寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

無知と傲慢

2015年04月20日 17時56分15秒 | 日記・エッセイ・コラム

 これは10年ぶりに会った親しい元同僚から聞いた話です。
 M氏は月面施設建設に関わる環境整備の仕事をしていた頃の

話を懐かしそうにしてくれたそうです。
 M氏は難しい言葉で言えば、「閉鎖環境下におけるマウスの行

動」を調べていたそうです。
 そういう彼の研究の一例を紹介しましょう。
 5匹のマウスに1匹ずつ迷路を走らせて走行時間を測定する訓

練をしておく。次に迷路を密閉して酸素濃度を20%、18%、16

%、14%に調整してマウスを走らせる。そうしてマウスが終点に

到着するまでの時間を測定する。この研究は宇宙空間だけでな

く、鉱山災害などのような閉鎖空間における行動規制に役立つ

ことだったという。
 マウスを使用した研究が一段落したので、マウスの処分を業

者に依頼し、余剰分の餌は研究棟の脇に植えてあったサツキの

根元に穴を掘って肥料になればと埋めました。
 3日ほどした雨上がりの朝、そのサツキの根元に見事な放線

状の見事な菌糸が張っていた。
 清掃の人達もキレイなどと言って見とれていたという。
 研究室に戻って調べ物をしていると、M氏の所属していた部の

責任者が息を切らせてやってきた。そして言った。
「あなたは使っていたネズミを通用口の所の植木の根元に埋め

たでしょう。そんなことをして、もし伝染病が発生したらどうするつ

もりですか。今すぐ掘り出してその後を消毒して置いて下さい」
 M氏は、
「マウスは然るべき業者に処分を依頼しましたよ」
「そんなことないでしょう。かのところに変な菌がはえていたのは

ネズミを埋めたからに違いありません」
「チョット待って下さい。それらの間に何か因果関係があるという

証拠があるのですか」
「そんなことはどうでもいいのです」
 と捨て台詞を置いて部屋を出て行ったという。
 M氏は、苦笑いしながらああいう人が部長などになるのは困っ

たものです。といったという。
 事実を認識できず、自分の無知を暴言で脅すような傲慢は慎

むべきことだと思います。困ったものですね。
 私も似たようは人を知っています。詳細を書くといろいろ差し障

りが出るかもしれませんのでかいつまんで書きます。
 彼は上昇志向の極端に強い性格でした。自分の出世(古い言

葉ですね)のためなら自分の恩人さえ讒言したりして引きずり落

とそうとするような人でした。彼は上手くいけば世の中の役に立

つ面白い研究をしていましたが、それを止めて上層部の人達に

何かと取り入ってその団体のNo.2にのし上がることが出来まし

た。しかし、以来10年近くが過ぎ、トップが数人交代になりまし

たが、彼の名前が取り上げられることはありませんでした。そう

して最近、自分の出身部署の不振の責任をとらされて退職に追

いやられてしまったそうです。彼はついにNo.1になることは出

来ませんでした。人の恨みを買ったり、哀れと思われたり気の毒

な終末ですね。
 これからの人生を気持ちを入れ替えてゆっくり過ごすことが出

来るとよいのですがと、これは老爺心(老婆心)でしょうかね。