Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

華々しき一族

2013年12月24日 | 演劇
 新国立劇場演劇研修所の公演「華々しき一族」。森本薫(1912‐1946)の23歳のときの作品。1935年(昭和10年)発表。森本薫は当時まだ京都大学の学生だった。

 この作品は今でも時々上演されているようだが、わたしは知らなかった。そもそも森本薫という名前も初耳だった。図書館で検索してみたら、この作品が所蔵されていたので、借りてみた。

 1935年というと、軍国主義が台頭し、社会は緊迫していたはずだ。翌年2月には2.26事件が起きるので、その前夜にあたる。ドイツでナチ党が権力を掌握したのが2年前の1933年なので、ヨーロッパも緊迫していた。そんな時期に京都大学の学生が書いた戯曲だから、当然ある一定の予想をもって読み始めた。

 けれども予想は外れた。そういった社会情勢はまったく反映されていなかった。上流家庭とはいわないまでも、それなりに裕福な家庭での、恋愛ゲームのような話だった。表面で起きている出来事の背景に、当時の社会情勢を見ようとしたが、無駄だった。あっけらかんとした話だった。

 なんだか拍子抜けしたような気持ちになった。そういう気持ちのまま公演を観にいった。そうしたら、面白かったのだ。明るくスマートな、現代に通じるエンタテインメントだった。上質な手触りが心地よかった。幸福な気分になった。年末にこういう芝居を観るのもいいものだと思った。

 なにがよかったのだろう、と振り返って考えてみると、演劇研修所の皆さんの公演だったからではないかと思った。皆さん大体20代半ばから後半の同世代。その若者たちが集まって作り上げた公演なので、若さのもつ体温の高さがあったのではないだろうか。それがこのように幸福な気分にさせてくれた源泉ではないだろうか。

 わたしが観たのはA組のほうだが、皆さんそれぞれ役にピッタリのキャスティングだった。この役にはこの人でなければいけないと思えてきた。将来のことは別にして、今現在の皆さんのありのままを楽しむことができた。

 一人だけ名前をあげておくと、デシルバ安奈さん。この人には華があった。おっとりした、コミカルなお色気があった。その若々しい色気がこの公演の印象を決めたと思う。

 なお、森本薫はその後、戦中も戯曲を書き続けた。このような戯曲を書いた人が、戦争の只中にあって、どういう戯曲を書いたのだろう――。
(2013.12.21.新国立劇場小劇場)

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