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畑村洋太郎『失敗学のすすめ』(講談社文庫)

2018-03-05 | 書評「は」の国内著者
畑村洋太郎『失敗学のすすめ』(講談社文庫)

世界の三大失敗をご存知だろうか。タコマ橋の崩壊、コメット飛行機の墜落、リバティー船の沈没…。これらは人類に新たな課題を与え、それと向き合うことで我々はさらなる技術向上の機会を得た。一方日本では、JCO臨界事故、三菱自動車のリコール隠し、雪印の品質管理の怠慢など、失敗の隠匿がさらなる悲劇を引き起こした。(内容説明より)

◎失敗体験が成功へ導く

畑村洋太郎は1941年生まれの失敗学の提唱者です。私は今回紹介させていただく『失敗学のすすめ』(講談社文庫)と『失敗学の法則』(文春文庫)を読んでいます。
失敗については、昔から「失敗は成功のもと」などという言葉がありました。それを学問の領域にまで押し上げたのが畑村洋太郎です。企業にはリスクマネジメントを担う部門があります。失敗から学び、大事故や大惨事を防ごうとのねらいです。勤めていた会社には、実際に「ヒヤリ・ハット事例集」などが存在していました。
私が関与した名人芸移植プロジェクト(SSTプロジェクト)では、ベストプラクティス(成功例)とともに、「ヒヤリ・ドキット」した事例を集めていました。
優秀な営業マンの成功例は、平均的な人には容易にマネができません。しかしヒヤリ・ドキットの方は、参考になる事例が豊富にあります。

優秀な営業マンほど、たくさんの失敗をしています。その積み重ねが経験となり、のちの活動に活きてきます。失敗のない営業マンは、絶対に一流にはなれません。

――失敗の特性を理解し、不必要な失敗を繰り返さないとともに、失敗からその人を成長させる新たな知識を学ぼうというのが、「失敗学」の趣旨なのです。別のいい方をすれば、マイナスイメージがつきまとう失敗を忌み嫌わずに直視することで、失敗を新たな創造というプラス方向に転じさせて活用しようというのが、「失敗学」の目指すべき姿です。(畑村洋太郎『失敗学のすすめ』講談社文庫P28)

◎失敗を怖れず挑戦したい

 失敗学について畑村洋太郎は、2つのキーワードで説明しています。

――「失敗学」における「失敗」は、(中略)「人間が関わってひとつの行為を行ったとき、望ましくない結果が生じること」とすることができます。「人間が関わっている」と「望ましくない結果」のふたつがキーワードです。(畑村洋太郎『失敗学のすすめ』講談社文庫)

 行為の結果について、成功と失敗が両端にあるとするならとの観点から、江坂彰との対談で河合隼雄はユニークな認識を示しています。

――河合隼雄と対談したとき、「心の中の勝負はほぼ五十一対四十九であり、またそれでいいのじゃないか。百点満点の人生なんてつまらん」といわれた。貴重なことを教えてもらった。(江坂彰『わが座右の徒然草』PHP文庫P193)

 何かをなさそうとすれば、試行錯誤で挑戦します。したがって、河合のいうことが腑に落ちます。

コーチングで有名な榎本英剛は、部下の失敗について上司はかくあるべきと書いています。

――「彼はよく失敗するので信頼できない」という言い方は、「失敗」という部下の行為の結果と、「失敗できない」という部下の本質とを一緒にしてとらえてしまっています。ところが、「彼がいくら失敗しても、私は彼を信頼する」という言い方は、この両者を切り離してとらえているわけです。(榎本英剛『部下を伸ばすコーチング』P61・PHP研究所)

失敗学って、とても奥の深いものです。『失敗学のすすめ』には、企業のリスクマネジメントに関する記述もたくさんあります。失敗とは何か。失敗をどう活かすのか。そんなニーズの方は、企業向けのページを飛ばして読んでください。日常のなかの「失敗」から、学ぶことはたくさんあります。失敗を怖れずに挑戦したい、と思っている方には本書は最適な指南書です。

◎代打、川藤(元阪神プロ野球選手)

青島健太の著作のなかに、川藤(元阪神プロ野球選手)についてのおもしろい記載がありました。引いておきます。

――ご存知「球界の春団治」こと、阪神の川藤幸三さん。阪神ファンのあいだでは、いまでも抜群の人気を誇っている。その川藤さんに「代打の心得」について尋ねてみたことがある。
「そんなもん簡単な話や。代打でいってカーンと打って成功したら、ワシのおかげや。もし打てずに失敗したら、この場面でワシを使った監督が悪い。そう思ってやっとった。まぁそんぐらいに思ってやらな、こな仕事はやってられんで」(青島健太『長嶋的、野村的・直観と論理はどちらが強いか』PHP新書P160)

不思議なもので、失敗ばかりに言及した本で、とてつもない「元気」をもらいました。こうすれば成功する本がわんさとあるなか、本書は真逆の立ち位置から書かれたものです。読後感がさわやかで、読んで失敗したと思わせない良書です。
山本藤光2017.12.24初稿、2018.03.05改稿

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