するがなる たごのうらなみ たたぬひは あれどもきみを こひぬひはなし
駿河なる 田子の浦波 立たぬ日は あれども君を 恋ひぬ日はなし
よみ人知らず
駿河の国の田子の浦の波が立たない日はあっても、私があなたを恋しく思わない日はないのです。
「田子の浦」は、同じ静岡県内ではありますが現在の田子の浦港とは別の場所のようです。万葉時代の歌枕として著名な場所で、山部赤人の詠歌はつとに知られていますね。
たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ ふじのたかねに ゆきはふりける
田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける
(万葉集 巻第三 318番)
この歌は新古今和歌集にも採録されていますが、そちらでは表現が修正されています。百人一首もこちらのバージョンですね。
たごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ
(新古今和歌集 巻第六 675番)
原作者承認の上での指導添削といったことを別とすれば、現代の感覚では原歌の表現を他者が変更するなどありえない話ですが、勅撰集の時代にはそうした事例は珍しくないようです。