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チャベック『ロボット』(岩波文庫,千野栄一訳)

2018-03-06 | 書評「タ行」の海外著者
チャベック『ロボット』(岩波文庫,千野栄一訳)

ロボットという言葉はこの戯曲で生まれて世界中に広まった。舞台は人造人間の製造販売を一手にまかなっている工場。人間の労働を肩代わりしていたロボットたちが団結して反乱を起こし、人類抹殺を開始する。機械文明の発達がはたして人間に幸福をもたらすか否かを問うチャペック(1890‐1938)の予言的作品。(「BOOK」データベースより)

◎ロボットという単語の創始者

手塚治虫が「鉄腕アトム」をはじめて世にだしたのは1951(昭和26)年でした。当初アトムは「アトム大使」というタイトルの連載の脇役に過ぎませんでした。主役となったのは、翌年からです。それ以降アトムは国内はもちろん、海外でも人格を有したロボットの代名詞となりました。最近では二足歩行ロボット・アシモなどが話題となるほど、「ロボット」は人間に近いものになっています。

「ウィキペディア」で「二足歩行ロボット」を検索すると、つぎのような説明があります。
――ロボットの語源はチェコの作家カレル・チャペックの『RUR』という1921年に出版されたSF小説に出てきたロボットという名の人造人間である。この小説ではロボットは奴隷として描かれており、ある日人間に反抗し人間の殺戮を開始する、というストーリーである。原典での描写に従えば、ロボットとは人間に危害を加える人造人間の奴隷ということになる。ハリウッド映画に出てくるロボットの多くが、この原典でのイメージを引き継いでいるのは理解できるだろう。

チャベックは幅広いジャンルで、作品を発表しているチェコの作家です。私の書棚にならんでいる文庫本を並べてみます。

・SF小説『山椒魚戦争』(岩波文庫)
・戯曲『ロボット』(岩波文庫)
・エッセイ『園芸家12カ月』(中公文庫)
・童話『ダーシェンカ』『ダーシェンカ・子犬の生活』(いずれも
新潮文庫)
・旅行記「チャベック旅行記コレクション」(ちくま文庫)

文庫化されていませんが、このほかに哲学3部作として『ホルドゥバル』『流れ星』『平凡な人生』(成文社「チャベック小説選集第3.4.5巻」)などもあります。

できるならすべてについて紹介したいのですが、チャベックの入門書として『ロボット』を選ぶことにしました。私たちが日常的に表現する「ロボット」という単語は、チャベックとその兄による造語です。『新明解国語辞典』(三省堂第6版)の説明ではこうなっています。

――チェコの作家カレル・チャベックの造語に基づく。もと、働くの意で、アルバイトと同原。

最近ではSF小説を執筆する際に、SF作家アイザック・アシモフの提唱する「ロボット工学三原則」(ロボットが従うべきとして示された原則)が本流になっています。ロボット三原則ともいわれますが、人間への安全性、命令への服従、自己防衛を目的とする3つの原則を順守すべきとするものです。

アイザック・アシモフのロボット関係の著作は、つぎのとおりです。
・われはロボット(ハヤカワ文庫SF)
・ロボットの時代(ハヤカワ文庫SF)

『われはロボット』に「ロボット三原則」の詳細が掲載されています。チャベックとならべて、読んでみることをお薦めします。

◎幅広いジャンルをこなす

『ロボット』は序幕と3幕で構成された戯曲です。登場人物(ロボットも含む)の動きは、きわめて抑制されています。短い会話の羅列。それゆえ簡単に読み進めることができます。訳者・千野栄一の言葉を借りれば、こんな物語です。

――長い間人間の夢であった人間が人間を作り出し、人間にとってふさわしくない仕事をその作りだされた人間――ロボット――に代行させるという筋書きの作品である。(千野栄一のあとがきより)

本書のロボットは外見上は人間とそっくりで、すべて人体のパーツと同じもので作られています。ただし人間のような感情はもたず、生殖能力もありません。人間の命令に絶対服従し、労働のみが使命とされています。

ロボットは、ヨーロッパの孤島にあるR.U.R.社(ロッサム・ユニバーサル・ロボット社)で製造販売されています。評判が評判を呼び、ロボットはたちまち世界を圧巻してしまいます。社長のドミンは笑いが止まりません。

ある日「人権連盟」会長の娘・ヘレナが訪ねてきます。ヘレナはロボットの人道的問題を、ドミンや幹部たちに訴えます。しかしロボットの献身的な奉仕に合い、しだいにその魅力のとりこになりはじめます。やがてヘレナはドミンと結婚します。ロボットたちに支えられた、優雅な毎日がつづきます。

第2幕からについての詳細は書きません。世界中のロボットが人間に反旗を翻しはじめます。世界中の人間たちが殺害され、たった一人残ったのはR.U.R.社の幹部だけでした。

ロボットたちは、生き残ったたった一人に、何を求めたのでしょうか。人間社会のおごりに、一石を投じた元祖ロボット物語は、驚くべきエンディングで幕がおろされます。

チャベックの著作では、他に『山椒魚戦争』(岩波文庫)をお薦めします。チャベックは、ジュール・ヴェルヌ、マーク・トゥエイン、レイ・ブラッドベリーとともに、ルンルン気分にさせてくれる作家のひとりです。

国内のロボット作品を集めた、井上雅彦監修『ロボットの夜』(光文社文庫)を読むと、ロボット小説の変遷が理解できるのでこれもお薦めです。
(山本藤光:2012.12.05初稿、2018.03.06改稿)

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