風子は、仲間と冊子を作っている。
このため、印刷会社の担当営業マンとお付き合いがある。
先日も打ち合わせのために喫茶店にいた。
もう三年の付き合いになるが、お互いに年齢は知らない。
知らないが、顔を見ればだいたいわかる。
風子が40に見えたり50に見えたりするわけもなし、
彼が、10代20代に見えるはずもない。
彼は中年だし、風子は老人である。
この日、たまたま年齢の話になった。
彼は、54歳という。
「ほう、まだ40代かと思ってました」
実際、彼は年齢よりずっと若々しかった。
訊きにくかろうから、訊かれる前に、風子は74歳ですと、言った。
え? と彼は一瞬、風子を見つめ、それから、
「ほう、そこまでとは思わなかった」
と言った。
追及しても悪いので、あははは、と笑ったが、
そこまでとは、というのは、どういう意味だろうか。
もっと若いと思っていたともとれるし、もっとバアサンと思っていたともとれる。
しかし、風子は彼のこういうイミシンなところが好きなので、
「いやいや」とこちらもイミシンに応えた。
世の中、なにもかもはっきりせないかんということはないのである。
あいまいなままの方がいい場合がありますね。
でも実年齢より若く見えますという意味だったと思います。
前後からその他の意味は読み取れませんね。
それにしてもいい言葉ですねえ。
私もいつか使ってみたくなりました。