今朝、入管法違反者であるクライアントとその配偶者を東京入管に出頭させるべく、品川駅中央出口の時計台の前で待ち合わせていたのだが・・・。
定刻8時半になっても現れない。おかしいと思ったら案の定、ご主人から私の携帯に電話があった。「警察に留められているので、また連絡する」との事。山のように改札口から溢れ出る通勤者の流れの奥を見渡すのだが、どこに居るのかが分からない。仕方なく、再び入場して駅コンコースなどを探したが見付からない。あきらめて、再び時計台に戻ると、詰め所に連れて行かれたとの事。当然である、超過滞在者なのだから。
だから、こうして品川の東京入国管理局警備部門に配偶者と共に出頭中であったのだが、何という事なのだろうか。自首してくる者を警察署近くの駅かバス停で、逮捕してしまうような罠を張っているようなものである。
詰め所は、京急とJRとの乗り換え口の陰に隠れるような所にあった。比較的年配の私服警察官が数名おり。既に、事情聴取が行われていたのである。私は、彼らの出頭に付き添っていることを説明し、超過滞在者に関する分厚い資料を見せて簡単に説明したのだったが・・・。勿論、それで今のデジタル的なお役所仕事で、奥さんである超過滞在者を放免してくれるとは思っていなかったし、彼らにできる筈もなかった事はよく分かっていたのだった。
責任者風の刑事は、申し訳なさそうに説明はしてくれるのだが・・・。どうせ、霞ヶ関からの指示で、不法残留者の摘発数を上げるために、こんな馬鹿げたことをやらされているのである。だから、敢えて彼らに詰め寄ることもしなかった。それは、ベテラン刑事の丁重な態度からして”彼らも霞ヶ関の点取り虫達の犠牲者なんだ”と思えたからであった。私は、ただ淡々と年配の刑事に説明を続けたのだった。
幸い、クライアントご夫妻は落ち着いていて下さったので、私も冷静にご主人にご説明ができたと思う。しかし、しかし、しかし・・・だ。自主的に帰国を希望する外国人達が通る、品川駅コンコースで尋問して逮捕すれば、確かに不法残留者の検挙数はほんの一時的には増えるであろう。しかし、こんな事をして、不法残留外国人の間で噂になり、帰るに帰れない外国人が苦し紛れに、凶悪な犯罪を犯したらどうするつもりなのだろうか?
出頭者は、クライアントのように引き続き在留を希望する者やら、帰国を希望する者やら年間数万人に上ると思うのだが・・・。滞在を希望する者は、今後は車かタクシーで入管に行くようになるのだろうから、それはそれで良いのであろうが・・・。しかし、電車でしか移動できないような生活困窮者は、おそらく怖くて出頭しなくなってくると思われる。そうなると、職も無い、帰国もできない彼らに残された選択肢は何になるのであろうか?窃盗、強盗、麻薬売買、売春等々の凶悪・重大犯罪に走らざるを得ないのではなかろうかと危惧してしまうのである。
ご存じかも知れないが、帰国を希望する外国人出頭者は、出頭しても直ぐに帰れる訳ではないのである。指紋と写真を採取され、指名手配かどうかの確認がなされ、早くとも出頭から10日程は出国できないのである。だから、重大犯罪を犯して、国外に逃亡される虞は極めて少ないのである。仮にそうだとしても、顔写真と指紋は採取され、データベースのいわゆるブラックリストに記録されるために、暫くは再入国はできない筈であるし、国際指名手配も可能となるのである。それなのに、それなのに・・・。
こういった帰国しようとする出頭者に対してまで、このような馬鹿げたことを警察が続ける結果として、更なる犯罪や重大犯罪を誘発させることになったとしたら、霞ヶ関の警察官僚はどうされるおつもりなのであろうか?こんな馬鹿げた取締よりも、未解決の重大事件への捜査員の投入や、盛り場などで今でも繰り返される薬物取引や拳銃の発砲事件などを取り締まっていただきたいと、一国民として切に願う次第である。