兼輔の中将の妻亡せける年の十二月のつごもりに、いたりて、物語りするついでに、むかしを恋ひしのびたまふによめる
こふるまに としのくれなば なきひとの わかれやいとど とほくなりなむ
恋ふるまに 年の暮れなば なき人の 別れやいとど 遠くなりなむ
兼輔の中将の妻が亡くなった年の12月末日に、兼輔のところに行って語り合いながら昔を恋しく思いだして詠んだ歌
亡くなった奥方を恋しく思いながら年が暮れたならば、故人と過ごした日々が一層遠いことのようにお感じになることでしょう。
妻を亡くした兼輔の心中を思いやっての詠歌ですね。この歌は、後撰和歌集(巻第二十「慶賀哀傷」 第1425番)、拾遺和歌集(巻第二十「哀傷」 第1309番)に入集していますが、後撰和歌集では兼輔の歌への返歌として採録されています。
なきひとの ともにしかへる としならば くれゆくけふは うれしからまし
亡き人の ともにし帰る 年ならば 暮れゆく今日は うれしからまし
もし今年が、亡くなった妻と一緒に帰ることができる年であるならば、一年が暮れてゆく今日という日は、どんなに嬉しいことだろうか。
最後の「まし」は反実仮想。ともに過ごせたらどんなにか嬉しいことかと想像することで、一層の喪失感を表現しています。とても切ないですね。