いそのかみ ふるのなかみち なかなかに みずはこひしと おもはましやは
石上 ふるの中道 なかなかに 見ずは恋しと 思はましやは
紀貫之
なまじ逢ったりしなければ、これほど恋しいとは思わなかっただろうに。
「ふる」は「布留」で、現在の奈良県天理市石上町あたりを指す地名です。「中道」は「道の途中」の意で、特に男女の間に通う道を表します。第一句・第二句は、「中道」と同音で始まる「なかなか」を導く序詞ですね。序詞は歌意とは直接関係ないことが多いですが、この歌では恋しい人は布留に住んでいて、「中道」は逢瀬のために通った道なのかもしれません。
「なかなか」は 0594 でも使われていますので、そちらもあらためてご紹介しておきましょう。
あづまぢの さやのなかやま なかなかに なにしかひとを おもひそめけむ
東路の 小夜の中山 なかなかに なにしか人を 思ひそめけむ
紀友則