行政書士中村和夫の独り言

外国人雇用・採用コンサルティング、渉外戸籍、入管手続等を専門とする26年目の国際派行政書士が好き勝手につぶやいています!

国籍法についての考察②

2016-08-08 07:47:26 | 行政書士のお仕事
旧国籍法で、初めて導入された

「国籍留保」という制度は、

大正13年に国籍法を下段の様に改正した上で、

勅令(今の政令に相当)指定国についてのみ、

適用された極めて地域限定の意図が込められた

法改正(昭和59年以降は、どこの国で出生した

場合にも適用)だったのであります。

第20条ノ2 勅令ヲ以テ指定スル外国ニ於テ生マレタルニ因リテ其国ノ国籍ヲ取得シタル日本人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ日本ノ国籍ヲ留保スルノ意思ヲ表示スルニ非サレハ其出生ノ時ニ遡リテ日本ノ国籍ヲ失フ

②前項ノ規定ニ依リ日本ノ国籍ヲ留保シタル者又ハ前項ノ規定ニ依ル指定前其指定セラレタル外国ニ於テ生マレタルニ因リテ其国ノ国籍ヲ取得シタル日本人当該外国ノ国籍ヲ有シ且其国ニ住所ヲ有スルトキハ其志望ニ依リ日本ノ国籍ノ離脱ヲ為スコトヲ得

③前項ノ規定ニ依リ国籍ノ離脱ヲ為シタル者ハ日本ノ国籍ヲ失フ(大正13年法律第19号により本条改正)
(大正5年法律第27号により本条追加)

旧第20条ノ2 外国ニ於テ生マレタルニ因リテ其国ノ国籍ヲ取得シタル日本人カ其国ニ住所ヲ有スルトキハ内務大臣ノ許可ヲ得テ日本ノ国籍ノ離脱ヲ為スコトヲ得

④国籍ノ離脱ヲ為シタル者ハ国籍ヲ失フ

その勅令指定国が、米国、カナダ、メキシコ、

チリ、ペルー、ブラジル、アルゼンチンの

7カ国であり、これらの国々へは、

当時国策として移民を送り込んでいた国々でも

あったのでした。

当時3ヶ月以内(当初は、多分1ヶ月程度?)で、

出生の届出を前述の日本大使館や総領事館に

行わなければならないという事は、

現代でいえば、飛行機や特急・急行列車等を

一切使わずに、各駅停車の列車で、

九州や北海道からバスや各駅停車列車を

乗り継いで東京の大使館や総領事館に

届出に来なさい!というような、

余りにも過酷な条件だったのです!

移民のほとんどが、農業移民であったはずで

ありましたから、農地のある僻地から、

3日以上も掛けて、子供の出生の届出と

国籍留保の届出を、事実上往復1週間以上掛けて、

届出に来るだけの経済的かつ時間的な余裕が

実際にあったとは到底思えないのです。

食うや食わずで、日常の農作業に追われていた

日系人移民達にとって、この国籍留保届の

義務化とは、事実上「君たちの子供達は、

現地人として定住しなさい!という意味で、

子供達の日本国籍は忘れて欲しい!」との

メッセージを日本という国家から

宣告されたことに等しかったのでした。

もし、皆さんが飛行機や、特急や急行電車を

一切利用せずに、九州や北海道の片田舎から、

各駅停車の列車のみで、東京に子供の出生届、

つまり、国籍留保届出を出しに行くことを考えれば、

相当な負担を強いた制度であることが、

お分かりになろうかと思います。

従って、国籍留保なる制度は、そもそも日本国の

棄民政策から生まれた制度と考える方が

至って合理的な考えと言えるのです。

勿論、当時の政府は、「国籍留保制度は、

在米日系人の差別に対処するために創設された!」

との表面的な政府見解がなされてはいますが、

実態は、日本人移民達への棄民政策の一手法

であることに疑いの余地は全くありません。

この棄民政策に使われた「国籍留保」という制度が、

戦後の国籍法では、二重国籍防止のための制度として、

長い年月の間、曲解され続けており、今現在でも、

そのルーツが正しく理解されていないのが、

残念ながら実情なのです。

しかしながら、前述した過酷な国籍留保件にも

関わらず、数万以上の日系人達が、

遠路遙々自分の子供達の出生届と

国籍留保届出(現在は、窓口で必ず指導

されますが、昔は、決してそうでもなかった

ようです。)を出しています。

さて、日本国籍と外国籍を留保した訳ですから、

当然現地の国籍にするのか、或いは、

日本国籍にするのかを選択しなければなりません。

ところが、この国籍の選択していない日系人や、

戦後、改正国籍法の下で、企業駐在員等のうち、

南北アメリカなどの海外で生まれた

日本人子弟の中で、自動的に外国籍を

付与されている人々が、多数出るようになり、

更に、どんどんと増えるばかりの

状態になっていたのでした。

そこで、政府は戦後の改正国籍法の法文と、

有形無実な実態との乖離を埋めるべくして、

ある奇策を思い付いたのでした。(以下、次回)

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