劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

国立小劇場の文楽「本朝二十四孝」

2022-12-20 10:33:21 | 文楽
12月19日の夜に国立小劇場で文楽「本朝二十四孝」を見る。最終日だったせいか、ほぼ満席。今回の公演は二段目と四段目を上演する半通し。17時に始まり、25分の休憩を挟み、終演は20時48分。

12月はベテランの出ない、若手、中堅の公演なので、上演のレベルはあまり期待できないが、二段目と四段目を続けてみる機会は少ないので、楽しみにしていた。歌舞伎では四段目の「十種香」の場面がよく出るが、通しはほとんどないので、今一つ物語や人間関係がわからないが、半通しで二段目が付いていると、全体の人間関係がわかって面白い。ぜひとも初段からの通しを上演してほしいものだ。

人形も太夫も若手中心だから、正直言ってレベルが低い。それでも、前半の織大夫は立派に語り、籐太夫もそこそこの水準で楽しめた。問題は後半の四段目で、十種香の場面は呂勢太夫が語ったが、不調なのかあまりよろしくない。この人の持ち味は高い声の美しさにあるのだが、低い声が妙に聞き取りにくい発声で、声も出ていなかった。奥庭狐火の希太夫は相変わらず聞いていて不安になるような調子だが、それでもこの場面は人形が大活躍し、三味線の清志郎が気迫のこもった演奏をしたので、それなりに見れた。最後の道三最後の亘太夫もこの場を語るには力不足。太夫は本当に人がいない。

それでも、四段目の最初の景勝上使を語った碩太夫は、今後の伸びが期待できそうで、こういう太夫が何人か出てくれるとありがたい。まだ若く見えたが、発声がきちんとしており、声がよく出たのが良い。また、音程もしっかりしていて調子っぱずれにならない。情感を込めた語りという点ではまだまだだが、これからの伸びに大いに期待できると感じた。

寒いので、急いで家に帰り軽い食事。キャベツのサラダ、豚肉のロースト、チーズなど。飲み物はシャルドネ。

文楽「奥州安達原」

2022-09-16 11:36:05 | 文楽
9月15日(木)の夜に、国立小劇場で文楽「奥州安達原」を見る。8割程度の入り。

三段目の有名な「袖萩祭文」を中心にプロローグとおまけの道行きを付けたような構成。勘十郎の遣う袖萩が見どころだった。

最初の朱雀堤は、駆け落ちした娘袖萩と親の平傔が偶然出会う場面。二線級の太夫が4人並び、三味線の清志郎だけが頑張る形。まあ、前座だからしょうがないと諦めた。

続く袖萩祭文の関係は、小住太夫、織太夫、呂勢太夫と中堅が続き、切は錣太夫。中堅の中では織太夫が突出して良い。呂勢太夫は美しい声が持ち味だが、発声が妙に技巧的過ぎて逆に聴きづらくなってしまい、伸び悩んでいる印象。呂勢太夫には三味線で清治が付いたが相変わらず素晴らしい情感を表現する演奏。しかし、しばらくぶりに見ると髪の毛も白くなり、ずいぶんと老けた印象だった。小住太夫は、伸び盛りといった印象で、これからに期待が持てそう。

切場語りとなった錣太夫だが、ちょっと活舌に問題があり、聞きづらい点が目立つ。それでも力演。三味線は宗助で、力強い響きで好感が持てた。

袖萩祭文は最後は、自害が続き、そこで終わったら後味が悪いと思ったのか、おまけに道行きが付いた。しかし、30分弱の幕だが、見ないで帰ればよかったと思うほどの出来の悪さ。万年修行中みたいな太夫が5人並んだが、聞いているのがつらい。三味線も五丁だが、タテを弾くのが錦糸なので、ちょっとかわいそう。人形も踊るのだが、これも出来が悪く、かえって気分を害する結果となった。隣の席で見ていた人は、道行きを見ないで帰ったが、それが正解という感じ。

家に帰って、軽い食事。サラダとパテ・ド・カンパーニュ、マフィン。飲み物は白でシュール・リー。

文楽「競伊勢物語」

2022-05-18 14:41:14 | 文楽
5月17日(火)の昼に国立小劇場で、文楽を見る。伊勢物語に題材をとった作品で初見。東京では35年ぶりの上演だとチラシにはあった。2時30分開始で、15分の休憩を挟み、終演は5時12分だった。30分程度の玉水渕の段と、2時間近い春日村の段。満席かと思ったら、6~7割しか入っていなかったのでちょっと驚いた。

太夫は、玉水渕が最初に亘太夫、奥が織大夫。亘太夫はまだ前座だが、聴いているほうがつらい。織大夫は希望の星だが、疲れているのか元気がなかった。プログラムを見てみたら、咲太夫が休演で、代わりを織大夫が務めているので、午前に自分の出番と師匠の代役を務め、午後にまた出ているので疲れるのも無理はない。

