NHK教育テレビは不毛な砂漠の中のオアシスのような存在だ。バカを競い合うフジやら日テレのオチャラケ番組のハザマで、ときどき、たまに、偶然、オモシロいものをやっている。で、今週やってたのは柳美里が聞き手役で色川夫人にインタビューする番組。ちょうどコレを読んでいたのでおもしろく見た。
夫人の話では色川さんはバカがつくような善人で、頼まれると断れなくて、いつも家の中に他人の誰かが上がりこんで一緒にマージャンやってたような人で、遊びに来る人にはいい人かもしれないが、夫婦として一緒にいるのはホントにジゴクのような相手だったらしい。
あの、ややアブナゲな風貌やら、別の名前で書いてたマージャン本やらに引っ張られて、コレまで色川さんの本を避けてきたワタシとしては急にシタシミを感じた。一緒にいてジゴク、とは。見習いたいもんだ。
で、コノ本はまさに色川さんの自伝的な、神経の病気に苦しみながら、自分のことを気にしてくれる女のヒトとの出会いと、だんだんそういうヒモのようなものに落ちぶれていく感覚に耐えられなくなって、最後はまたボロボロになっていく救いようのない話で、読み終わったらこっちのビョーキまでひどくなった。
とは言ってもやっぱりこのヒトは天才だ。とんでもない表現が次から次へとひねり出されていて。例えばこんな感じ。
・・もうそのときには、足先にも、腿にも、背中にも、身体の随所に、痒いような痛いような感触が産まれて居る。誰かの歯が自分の身体の表面を少しずつ削り取るように、ゆっくり味わうように、触れてきている。大群で、手の動きがまにあわない。自分は七転八倒した。敵の姿がこちらの眼にも見えてくる。タラバ蟹のお化けの大群だ。人間の子どもくらいのから大人の大きさのまで居る。むろん、言葉にする余裕はもうない。自分は蟹に喰いつかれて火だるまのようになり、あぶれた蟹たちが他の人間を襲いに行くのを、何とか皆に知らせようとして――。
あぶれた蟹、ってところがシビレル。前回の小栗さんの映画もそうだが、幻影の描出こそが文学だって思えてくる。色川さんは本ができあがったときに、「狂人より」って書いて夫人に贈って、その半年後に心臓発作で亡くなった。
さりげない日常のなかに投影される等身大のワタシのヨロコビ、かなしみ、、みたいなのとか、運命的な出会いの後に不治の病で余命半年の悲劇のコイビトたち、、みたいなのとか、、嘘っぽいつくり話は捨てられて拾われて、そのうちブックオフの本棚を埋め尽くすだけ。
だから色川さんの本は新刊本屋さんで買うしかない。高い。これもなんと1300円。それがツライ。
講談社文芸文庫版、2004年刊
夫人の話では色川さんはバカがつくような善人で、頼まれると断れなくて、いつも家の中に他人の誰かが上がりこんで一緒にマージャンやってたような人で、遊びに来る人にはいい人かもしれないが、夫婦として一緒にいるのはホントにジゴクのような相手だったらしい。
あの、ややアブナゲな風貌やら、別の名前で書いてたマージャン本やらに引っ張られて、コレまで色川さんの本を避けてきたワタシとしては急にシタシミを感じた。一緒にいてジゴク、とは。見習いたいもんだ。
で、コノ本はまさに色川さんの自伝的な、神経の病気に苦しみながら、自分のことを気にしてくれる女のヒトとの出会いと、だんだんそういうヒモのようなものに落ちぶれていく感覚に耐えられなくなって、最後はまたボロボロになっていく救いようのない話で、読み終わったらこっちのビョーキまでひどくなった。
とは言ってもやっぱりこのヒトは天才だ。とんでもない表現が次から次へとひねり出されていて。例えばこんな感じ。
・・もうそのときには、足先にも、腿にも、背中にも、身体の随所に、痒いような痛いような感触が産まれて居る。誰かの歯が自分の身体の表面を少しずつ削り取るように、ゆっくり味わうように、触れてきている。大群で、手の動きがまにあわない。自分は七転八倒した。敵の姿がこちらの眼にも見えてくる。タラバ蟹のお化けの大群だ。人間の子どもくらいのから大人の大きさのまで居る。むろん、言葉にする余裕はもうない。自分は蟹に喰いつかれて火だるまのようになり、あぶれた蟹たちが他の人間を襲いに行くのを、何とか皆に知らせようとして――。
あぶれた蟹、ってところがシビレル。前回の小栗さんの映画もそうだが、幻影の描出こそが文学だって思えてくる。色川さんは本ができあがったときに、「狂人より」って書いて夫人に贈って、その半年後に心臓発作で亡くなった。
さりげない日常のなかに投影される等身大のワタシのヨロコビ、かなしみ、、みたいなのとか、運命的な出会いの後に不治の病で余命半年の悲劇のコイビトたち、、みたいなのとか、、嘘っぽいつくり話は捨てられて拾われて、そのうちブックオフの本棚を埋め尽くすだけ。
だから色川さんの本は新刊本屋さんで買うしかない。高い。これもなんと1300円。それがツライ。
講談社文芸文庫版、2004年刊