納を繰り返した税理士の資格も持つ会社経営者が、国会議員であり、副大臣をつとめているということであり、彼の国会議員の立場と、会社経営者としての税金滞納の繰り返しの関連については、それがあるのかどうかまだ説明されていない。

今から20年ほどまえ、大勢の国会議員の年金保険料の未納が明らかになり、ジャーナリズムの格好のネタになったことがある。高齢化社会における福祉の根幹にかかわる未納だが、大山鳴動ネズミ一匹に終わった。国会はこのようなメンタリティーを持った人々が集うところなのだ。

私が子どものころは「井戸塀」という言葉がまだ生きていた。政治に入れあげて、ふと我に返ると、先祖代々の屋敷を失い、井戸と塀しか残っていなかった――そういう地方名家の子孫の政治ごっこに対する、世間のあざけりと当人の自嘲が込められた言葉だった。

いまでは政治家稼業は、この国では、子々孫々に引き継がれる実入りの良い稼業になっている。国会はそれほどまでにうまみのある就業先になった。それを可能にしているのが選挙の三ばん(地盤、看板、鞄)という政治資本の相続である。

(2023.11.11 花崎泰雄)

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マントラ

2023-11-05 17:19:07 | 政治

「法の支配に基づく国際秩序は重大な危機にさらされている……同盟国・同志国の重層的な協力が必要だ……力ではなく法とルールが支配する海洋秩序を守り抜いて行こう」

――色不異空 空不異色 色即是空 空即是色

「ロシアのウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ情勢をはじめ、世界各地で深刻な事態が多発し、日本周辺においても、一方的な現状変更の試みや、北朝鮮の核・ミサイル開発は続けられ、安全保障環境は戦後最も厳しいものになっています。こうした時代、変化の流れを掴み取るため、岸田外交では法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序をさらにもう一歩進めます。『人間の尊厳』という最も根源的な価値を中心に据え、世界を分断・対立ではなく協調に導くとの日本の立場を強く打ち出していきます」

――羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦

「増税メガネ」と言われていることをどう思うか、と国会審議で野党に言われたり、経済対策として減税を口にしたり、法務副大臣が辞任を余儀なくされたり、メディアの世論調査では内閣支持率の低迷が続く岸田首相は秋冷えを感じているのだろう。国会では野党の非力もあって、内閣には危機難が薄いが、首相自身はぬるま湯につかっているような冷えを感じていることだろう。湯桶の中で法を説いても念仏を唱えても、体を動かさないでちじこまっているとどんどん体温が落ちて、風邪をひいてしまうという不安がある。

世界の関心がウクライナとロシアの戦争、イスラエルとハマスの戦争に集中しているさなか、急ぎの案件がないまま、フィリピンとマレーシアに出かけたのは、政治体力維持のための遠足のようなものだ。

思い返せば、2年前の自民党総裁選挙で、岸田氏は手帳を掲げて「国民の声を聴き、手帳にメモを残してきた」と自身の聞く力を誇示してきた。あの手帳に何が書かれていたのか、何も書かれていなかったのか、詳細に報道したメディアは私の記憶にない。「新しい資本主義」などという言葉を口にしたが、岸田版の資本主義の新しい考え方についは岸田氏は実のある中身を何ら説明しなかった。

(2023.11.5 花崎泰雄)

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日朝秘密接触

2023-09-30 18:21:06 | 政治

9月29日付の朝日新聞朝刊が、日本政府関係者と北朝鮮労働党関係者が2023年の3月と5月の2回東南アジアで秘密裡に接触していた、と報じた。同紙は複数の日朝関係筋が証言した、としている。

日本の岸田文雄首相は北朝鮮のキム・ジョンウン総書記との首脳会談実現に向けた環境整備のため、今秋にも平壌に政府高官を派遣することを一時検討していた。現在では、ウクライナと戦争を続けるロシアが北朝鮮に接近するなど国際情勢の変化もあり、首脳会談の実現に向けた交渉は停滞している、と同紙は伝えた。

ところで、「5W1H」という言葉をご存じだろう。いつ(when)、誰が(who)、何を(what)、どこで(where)、なぜ(why)、どのようにして(how)の事である。学校の社会科でニュースの要件であると習った。

このニュースに登場する行為者(actor)は、日本政府関係者、北朝鮮労働党関係者、日朝の関係者の接触があったと言っているのは複数の日朝関係筋である。接触の葉所は東南アジアの主要都市とあいまいである。

東南アジアのどこかの都市で今年前半に日朝の関係者が秘密裏に接触し、日朝関係の改善に向けて話し合いをしたが、話し合いは挫折、現在は過去の交渉エピソードの1つとして記憶されている。

なぜ、この種の記事が突然浮上したのだろうか? さらに、この記事はソウルの東亜日報が今年7月に伝えた、「日朝が水面下接触」の焼き直しのようにも見える。

東亜日報は7月3日付で、日本と北朝鮮の実務者が6月に複数回、中国やシンガポールなどで水面下の接触を行ったと報じた。複数の情報筋の話として、日本人拉致問題や高官級協議の開催などをめぐって議論したが、見解の差が埋まらなかった、としている。東亜日報のニュースは日本の新聞がすぐさまフォローした。

東亜日報が伝えた7月のニュースを、2か月後に再報道するには、東亜日報のニュースを超える正確な事実が必要だ。だが、朝日新聞の日朝秘密接触報道は5W1Hに関する限り新しい要素は少なかった。東亜日報の記事については、日本の松野官房長官がそのような事実はないと否定した。今度の朝日新聞の記事については、複数の首相官邸関係者が秘密接触を事実と認めた、と朝日新聞は報じている。「複数の首相官邸関係者が秘密接触を認めた」という記述と、「複数の首相官邸関係者が匿名を条件に秘密接触を認めた」という記述では、記事の信頼度に違いが出てくる。

ところで、日本の臨時国会は10月20日に召集される。岸田政権は当面の経済政策として5項目を打ち出した。①物価高対策②持続的な賃上げと地方の成長③国内投資促進④人口減少対策⑤国土強靱、国民の安心・安全、である。岸田首相は9月28日朝、都内の運送会社を訪問してトラック運転手と人手不足や負担軽減について車座で意見交換した。国会議員やその周辺の人たちの間では、臨時国会中に首相が解散総選挙の手に出るのではないかと疑心暗鬼が広がっている。政治を前進させているという印象を国民の間にPRし、解散総選挙を予感させる状況を作り出し、その中で臨時国会の議論を乗り切ろうというのが岸田政権の思惑だ。

日朝が数か月前に関係改善を進める目的で秘密接触をしたが、結果をだすことができなかった。しかし、岸田政権が拉致被害者とその家族の思いを受けて、目に見えないところで拉致被害者全員の帰国を目指す交渉を続けている姿を国民にしめす。日朝秘密接触は結果が出なかったが、岸田政権の「やってる感」を有権者に印象づけ、解散総選挙があるうるという説得力の一助として、挫折した日朝秘密交渉が廃品利用され再報道されたと推測できなくもない。

(2023.9.30 花崎泰雄)

 

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