Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パヤーレ/N響

2020年02月02日 | 音楽
 ラファエル・パヤーレRafael Payare(1980‐)という指揮者がN響定期へ初登場した。パヤーレはベネズエラの「エル・システマ」出身。わたしは初めて聴くが、N響とはすでにN響「夏」や地方公演で共演歴がある。N響としてはいわばテスト済みだろう。プログラムはオール・ショスタコーヴィチ・プロ。後述するが、その選曲は一捻りしたもので、こういう選曲をする指揮者はどんな人だろうと興味を抱かせた。

 1曲目は「バレエ組曲第1番」(アトヴミャーン編)。全6曲からなるが、どれも「明るい小川」からとられたもの。「明るい小川」は例のプラウダ批判でやり玉に挙げられたバレエだ。だが、少なくとも音楽だけ聴いていると、この音楽のどこが当局の逆鱗に触れたのか、さっぱりわからない。音楽以外の要因が働いたわけだが、そんな当局の措置に対する抵抗がこの組曲を生んだのだろう。

 演奏は、いかにもバレエ、といった軽いリズムと躍動感をもったものだった。パヤーレという指揮者はバレエにも適性をもっているのかもしれないと思った。

 2曲目はチェロ協奏曲第2番。最後に打楽器アンサンブルのチャカチャカというリズムが出てくる曲だ。プラウダ批判に遭って初演を取りやめた交響曲第4番に出てくるリズム。それがこのチェロ協奏曲第2番で復活し、さらに交響曲第15番でもう一度出てくる。いわば「印」を押された3作品の一つだ。

 チェロ独奏はアリサ・ワイラースタイン。人気と実力を兼ね備えた演奏家だが、パヤーレとは夫婦でもあるそうだ。それはともかくとして、以前にN響とエルガーのチェロ協奏曲を演奏したときにも感じたが、滑らかで丸く(角のとれた)よく歌う演奏をする人だ。その印象は今回も変わらず、むしろ前回の印象を確認する思いがした。

 アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第4番から第4曲「サラバンド」が弾かれた。ショスタコーヴィチの余韻が演奏者にあったのか、それともそれを聴くわたしの方にあったのか、ともかくその「サラバンド」は苦悩を秘めた曲のように聴こえた。

 3曲目は交響曲第5番。プラウダ批判からの名誉回復を図って書かれた曲だ。演奏はシャープで、バランスがよく、どんな場合でも音が混濁しない、その意味では見事なもので、指揮者の確かな技術とオーケストラの優秀さとを実感させた。だが、ソ連という文脈は感じられなかった。たとえばラザレフが(日本フィルで)この曲を振ると、そこにはソ連という社会とショスタコーヴィチの生涯が色濃く反映されるが、パヤーレが振ると、そのような文脈からは切り離された音楽に聴こえた。
(2020.2.1.NHKホール)

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