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ダニエル・ゴールマン『EQ・こころの知能指数』(講談社α文庫、土屋京子訳)

2018-03-04 | 書評「カ行」の海外著者
ダニエル・ゴールマン『EQ・こころの知能指数』(講談社α文庫、土屋京子訳)

人の能力はIQでは測れない。人生に成功するかどうかを決めるのはEQ(こころの知能指数)だ。心理学博士ゴールマンの提唱した「EQ」はまたたく間に全世界に広がり、各国で大ベストセラーになった。IQ偏重で歪んだ社会の病理をあばき出し、本当の頭のよさとは何かをわかりやすく説く現代人必読の名著。(「BOOK」データベースより)

◎EQは日本人の価値観と共通している

小学1年生の通信簿に、担任が「管内トップのIQでした」と書いてくれました。両親は大喜びでしたし、私も鼻高々だった記憶があります。大学受験のころに、ときどき通信簿のコメントが頭をよぎりました。末は博士か大臣か、と担任も両親も思っていたようです。ところが学力テストのたびに、志望校が遠のいていくのです。

ふととんでもないことが、浮かびあがってきました。知能検査のとき「はい、止め」の声に、最後までできなかったページの端を折り曲げている、幼い自分の姿です。早くすんだページがあったら、私は折り曲げたところにもどっていたのではないか。まったく記憶にはありませんが、そうでなければ知能検査と学力テストの結果のかい離が説明できなかったのです。

最近の小学校では「IQ・知能検査」は、実施されていないと聞いています。IQが高いのは、その人の潜在能力の高さを示すなどとは考えられません。ましてやIQが高いのに、社会的に適合できない人はザラにいるはずです。そうした自身のトラウマや疑問に、明確な答えをあたえてくれたのが、ダニエル・ゴールマン『EQ・こころの知能指数』(講談社α文庫、土屋京子訳)でした。

「こころの知能指数」というタイトルには、これまでのもやもやを払しょくしてくれるほどの、インパクトがありました。著者のダニエル・ゴールマンは、私と同じ1946年生まれであることにも親近感をおぼえました。

――EQすなわち「こころの知能指数」とは何でしょう? それは、知能テストで測定されるIQとは質の異なる頭の良さだ。自分の本当の気持ちを自覚し尊重して、心から納得できる決断を下す能力。衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御する能力。目標の追求に挫折したときでも楽観を捨てず、自分自身を励ます能力。他人の気持ちを感じ取る共感能力。集団の中で調和を保ち、協力しあう社会的能力。(本書「まえがき」より)

本書のすべては引用させていただいた、「日本の読者のみなさんへ」という「まえがき」のなかにあります。そしてゴールマンは、「思いやり、自制、協力、調和を重んじる価値観は日本人の本質だ」と付記しています。

◎「自制心」と「共感力」

「自制心」と「共感力」が、EQと呼ばれる能力です。根底にあるのは、頭がよい人の不可思議な行動です。私の上司は一流大学を卒業していました。確かに頭は良いのですが、自己顕示欲が強く、いつも上から目線で接してきました。私はその上司に、まったく人間的な魅力を感じませんでした。

異動があり、後任の上司は2流大学出身でした。ところがこちらの上司は、話をよく聞いてくれ、タイミングよくほめてくれ、仕事の指示も的確でした。私は後任の上司から仕事以外に、「人間力」の大切さを学びました。

『EQ・こころの知能指数』を読みながら、何度もIQトラウマと頭の良い上司のことが浮かんできました。EQは、成長する過程の環境が大きく作用する、後天的な要素を多く含んでいると書かれています。本書にはこどもの成長にEQを活用する例も紹介されています。

私はおそらく後任の上司に、EQを鍛えられたのだと思います。EQ=感じる知性は、チームリーダーには絶対に身につけていただきたい能力です。

ダニエル・ゴールマンには、『EQリーダーシップ』(日本経済新聞社、リチャード・ボヤツィス/アニー・マッキー共著、土屋京子訳)という著作もあります。実践書としては、こちらを薦めたいと思います。

――リーダーの基本的な役割は、良い雰囲気を醸成して集団を導くことである。そのためには、集団に共鳴現象を起こし、最善の資質を引き出してやることが肝要だ。リーダーシップとは、気持ちに訴える仕事なのである。(ダニエル・ゴールマンほか『EQリーダーシップ』日本経済新聞社の序文より)

まだ読んでいませんが、「IQ(知能)とEQ(心)」の時代は終わった」と高らかに宣言する著作が出ています。キム・ムゴン『NQ・人間を幸福にする「思いやり」指数』(ソフトバンク、久保直子訳)という本です。また「アンガーマネジメント」なる新たなモデルも話題になっています。

しかし私はとことん「人間力マネジメント」にこだわります。拙著『仕事と日常を磨く「人間力」マネジメント』でも触れていますが、私は「共感力」をいちばん大事に思っています。
(山本藤光:2014.03.17初稿、2018.03.04改稿)


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