アンコールの遺跡群はアンコール・トムを中心にして見ると、西と東にはそれぞれ西バライ、東バライという大きな貯水池があって、といっても東バライはもう完全に干上がってしまっているのだが、どちらもキチっとした長方形で2km×8kmもある、もあった。で、その真ん中には小さな島があってそれぞれ西メボン、東メボンという寺院が作られた。ソレラはどちらも残っている。東メボンとアンコール・トムの間に小~中規模の寺院がたくさん作られ、ソレラについてはきのうまでに書いてきた。
そして南側にはアンコール・ワットがあって、ソレと相対するように北側にはコノ、プリア・カンがある。建てられた時期はアンコール・ワットの7~80年あとで、バイヨンができたのと、それから、鎌倉幕府ができたのともほぼおんなじ。このアンコール・ワットとバイヨンのあいだの時間に宗教の主流がヒンドゥー教から仏教に変わっていく。なのでもともとはヒンドゥー教で作られたのがこの時期に仏教寺院に改修されたりもしている。ま、ダンコンを象徴するリンガを取っ払って、仏像を置いたくらいだろうけど。もっともそのあと、王さまが交代するとヒンドゥー教徒の逆襲が始まって、仏像の顔がはぎ取られたりした。3倍返し。
で、やっぱり、アンコール・トムと建設時期が一緒ということはクニが一番栄えていた頃に建てられたということだから、アンコール・ワットの向こうを張ってどんなモノを作ろうかと相当考えたはずで、プリア・カンはとりあえず平面的には遺跡群の中でベスト5に入るくらい立派なモノ。そして、モノの本によれば単なる寺院としてではなく、さまざまな職種の人が住む村のようなものだったらしい。
見どころはたくさんある。一番有名なのは2階建の建物があるコト。日本橋の日銀本店のような形。ただしそんなに大きくはない。寺院全体が南北、東西にキレイな対称形で配置されているのが、実にビミョーに、その対称性が壊されている、その対称性に乗っからない建物のひとつがソレ。
がちがちの対称性の罠に一度はまってしまうとなかなかそこから抜け出せないものなのだが、ソレをなんとも軽やかに打ち壊してしている。ウマいっ。思わず。自在のワザ、名人のアドリブのような配置。で、ついでに2階建にしちゃった。
リンガが灯篭のように並ぶ参道とか、東門の脇の周壁の巨大なガルーダとか、そういったものもひっくるめてアンコールの中の傑作のひとつ、だろうな。