Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2011年11月14日 | 音楽
 日本フィルの首席指揮者ラザレフがラフマニノフ・チクルスをスタートさせた。これは今後2年間で交響作品を全曲と主要なピアノと管弦楽のための作品を演奏するもの。11月定期はその第1回だった。

 1曲目はショパンのピアノ協奏曲第1番。この曲ではオーケストラができることは限られているので、興味の対象はピアノになる。ピアノ独奏は岡田博美。冷静で、過度に甘くないピアノだった。注目したのは第2楽章の水際立った音の美しさ。山野雄大氏のプログラム・ノートによれば、ショパンは友人にあてた手紙のなかで「新しい協奏曲のアダージョは、憂いを帯びて静かにロマンティックなものだ。春の美しい月夜のような……」と書いているそうだ。まさに月の雫のような、と形容したくなる音だった。

 2曲目はラフマニノフの交響曲第1番。これは、あらゆる形容は措くとして、ラザレフが全力を尽くした演奏だった。ラザレフというすぐれた指揮者が、もっとも得意とする音楽を、手加減せずに本気で演奏したもの。これは感動的だった。日本フィルもそれを幸せと思わなければならない。オーケストラを甘やかす指揮者は、オーケストラをダメにするからだ。

 定期に先立って11月9日に記者会見が開かれた。ホームページに載った記事によると(ラザレフが語る!本日スタートの新プロジェクト〔新着情報〕)、過去3年にわたるプロコフィエフ・プロジェクトではオーケストラのパワーと音色を磨いた、次のラフマニノフ・プロジェクトでは感情表現を究める、という趣旨のようだ。これは嬉しい方向性だ。自らを解き放った熱い感情の表現は、意外に日本フィルが苦手とするところだ。お祭り騒ぎ的な盛り上がりは得意だが。

 交響曲第1番はまさにその方向性の演奏だった。あれはたしか第2楽章の中間部だったと思うが、ラザレフは指揮台から降りて、チェロと第2ヴァイオリンの前に立ち「もっと感情を込めて!エスプレッシーヴォで!」という指揮をした。熱くなっても、ここまでする指揮者は珍しい。チェロと第2ヴァイオリンもそれに応えた。

 もっとも、終演後、オーケストラには達成感というか、晴れやかな表情は見られず、疲れ切った表情が広がった気がする。そう感じたのがわたしだけならよいが。

 拍手が続くなか、ラザレフはオーケストラに引き揚げようと促したが、コンサートマスターは頑として応じなかった。
(2011.11.12.サントリーホール)

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