北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「アジア沈澱旅日記(宮田珠己著・ちくま文庫2018刊/2014版の文庫化)」を読んだ。宮田珠己(みやたたまき1964生れ)氏は、大阪大学(工学部)卒で、リクルートを経て、現在は主にアジア旅とレジャーのエッセイを中心に作家活動を続けている。-----
「アジア沈澱旅日記」のタイトルが奇異に感じられるが、単行本の際は“旅はときどき奇妙な匂いがする”としたそうであり、その元の雑誌連載時には“アジア沈澱旅日記”だったそうである。普通感覚の作家のエッセイとは異なっているのは、欧米やアフリカ、南米ではなくて、日本を含むアジアを対象としている処が、何だかある種、日本に似ていなくもないという不思議な感覚にさせるのだろう。台湾、マレーシア、インド、熊本となっており、訪れる先が小奇麗でない処が多いようであり、場末の温泉であったり、観光地化していない雑然とした非日常を探しているのか、旅人にすれば、現地の人が日常であっても、全て非日常になると書いている。-----
薄汚れた題材のエッセイばかりであり、何の役に立つのだろうと思っていたら、ヒントが最初の方に書かれていた。宮田珠己氏は旅に出掛ける際には、5冊ほどの文庫本を所持するそうであるが、そのような際には、嫌いな飛行機の中、旅先での暇な時間に、文庫本が時を忘れさせてくれるとありがたいのであるという。その立派な役割を果たすために最適などうでも良い話題を連ねたエッセイ集を書いたのだと宣言しているのだ。果たしてそのような本に「アジア沈澱旅日記」が選ばれるだろうか疑問に感じた。