劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

日生劇場の「コジ・ファン・トゥッテ」

2018-11-11 17:31:48 | オペラ
11月10日の昼に日生劇場でモーツアルトの「コジ・ファン・トゥッテ」を観る。1時30分に始まり、20分の休憩を挟んで終演は5時過ぎだった。客席は満員。オケは読響で指揮は広上淳一、演出は菅尾友。モーツアルトが好きなので、観にいったわけだが、演出のひどさにがっくり来た。

完全な読み替え演出で、時代は現在、大学の研究室のようなところでパスコンおたくのような学生が、好きな女子学生のアンドロイド(ロボット)を作り、それに恋して恋人同士になるというような設定。おまけに、主要な場所は、大学の男子トイレだったり、女子トイレだったりして、まったく下品な事この上ない。読み替え演出が一概にだめだというつもりもないが、9割以上の確立で失敗するのでやめた方が良いだろう。

特にこの作品は、人間の女性が、貞節を守ると見えても、そんなことは幻だとして、賭けをするわけで、二組の恋人の男性二人が、変装して入れ替わって口説いて成功するかどうかというのが、話の骨格だ。ところが、変装して(ドレッド・ヘアーのヒップ・ホップ系のムード)登場するが、入れ替わって口説かない。おかしいなと思って見ていると、女性の方が男性を選ぶムードの演出だ。いくら女性上位時代だとは言っても、口説いたら落ちるということを立証する賭けなのだから、女性側が選ぶ演出はおかしい。また、女性は黄色とマゼンダ、男性側は緑と青という区別になっていて、黄色と緑、マゼンダと青がカップルというのだが、組み換えがいつ起こるのかとみていて分かりにくいこと甚だしい。紅組と青組とかカップルは色を合わせないと観客側は混乱してしまう。

おまけに、相手がアンドロイドだとしたら、人間の女性の心などあり得るのかという疑問もわく。

また、歌手たちは歌っているときも含めて、常に動き回っている。そのほかにも正体不明のロボットが動き回る。せっかくの聴かせどころのアリアになっても動き回るので、落ち着いて音楽が聴けない。観ていて、下手な歌だから、聴かなくて済むように舞台の動きでごまかす演出なのかと思ったほどだ。

大体、ドイツ系の演出というのは、歌手が下手だから、そうやってごまかす傾向があるが、モーツアルトの作品だし、イタリア語なので、きちんと落ち着いて聞きたかった。歌はそんなにひどいということでもないが、ソプラノとテノールは不安定な部分が結構目に着いた。まあ、結構難しい歌なので、動き回りながら歌わせるのかかわいそうではないかと思った。

照明も良くないと、きちんと言っておく。なぜ歌っている歌手に照明を当てないのか。基本が崩れている。

今回のプロダクションは、日生名作シリーズとして、小中高校生を招くようだが、こんなのを見せられたら、オペラが嫌いになるのではないかと心配した。急いで家に帰り、ソーセージの食事を済ませて、グルベローバ版の「コジ」を見て、口直しをした。

新国立劇場のバレエ『不思議の国のアリス』

2018-11-04 10:52:28 | バレエ
11月2日(金)の夜に新国立劇場で、新製作のバレエ『不思議の国のアリス』を観る。今シーズンの幕開けの公演で、新製作だということもあり、満席で、ロビーも結構華やいだムードだった。ルイス・キャロルの原作ということもあり、子供も結構見に来ていた。今回の作品は英国のロイヤルで初演された作品で、オーストリア・バレエとの共同制作ということもあり、オーストリア・バレエからもゲスト・ダンサーが参加していた。途中で25分間と20分間の休憩を挟むが、午後7時に始まり、終演は午後10時ぐらいだった。

話は原作の内容に沿ったもので、アリスが小さくなったり大きくなったりするのをバレエでどのように表現するのだろうと思っていたが、見てみると、最新のプロジェクション・マッピング技術などをうまく使って、違和感なく、表現していた。エピソードが多く、登場人物も多いので、話の内容を表現するためにマイム的な部分が多く、踊りをじっくり見せる場面は少ない。一幕が約一時間あり、19世紀の上流家庭の娘アリスが、写真撮影で不思議の国に迷い込み、いろいろなエピソードが展開される。物語がどんどんと進むし、話の内容についていくのがやっとという感じで、踊りの見せ場はあまりない。そうした意味では、バレエというよりもパントマイム劇に近い印象だ。一幕後半に出てくる台所の場面では、大きな包丁を持った料理女(本島美和)が素晴らしいジャンプの踊りを見せている。