春日村の段は見せ場で、最初が小住太夫、続いて籐太夫、最後が千歳太夫。3人ともそれなりに頑張っていた。特に籐太夫は成長著しい感じ。毎回熱演の千歳太夫だが、今回はお茶が出て、弟子が横に座ったので、切場語りになったのかと思ってプログラムを確認したら、ちゃんと「切」となっていた。ネットで調べると、今年の4月から、千歳太夫を含めて3人が切場語りに昇格したようだ。70歳代の呂太夫と錣太夫、そして62歳の千歳太夫だ。現在唯一人残っている切場語りの咲太夫が77歳で、休演がちだから、そろそろ次の世代を指名したのだろう。咲太夫の昇格が2009年だったので、それ以来13年ぶりだが、東京の公演ではチラシにも説明がなく、ちょっともったいないなと思った。

まあ、一番若い千歳太夫は実力も備わってきたが、ほかの二人はちょっと心配。千歳太夫の後は、織大夫や呂勢太夫、籐太夫あたりが10年後を目指すのだろうという印象。

今回の公演の人形は、母親の和生、有常の玉男は良いが、ほかが若手で弱かった。せめて娘信夫(しのぶ)役はもう少しベテランを当ててほしかった。それでも、珍しい演目を楽しみ、なかなか面白い作品だと思った。

ちょうどよい時間になったので、行きつけのビストロで食事。鰯のマリネ、ビーフのフリット、ブラマンジェなど。コート・ド・ローヌの赤。

文楽「加賀見山旧錦絵」

2022-02-15 11:23:58 | 文楽
2月14日(月)の昼に国立小劇場で文楽「加賀見山旧錦絵」を見る。午後2時40分開演で、15分間の休憩をはさみ、終演は午後5時20分ごろ。文楽はコロナ陽性者が出たため、5~12日は休演だったので、14日に上演されるか心配していたが、無事に見れてよかった。1部と3部は若干の出演者変更があったようだが、今回見た2部は予定通りのメンバー。1週間休演だったから満席だろうと予測していたら、ちらほらと空席があり、8割程度の入りだった。もしかしたら切符を買ったが来なかった人もいたのかもしれない。

今回の「加賀見山」は、御家騒動と理不尽なお局様の中老へのいじめ、その中老付きの腰元によるお局への復讐劇で、実話を膨らまして脚色した作品。最初の「草履打ち」では人間国宝となった咲太夫と、その弟子織大夫らが語る。三味線は燕三という、豪華な顔ぶれ。聴きごたえがあった。

続く「廊下」では三輪太夫と團七。ここで腰元のお初が登場するが、勘十郎が遣っていたので、ひときわ大きな拍手が起こる。前半は低調な語りだったが、だんだんと良くなって頑張った感じ。

山場の「長局」では、千歳太夫が前半を語り、後を織太夫が語った。千歳太夫の語りは脂がのってきた感じで、見事な出来栄え。思わず引き込まれた。ここは和生と勘十郎が並行して人形を使う場面で、芝居も語りも人形も三味線も、すべて上出来。これぞ文楽の醍醐味という感じ。

最後の奥庭は、付け足しだが、語りは若手で弱いが、三味線の清志郎が気迫で引っ張って盛り上げた。

全編にわたって、「仮名手本忠臣蔵」へのオマージュが溢れていて、そうした作劇法も見物。語りも三味線も人形も、今の文楽では一番のメンバーがそろった名舞台だと思った。

すっかり気分が良くなって、帰りはフグ屋で食事。てっさ、白子焼、ふぐちりなど。飲み物はひれ酒。

文楽「仮名手本忠臣蔵」

2021-12-09 11:10:33 | 文楽
12月8日(水)の夜に国立小劇場で文楽の「忠臣蔵」を見る。通し公演ではなく、前半の切腹場を中心としたダイジェスト版。12月の文楽は大御所は出演せずに、中堅と若手中心の公演だから、あまり期待はしないのだが、やはり12月には「忠臣蔵」を見たいので、14日の討ち入りの日を前に雨の中を出かけた。

大序はなく、2段目の「松切場」から始まり、3段目の「進物場」「刃傷場」、そして4段目の「切腹場」「城明け渡し」となる。ここで終わるとしんみりするので、最後に8段目の「道行旅路の嫁入り」がついた。

やはり大序がないのは寂しいが、5時から始まって20分と10分の休憩をはさみ8時5分に終わるという、正味2時間半の公演だから、各場面も大幅に短く刈り込んであり、なんだかあわただしいだけで、芝居を観たという感じがしない。

ほかの所用があったので、「松切場」と「進物場」は見れずに、「刃傷場」から見たが、メインは織太夫の語る「切腹場」だから、問題はなかった。織大夫は燕三の三味線に乗せて、丁寧に語ったので、この場面は聞きごたえも見ごたえもあって楽しめた。

「城明け渡し」は随分と短くなっていて、硯大夫が御簾の中で語ったが、ほんの一言二言で終わってしまうという、短縮版。

最後の「道行」は小浪が呂勢大夫、戸名瀬が咲寿大夫、ツレが3人で、三味線も5丁。呂勢大夫がかろうじて合格点だが、ほかの大夫は修行中といった語り。人形も心もとなく、唯一光ったのは清志郎の三味線だけだった。

それでも年末に「こうもり」や「第九」だけでなく「忠臣蔵」を何とか見ることができた。早く上演時間をもとに戻して4時間半ぐらいの公演にしないと、きちんとした上演ができないという印象。

帰りがけにスペインバルで軽い食事。生ハム、オムレツ、サラダ、あん肝のアヒージョ、イワシのオーヴン焼などをつまみに、各種ワインを飲んだ。