老後の練習

しのび寄るコドクな老後。オヂサンのひとり遊び。

『幸せ最高ありがとうマジで!』 本谷有希子

2008-11-09 12:04:59 | 演劇
この秋5本目。
今日のは普通のヒトが見たら10人中9人は不快と思うような、精神病というか、まあ最近はどこにでもいるリスカ、とか、人格障害とかをネタにしたかなり苦々しい芝居だったんだが、ワタシとしては見終わってチカラがでてきたような、帰りの渋谷駅までの金曜の夜の雑踏の中をスイスイ泳いでいける感じで、なんか前を向いてイケるような気になれるモノだった。
だからといって、繰り返しになるがタイトルのような前向きな芝居ではなくて、タイトルはタイトルで、ウソでもホント、ホント、ホント、、ってでかい声で言ってるヤツのコトバが通ってしまう世の中を笑うしかないみたいな感じでやけっぱちでポジティブなコトバを連呼しているワケで、ウラ日本の暗い田舎から出てきた時にPARCOカードの入会審査に落ちたアタシが今やパルコから芝居書いてくれって依頼がくるくらいに成功したぞ、みたいに本当は言いたい屈折した作者のキモチのあらわれでもある。

話は永作博美サン演じる疫病神のような明るい人格障害オンナが、不幸は無差別に訪れるといいながらトアル新聞販売所にやってきて、そこの家族に向かってアタシはあんたらの夫/父親の愛人で、ジブンがあんたらの夫/愛人と過ごした7年間を、あんたらがなんとも思わないならコノ7年間はなんだったのか、とわめき散らして、不幸を共有しろみたいなことをいう。
で、襲われたソコの新聞販売所にも、そもそも新聞販売所というエリートが作ってヤクザが売るような、考えてみればオカシナ商売のところには、朝3時からの広告挟みとか、押し売りまがいの勧誘とか、料金払わないボケ、とかそういうカコクな労働環境があって、そこではオンナと付き合うこともできずに変態化しつつある店主のムスコや、店主のオヤジに勤め始めたその日にゴウカンされて、その復讐のためにやめないでいる住み込みリスカ女とか、理由のあるリッパな絶望を抱えたヒトたちがいて、永作サン演じるオンナはそういう理由があるリッパな絶望にウンザリするかのようにそこの平凡な人間関係を壊すことに理由のないヨロコビを感じる。世の中の絶望も希望も、理由なんかいらない、って、これは本谷サン的世界の根本的なところのモノだ。

最後のほうではやっぱりあんたはいったい何なのよ、みたいな感じで、永作サン演じるオンナは追い詰められていくのだが、それはやっぱり今の世の中のどこにでもある不条理のようなものを擬人化しているわけで、いくらもっともらしい顔して理由のある不幸を嘆いても、それはそれとして適当にバランスを取りながら成り立っている日常が、あるとき大なり小なりの理由のない、まあテロとか、酔っ払い運転の車にはねられるとか、電車の中でナニもしてないのにチカン呼ばわりされるとか、そういう不条理のエジキになって壊れていって、ああなんという不幸な日常のトウトさよ、みたいな、、ああそれで前向きになれたのかという気もしないでもないが果たしてそういう芝居だったのか。

永作サン演じる明るい人格障害オンナは本谷サン本人に違いないのだが、そもそも人格を否定された、みたいなことに始まって、サラリーマンの人格改造とか、、人格なんて勝手にジブンやまわりが作り上げた偶像のようなもので、それに障害があろうがなかろうがタイシタ差はないと思うんだが、世間がほっといてくれないというか、そうやって世の中が平らになっていくなかで、こうやってとんがった芝居を書き続けていくのはなかなかのものだと思いマシタ。

2008.11.7 渋谷・パルコ劇場にて。

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