泉の大将亡せたまひてのちに、隣なる人の家に人々いたりあひて、とかく物語りなどするついでに、かの殿の桜の面白く咲けるを、これかれあはれがりて歌よむついでに
きみまさで むかしはつゆか ふるさとの はなみるからに そでのぬるらむ
君まさで むかしは露か 古里の 花見るからに 袖のぬるらむ
泉の大将が亡くなって、その隣の家に人々が集まってあれこれと語り合うついでに、大将の家の庭に桜が美しく咲いているのを、皆があわれに感じて歌を詠むついでに詠んだ歌
あなたさまがおいでにならなくなって、昔のことが露と消えてしまったからか、昔馴染みのこの場所で桜を見ると、花に露が置くように、袖が涙で濡れてくることです。
「泉の大将」は藤原定国(ふじわら の さだくに)のこと。貫之集はこの定国の四十賀に寄せた屏風歌二首(001、002)から始まりました。
この歌は、続古今和歌集(巻第十六「哀傷」 第1398番)に入集しており、そちらでは初句が「おもいいづる」、第四句が「はなみるごとに」とされています。