Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

佐藤俊介/東響

2023年03月20日 | 音楽
 東京シティ・フィルの定期演奏会が終わった後に、東京交響楽団の定期演奏会に行った。掛け持ちは苦手だが、どちらも振替ができなかったので、仕方がない。東京交響楽団の指揮者は佐藤俊介。古楽系のヴァイオリニスト・指揮者だ。プロフィールによると、いまはコンチェルト・ケルンのコンサートマスターとオランダ・バッハ協会の音楽監督・コンサートマスターを務めているそうだ。またアムステルダム音楽院古楽科教授でもある。どんどん進化するヨーロッパの古楽演奏の最前線に立つ人だ。

 1曲目はシュポア(1784‐1859)のヴァイオリン協奏曲第8番「劇唱の形式で」。もちろん佐藤俊介の弾き振りだ。強いアクセントでグイグイ弾く。それは古楽奏法から当然予想されることだが、加えて美音が印象的だ。約20分の演奏時間中、独奏ヴァイオリンがオペラのプリマドンナのように出ずっぱりの曲だが、その長大な「劇唱」をまったく弛緩せずに聴かせた。

 オーケストラの配置がユニークだ。指揮者(=独奏ヴァイオリン)の左右に第1ヴァイオリン(10名)と第2ヴァイオリン(10名)が配置され、その中間(指揮者=独奏ヴァイオリンの正面)にヴィオラ(8名)、ヴィオラの奥にチェロ(6名)、さらに第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの奥にコントラバス(各3名=計6名)が配置される。この配置だと、たとえば1階席前方の中央の席では、音の聴こえ方がそうとう違うだろう(わたしの席は2階席正面の後方だったが、それでもディヴィジの視覚的な効果はあった)。

 2曲目はベートーヴェンの交響曲第1番。驚いたことに、佐藤俊介はこの曲でもヴァイオリンを弾きながら指揮をした。猛烈な勢いでヴァイオリンを弾き、オーケストラを鼓舞するように、前傾姿勢で挑む。オーケストラもそれに応える。かくてそこにはオーケストラという集団ではなく、楽員一人ひとりの生気あふれるドラマが展開する。強弱のメリハリが大きく、細かなクレッシェンドが炸裂する。

 3曲目はメンデルスゾーンの弦楽のための交響曲第8番(管弦楽版)。佐藤俊介はこの曲ではヴァイオリンを持たずに、指揮に専念した(ただし指揮棒なしで)。冒頭ではベートーヴェンの前曲とはまったく異なり、クリアーで引き締まった音が鳴った。耳が洗われるようだった。以後、躍動感のある演奏が続いた。メンデルスゾーンが14歳のときの作品だが、習作の域をこえている。黙って聴かせられたら、ハイドンと思うだろう(もっとも、第4楽章ではフーガになるので、そこで、あれ?と思うかもしれない)。

 終演後、3月末に退団するコンサートマスターの水谷晃とホルン首席の大野雄太が聴衆と別れを惜しんだ。東京シティ・フィルでもフルート首席の竹山愛が楽員と別れを惜しんだ。3月は人事の季節だ。
(2023.3.18.サントリーホール)

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