さむしろに ころもかたしき こよひもや われをまつらむ うじのはしひめ
さむしろに 衣かたしき 今宵もや われを待つらむ 宇治の橋姫
よみ人知らず
筵(むしろ)に衣を敷いて一人で寝ては、今宵も私を待っているのだろうか、宇治の橋姫は。
冒頭の「さ」は接頭語で「さむしろ」は「むしろ」と同義。「衣かたしき」は独り寝の意。当時、共寝の場合は互いの衣の袖を敷いて寝た一方、独り寝では自分の衣敷くことになることから、この意味になったもの。この歌には「または、宇治の玉姫」との左注がついており、第五句には2種類が伝わっています。「さむしろ」「衣かたしき」と聞けば、やはり百人一首の名歌が思い出されますね。新古今集採録で、古今集のこの歌を本歌取りした一首です。
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
後京極摂政前太政大臣
(新古今和歌集 巻第五 秋歌下 第518番)