山本藤光の文庫で読む500+α

著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

アシモフ『ミクロの決死圏』(ハヤカワ文庫SF、高橋泰邦訳)

2018-03-08 | 書評「ア行」の海外著者
アシモフ『ミクロの決死圏』(ハヤカワ文庫SF、高橋泰邦訳)

人体を原子の大きさに縮小!物体の無限な縮小化を可能にする超空間投影法。だがその欠点は,縮小持続時間がわずか一時間ということ。米秘密情報部は,それを無限にのばす技術を開発したチェコのベネシュ博士を亡命,途中スパイに襲われた博士は脳出血を起こし意識不明に。かくてCMDF(綜合ミニアチャー統制軍)本部は,医師,科学者,情報部員ら五名を乗せたミクロ大の潜航艇プロメテウス号を博士の頚動脈から注入、患部をレーザー光線で治療する作戦をたてた。果して60分間に彼らは任務を全うして帰還できるか?(文庫案内より)

◎未知の世界が現実にせまってくる

医療の進歩は著しく、蛇を思わせるような胃カメラは、遠い昔の医療機器となりそうです。カプセル内視鏡の登場により、胃や大腸の検査から苦痛が消えます。なにしろ薬のカプセルサイズのものを嚥下すれば、体内が撮影されるのです。あとはカプセルを排泄するだけ、という画期的な検査キッドが身近なものになりそうです。

病院で医師に、実物をみせてもらいました。胃カメラ苦手の私でも、抵抗なく受け入れることができます。感心してながめながら、アシモフ『ミクロの決死圏』(ハヤカワ文庫SF、高橋泰邦訳)を思い浮かべました。

アイザック・アシモフ『ミクロの決死圏』は、おそらく私がはじめて出会ったSFの世界だったと思います。友人に薦められて読んで、未知の世界が現実にせまってきたことに感動しました。その後、映画もみました。後述しますが、これは正しい順番ではなかったようです。

SF界の巨匠といわれるアシモフは、1920年にロシアで生まれています。3歳のときに、一家はアメリカに移住します。アシモフはつねに首席をつらぬき、コロンビア大学で化学の博士号を修得しました。

アシモフの代表作といえば、『ファウンデーション・銀河帝国興亡史』シリーズです。初期3部作(銀河帝国興亡史1-3)以外は、なかなか入手できません。アメリカの国民的な本書はその人気に応えるべく、『ファウンデーションの彼方へ』『ファウンデーションと地球』『ファウンデーション序曲』『ファウンデーション誕生』(いずれもハヤカワ文庫SF)と追加執筆されています。

私は『ミクロの決死圏』と『われはロボット』(ハヤカワ文庫SF)が好きです。『われはロボット』では、有名な「ロボット工学の三原則」が登場します。どちらを「山本藤光の文庫で読む500+α」作品として選ぶかを迷いました。しかしワクワク感は捨てがたく、結局『ミクロの決死圏』を、紹介させていただくことにしました。

◎映画をノヴェライズした作品

『ミクロの決死圏』(ハヤカワ文庫SF)はアシモフが請われて、映画をノヴェライズした作品です。ノヴェライゼーションは映画の前宣伝の目的で、生まれたジャンルでした。しかしノヴェライゼーション作品は、オリジナル作品より程度が低いものという評価はついてまわりました。

ところが『ミクロの決死圏』は、映画を凌駕するほどの完成度だったのです。そのことを本書の解説で、福島正実はつぎのように書いています。

――(前略)さらには、白血球や抗体におそわれるときのスリリングな叙述といい――そのほか映画では技術的経済的理由から割愛を余儀なくされてしまった多くの部分――特に、ラストにちかく、潜航艇を破壊された主人公たちがどうして脱出するのか、彼らが脱出してしまったあと、原サイズにもどるはずの潜航艇の処理方法などなど――は、さすがはアシモフ、とその手なみの見事さに感心せずにはいられない。(福島正実の解説より)

これを読んだときに、映画をみたあとに本書を読むべきだったと後悔しました。映画と本を鮮明に重ねあわせて、比較するほどの記憶力はありません。ただし活字の世界は、おおいに満足できるものでした。随所でさすがアシモフ、と感嘆しまくりました。

『ミクロの決死圏』は、20世紀の米ソ対立を背景にした作品です。東から重症の科学者が亡命してきます。途中でスパイに狙撃されて脳を損傷してしまいます。亡命者を救済すべく、医療チームが編成されます。彼らはミクロのサイズになって潜航艇へと乗りこみます。体内にはいって1時間以内に、帰還しなければなりません。

ところがチームのなかに、スパイがまぎれこんでいます。美人のチームメンバーがいます。このあたりの登場人物は、アシモフのオリジナルではありえない設定です。潜水艇は、動脈から静脈、毛細血管を経て心臓、肺、耳、脳、目とたどっていきます。

まるでジェットコースターに乗っているような臨場感があります。淡い恋やスパイとの暗闘。まるでミステリー小説を読んでいると錯覚するほどです。

『ミクロの決死圏』には続編があります。『ミクロの決死圏2・目的地は脳』(上下巻、ハヤカワ文庫SF)は、サブタイトルにあるとおり脳をターゲットにした作品です。こちらはノヴェライゼーション作品ではなく、アシモフのオリジナルです。しかし映画化はされていません。

『ミクロの決死圏』をアシモフの推薦作とするのには、少し抵抗があります。やはりアシモフのオリジナル作品をとりあげるべきでしょう。そんなわけで、いずれ「+α」として、『われはロボット』を紹介させていただきます。 
(山本藤光:2011.04.26初稿、2018.03.08改稿)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