二幕と三幕は比較的短いが、一幕よりも踊りを見せる場面がある。二幕の花園の群舞はなかなか楽しめた。二幕のバレエを見ていると、なんとなくアグネス・デ・ミルが「オクラホマ!」の幻想の踊りとして振り付けた作品を思い出した。少し似ているかも知れない。三幕の最後はトランプのカードで作られた建物が崩れてなくなってしまうスペクタクルな場面だが、昔、浅草国際劇場でSKDがやっていた屋台崩しの方が迫力があったなあなどと思う。

全体として、息をもつかせぬ展開で、エンターテインメントとしてはまことに楽しめる作品だが、純粋なバレエの踊りというものを期待する人には物足りないかも知れないと思う。振付は、クリストファー・ウィールドンで、舞台版のミュージカル『パリのアメリカ人』を振付けた人だから、物語の展開がうまいと思った。装置や衣装のボブ・クロウリーやナターシャ・カッツもブロードウェイやウエスト・エンドで活躍している人たちなので、商業的な面白さも盛り込まれている。

音楽はジョビー・タルボットで、現代的な響きを持ちながらも、不協和音でうんざりというわけではなく、うまく書くものだと思った。特に三幕で出てくる、ローズ・アダージョのパロディの場面など、ちょっと聞いただけでチャイコフスキーの原曲が浮かびながら、別の曲になっているという、職人技を見せている。このローズ・アダージョのパロディは、ハートの女王が、赤いバラを植えさせていて、白いバラにペンキを塗っている家臣たちのエピソードの後に出てくるわけで、うまく作ってあると感心した。

アリスは米沢唯が出ずっぱりの熱演。ハートの女王役はオーストラリアから来たエイミー・ハリス、手品師のジャレット・マドゥンもオーストラリアからのゲストで、達者なタップ・ダンスを披露した。

踊りを楽しむために何度も見たいかというと、そうでもないが、楽しいエンターテインメントなショーに仕上がっていた。

帰りにイタリア料理店で軽い食事。イタリア産のピノ・グリージの白ワインとシーザー・サラダ、生ハム盛り合わせ、ペスカトーレのパスタ。

「ミス・サイゴン」の25周年記念公演

2018-11-01 12:18:51 | ミュージカル
ブルーレイで出ている「ミス・サイゴン」の25周年記念公演収録舞台を観た。2014年にロンドンのプリンス・エドワード劇場での公演を収録したもので、公演後に初演のメンバーも入ったガラコンサートがあり、その部分も収録されている。

HDの美しい画像で収録されていて、音も良いので、まるで本当の舞台を観るような迫力で楽しめる。映像収録の監督はブレット・サリヴァンとなっているが、ちょっとクロース・アップが多く、テレビ中継か映画のような編集になっている。もう少し舞台の全体像が分かるとありがたいと思ったが、まあ、全体としては楽しめた。

キム役はエバ・ノブルザダで、エンジニア役はジョン・ジョン・プリオネス。詳しく調べていないが、二人とも東洋系の顔立ちに見えた。歌は二人とも素晴らしく、役柄にもあっている。日本での初演は確か帝劇だったと思うが、ずいぶん前に観たので、細かい点は忘れていたが、今回見直して、思い出した。

最後のガラ・コンサートでは、初代のエンジニア役が再登場して「アメリカン・ドリーム」を歌ったりするが、最後には作者のアラン・ブーブリルやシェーンベルクが出てきて挨拶するほか、製作者のキャメロン・マッキントッシュも話をする。マッキントッシュは一時代を築いたが、最近はどうしているのだろうと思いながら観た。

知った話なのだが、見直しても結構面白く、感動的ですらあった。HDで見るとオペラでもバレエでも、ミュージカルでも結構臨場感があるので、もっとどんどんとこうした収録作品が増えるとありがたいと思う。ロンドンでは、最近「巴里のアメリカ人」が収録されて映画館で上映されたようなので、早く日本でもブルーレイで発売してくれないかなあと思った。