Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーターへのオマージュ

2014年10月07日 | 音楽
 一昨年エリオット・カーター(1908‐2012)が亡くなった。享年103歳。生涯現役だった。亡くなる直前にピアノ奏者のピエール=ロラン・エマールのために曲を書いた(正確にいうと、断片として残された部分があり、補筆しているそうだ)。ピアノ三重奏曲「12のエピグラム」だ。103歳の人が書いた曲とはどういう曲か。興味津々で出かけた。

 演奏はピアノがピエール=ロラン・エマール。ヴァイオリンがディエゴ・トジ。アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーだそうだ(そういえば、エマールも若い頃はメンバーだった)。チェロがヴァレリー・エマール。ピアノのエマールの妹だ。そういえば似ている。微笑ましかった。

 1曲目は「チェロとピアノのためのソナタ」(1948)。カーター初期の作品だ。いかにも壮年期の作品という感じがする。時代もそうだったかもしれない。アメリカが一番自信に満ちていた時代だ。4楽章から成るが、第3楽章アダージョがひじょうにロマンティックに聴こえた。甘いという意味ではなく、情熱を内に秘めているという意味で。

 次にピアノの小品が3曲演奏された。「再会」(2000)、「90+」(1994)そして「カテネール」(2006)。

 なかでは「カテネール」が圧倒的に面白かった。沼野雄司氏のプログラム・ノーツを引用すると、「後期カーター特有の無窮動的な音の群れが、5分弱の間徹底的に持続する」曲。下世話な話だが、「譜めくりが大変だろうな」と思った。一瞬でも目をそらすと、どこをやっているか、わからなくなる。ハラハラして見ていたら、演奏終了後、エマールがそっと譜めくりの人と握手した。思わず笑ってしまった。

 休憩後は「ヴァイオリンとピアノのためのデュオ」(1974)。この日の演奏曲目の中では、これがもっとも抽象的な音でできていた。どこをどうつかんだらいいのか、手探り状態のまま終わった。

 最後が前述した「12のエピグラム」。題名どおり、短い音楽が12曲続く。もっとも、エピグラム(警句)という題名から想像しがちなシニカルな面はなく、硬い結晶のような、透き通った音楽だ。ありがたいことに、アンコールとして、もう一度演奏してくれた。二度目にはよくわかった。これはほんとうに洗練された音楽だ。そう思ったら、感動した。

 温かい拍手が続いた。エマールが譜面を高く掲げて拍手に応えた。
(2014.10.6.紀尾井ホール)

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