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350:祭壇での回想

2019-04-20 | 小説「町おこしの賦」
350:祭壇での回想
 焼香がはじまった。宮瀬昭子は、祭壇に深く頭を垂れた。そして胸のなかを去来するいくつもの思い出のなかの、一つをつまみ上げている。
――可穂ちゃんを、おれの子どもにさせてもらいたい。
 哲伸のプロポーズの言葉だった。昭子は、
――幸史郎さんと彩乃さんも、あなたの子どもにしてくれるのなら、その話に乗せてもらうわ
 と、答えた。
――昭子がお母さんになってくれるのなら、おれにはまったく異存はない。

 幸史郎が焼香に立った。彼はこんなことを遺影に向かって、心のなかで語りかけていた。
――おれと彩乃を子どもに迎えてくれて、ありがとうございます。親父の望みどおり、おれは家族を守り、標茶町の発展のために全力を尽くします。だから、おれがこれ以上ボケないように、どうか天国でおれを守ってください。親父、長い間ありがとうございます。

 彩乃が焼香に立った。彩乃はこんなことを、父に伝えた。
――お父さん、お疲れさまでした。もっともっと親孝行をすべきだった、と反省しています。お父さんの笑顔が、大好きでした。お父さんの代わりに、お母さんを大切にします。だから安らかにお眠りください。

 可穂が焼香に立った。
――お父さんの子どもになれて、幸せでした。高校新聞のときは、嫌な大人の一人でしたが、お父さんはやさしくて人情味のある最高の大人だったことを、一緒に生活するようになってから知りました。お母さんを大切にします。ご安心ください。

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