このエキスコンのシリーズではスーパーコンピュータ、いわゆるスパコンのことを話題にとりあげている。
前回からすでに一年が経過しているが、その間に中国が「天河-1A」というスパコンを発表し、世界トップの性能であることを誇っている。どのような目的でこのスパコンが製造されたかということはよくわからない。
手元にスパコンの記事が掲載された雑誌が届いた。スパコンの最近の事情について専門的な立場から解説した内容である。その中にもこの中国の天河の資料がある。
天河のコアは186368あるという。最近では、かってのCPUのことをコアという。複数のCPUを一つの半導体素子(ダイ、英語ではdieという単体、台という日本語がわかりやすいであろう)の中に組み込んで外観はこれまでの単体のCPUと変わらないものが製造されている。たとえば2つのCPUが一つの素子に組み込まれたものをデュアルコア・プロセッサと呼んでいる。
天河にどのような複数個のコアをもつプロセッサが用いられているのだろうか。いずれにしても膨大な数のコアである。天河の全景は写真を見ても巨大なスパコンである。性能は4701000giga-flopsであるという。10の9乗がgigaである。より上の位取り表示によるpetaは10の15乗であるから、4.7peta-flopsである。エキスコンの表題に用いているエクサ(exa)で表示すると0.0047exa-flopsである。天河は、エキスコンとはいえないにしても世界最高の性能を誇るスパコンであることは間違いない。
このようなスパコンの性能は、一般的に標準化されたベンチマーク・テストのプログラムで測定される。従ってこのベンチマーク・テストに適合した構成のスパコンとすればギネスブックに登録できるスパコンは作成できる。いま中国で稼働し始め、スパコンの天下を取った天河による処理がどのような科学的な成果を生み出すのか注目したい。
さて話題を学会の読み物記事に戻そう。その記事のタイトルは、「The Tops in Flops」で著者は、Peter Kogge氏であり、現在は米国のノートルダム大学の教授、1970年代にはIBMでスペース・シャトル用のアレイ・コンピュータの開発に従事していたと紹介されている。
米国国防省管轄のDARPAから2007年に委託された2015年でのスパコンの性能に関する研究報告書を要約した紹介記事が「The Tops in Flops」であると筆者は解釈している。DARPAが示した内容は2015年には10の18乗flops、記事にはquintillionと書かれているがexa-flopsと同位の性能を有するスパコンに向けての技術開発動向を明らかにすることが研究目的であるという。コゲ(Kogge)教授は、有数なコンピュータ科学者を集めたグループにより、数年間にわたり資料を収集し、多くの討議を重ねて278ページの報告書をたたき出した(hammered out)と述べている。
結論から言うとDARPAが要望するスパコンの「出現は困難である、むしろできない」とコゲ教授はいいたいらしい。この話題はこのエキサコンで、いずれ取り上げてみたい。
この記事を読んでいてDARPAがこのような高い性能を要求するスパコン、まさにエキサコン、はどのような背景の目的があるのか、スパコン天河と同様によくわからない。いかに高性能のスパコンを用いたとしても解けない問題があることは、これまでのエキサコン・シリーズの中で述べている。
そのような課題に立ち向かうのだろうか。
(納)
追記
紹介記事の本文をよく読んでみると天河のベンチマーク・テストは 2.57peta-flops と書かれている。これは実測結果であり、上記中の 4.7peta-flops は、名目的な値と推察できる。もし実測したのであればスパコン天河の大きな目的はベンチマーク・テストでスパコンの世界でトップとなったことを誇示することなのかもしれない。