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213:高校の文化祭 

2019-11-29 | 小説「町おこしの賦」
213:高校の文化祭 
 標茶高校の文化祭に招かれ、恭二は懐かしい部室に足を運んだ。「瀬口です」といってなかに入ると、三人いた女子高生が一斉に立ち上がった。
「お待ちしていました。瀬口先輩」
 そのなかの一人が深々と頭を下げて、歓迎の言葉を発した。彼女が新聞部長らしい。そう思った恭二に、彼女は自己紹介した。
「新聞部部長の、阿部かりんといいます。これから、文化祭のご案内をさせていただきます。その前に、これをご覧ください」
 壁に並ぶ表彰状を指差し、「これは瀬口先輩が獲得したときの、全国高校新聞最優秀賞のものです。回収騒ぎになった新聞も、貼ってあります」
 賞状と新聞を眺め、ついこの前のことのように思った。南川愛華がいて、詩織がいて、可穂がいた。
「ずいぶんたくさんの賞状があるね」
 恭二の言葉に阿部は、「先輩たちが築いてくださった、伝統のお陰です」といった。

 文化祭会場を一通り見た恭二は、阿部にお礼をいって高校を後にした。校門を出たとき、クラクションが鳴った。運転席から手を振っているのは、幸史郎だった。
「文化祭の帰りか? 送って行くよ。乗りな」
 恭二は勧められるまま、助手席に座った。
「コウちゃんと辺地校を、訪問した日がよみがえってきた」
「そんな日もあったな」

 車は札幌時計台を通過し、オランダ坂に差しかかった。突然、幸史郎がいった。
「恭二、詩織ちゃんのこと、どう思っているんだ?」
「今も好きだよ。大切な友だちだと思っている」
「それだけか?」
「それ以上、何だっていうんだ」
「実はな、以前、おれ、詩織ちゃんに、プロポーズしたことがある。前に冗談めかしていったけど、あれは事実だ。あっさりと断られたよ。私にはずっと、思っている人がいるって。魔が差して変な結婚したけど、その人が許してくれるまで、待つんだってよ」
「コウちゃん、変なこと知らせてくれるなよ。何だか切なくなってきた」
「詩織ちゃんのところで、降ろしてやろう。ちょっとくらいお話ししてから、家へ戻ったって遅くはならない」

 強引に、下車を命ぜられてしまった。恭二は、藤野温泉ホテルを見上げた。隣りには赤い鉄骨柱が、空に向かって伸びていた。
 恭二はホテルには入らず、そのままきびすを返した。その二が完結するまでは、会わない方がよいと考えたのだ。

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