Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ライナー・キュッヒルのヴァイオリン・リサイタル

2019年11月07日 | 音楽
 ミューザ川崎アフタヌーンコンサートでライナー・キュッヒルのヴァイオリン・リサイタルを聴いた。休日午後の気楽なコンサートで、キュッヒルもその趣旨を理解しているらしく、リラックスした雰囲気の演奏会だった。

 1曲目はドヴォルザークの「ロマンティックな小品」。4曲からなる小品集で、わたしはその曲名を見てもピンとこなかったが、演奏が始まると、「あぁ、この曲か」と聴きおぼえのある曲だった。キュッヒルの演奏は、熱量が高く、張りのある音で、いつもの通りのキュッヒルだった。

 ピアノの加藤洋之(かとう・ひろし)にも惹かれた。明快で歯切れのいいリズムの持ち主で、ヴァイオリンと対等な関係を結んでいた。どんな経歴の人だろうとプロフィールを見ると、1990年ジュネーヴ国際音楽コンクール第3位入賞、その後ハンガリー国立リスト音楽院に留学、1996年からドイツのケルンでさらに研鑽を積んだ。キュッヒルとは1999年以来共演を重ね、2010年にはウィーンのムジークフェラインザールで3日間にわたるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を開いたそうだ。

 実力派のピアニストだが、その実力が十分に発揮されたのが、次のベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」だ。ヴァイオリンとピアノが拮抗し、時にはピアノがスケールの大きな演奏でヴァイオリンを凌駕する。その二人のせめぎ合いは、ピアノ主導型のヴァイオリン・ソナタと、ヴァイオリン主導型のそれとの、新旧2つの潮流がぶつかり合い、波しぶきをあげる情景を見るようで、しかも全体は堂々たる構築感を備えていた。

 プログラム後半は、肩の凝らない作品が並んだ。まずリヒャルト・シュトラウス(プルジーホダ編曲)の「ばらの騎士」のワルツ。キュッヒルの弾く「ばらの騎士」!と期待したが、意外に低調だった。次にクライスラーの小品4曲。定番の「愛の喜び」と「愛の悲しみ」は、「‥悲しみ」のほうが味があった。その他に「ジプシー奇想曲」と「ウィーン風狂詩的小幻想曲」。その2曲は、後述するアンコールの2曲とともに、精彩に富んだ演奏だった。最後はサラサーテの「カルメン幻想曲」。

 アンコールはクライスラーの「ジプシーの女」と「クープランの様式による才たけた貴婦人」。どちらも初めて聴く曲だが、おもしろい曲だった。前述の「ジプシー奇想曲」と「ウィーン風‥」ともども、クライスラーには埋もれた曲が多く、それを発掘する楽しみが残っていることを思い知った。なお、これらのクライスラーの曲の演奏では、キュッヒルと加藤の息がぴったり合っていたことも特筆ものだ。
(2019.11.4.ミューザ川崎)
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