Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

茂木健一郎「音楽の捧げもの」

2009年05月25日 | 音楽
 茂木健一郎さんのドイツ紀行「音楽の捧げもの~ルターからバッハへ~」(PHP新書)を読んだ。この本は今年のラ・フォル・ジュルネのオフィシャル・ブックになっていて、会場でも販売されていたので、お読みになったかたも多いのではないかと思う。

 これは今年1月の厳寒のドイツの旅行記。初日はミュンヘンを経由してライプツィヒに入り、そのまま車でワイマールへ。2日目はバッハ生誕の地アイゼナッハを訪問(ワイマール泊)、3日目は青年バッハの最初の活動の地アルンシュタットなどを訪問(ワイマール泊)、4日目はバッハ終焉の地ライプツィヒを訪問(ライプツィヒ泊)という旅程だ。

 茂木さんは、バッハの生涯を主軸にして、アイゼナッハではマルティン・ルターの事跡をたどり、ワイマールではゲーテを、ライプツィヒではワーグナーを――という具合に、バッハともども、広くドイツ文化の本質に思いをめぐらせる。深い思索もあるが、その基調には旅の自由さがあり、日常から解放された楽しい気分が、私たちを茂木さんとともに旅をしている気分にしてくれる。

 この本の中心的な部分は、旅を通して、ルターからバッハへの「魂のリレー」に気がついたという点。その部分を引用してみよう。3日目、アルンシュタットのバッハ教会でオルガン演奏をききながら、茂木さんは思いをめぐらす。

>>人類の精神史の中に吹いた清新なる風のようなルター派の信仰。そのような時代の「後押し」があったからこそ、ヨハン・セバスチャン・バッハは、音楽を通して「神の栄光」に向き合うという精神運動に真剣に取り組むことができた。
>>バッハの求道者的な勤勉は、歴史的な「一回性」の下でこそ成り立った。(128頁)

 ビールを飲んだり、買い物をしたり、市内見物をしたりという旅の折々に、このような思索が入ってくる。そして4日目、ワイマールからライプツィヒに向かう鉄道の中で、もう一度この思索に立ち戻る。

>>バッハの音楽は、ルターによる宗教改革なしでは成立しなかった。ルターからバッハへと、「魂のリレー」があった。
>>音楽は、音楽に留まらない。すべてはつながっている。
>>私たちは、自然の中の生態系の豊かさを賞賛することを学んだ。教養の力も、同じこと。脳の中に、豊かな生態系ができる。(156頁)

 茂木さんの言葉は、哲学的というよりも、感性にみちた言葉、別のいい方をするなら、読み手の自由な思索をさそう触媒のようなもの――主人公は、筆者ではなくて、読者――そういう性格の言葉だと思った。

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