Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健/東京シティ・フィル「トスカ」

2023年12月01日 | 音楽
 高関健指揮東京シティ・フィルの「トスカ」の演奏会形式上演。歌手の面でもオーケストラの面でも「トスカ」の音楽を堪能できた。

 歌手でもっとも感銘を受けたのは、カヴァラドッシをうたった小原啓楼だ。第1幕の余裕をもったカヴァラドッシから、第2幕の拷問に苦しむカヴァラドッシ、拷問の途中でナポレオン軍の勝利の報が届き、歓喜の叫びをあげるカヴァラドッシ、そして第3幕の処刑を前にした絶望のカヴァラドッシまで、表現の幅が広い。わたしは以前、松村禎三のオペラ「沈黙」で小原啓楼のロドリゴを聴き、たいへん感銘を受けたのだが、それ以来の感銘を受けた。

 トスカをうたったのは木下美穂子。安定した歌唱で安心して聴けた。「歌に生き、恋に生き」もたっぷり聴けた。スカルピアは上江隼人。過不足ない歌唱だ。アンジェロティは妻屋秀和。第1幕を引き締めた。本公演の順調な滑り出しは妻屋秀和のおかげだ。もう大ベテランだが、声は健在だ。堂守をうたった晴雅彦は、コミカルな演技が堂に入っていた。この役を得意にしているのだろうか。

 オーケストラは表現力が豊かだった。張りのある音から繊細な音まで縦横無尽にドラマを語った。ドラマの進展にともない音に陰りが出る箇所もハッとさせた。細かいところで「こんな音が鳴っていたのか」という発見は多々あった。一例をあげると、第3幕でカヴァラドッシが「星は光りぬ」をうたい始める前のチェロのソリがしみじみ聴けた。舞台上演で何度も聴いている箇所なのに、今回注目したのはなぜだろう。演技がなかったからか。

 合唱は東京シティ・フィル・コーアと江東少年少女合唱団。第1幕の「テ・デウム」はなかなか壮麗だった。大人数で押し切る合唱ではなく、きちんとうたえる人で編成されているように思えた。

 全体的に歌手もオーケストラも合唱もモラルが高かった。ホールがよく鳴っていたことも印象的だ。終演は9時50分。遅くなったにもかかわらず、カーテンコールが続いた。

 高関健がプレトークで語っていたが、高関健がカラヤンのアシスタントを務めていたときに、カラヤンの「トスカ」のレコーディングがあったそうだ。トスカをカーチャ・リチャレッリがうたい、カヴァラドッシをホセ・カレーラスが、スカルピアをルッジェーロ・ライモンディがうたった1979年盤だ。そのとき第2幕のフルート、ヴィオラ、ハープの舞台裏でのバンダの指揮が必要になり、カラヤンが高関健を見て「だれか振れ」といったそうだ。そこで高関健が振った。それが1979年盤になっている。わたしは一時1979年盤を愛聴していた。第2幕のバンダを高関健が振っているとは知らなかった。
(2023.11.30.東京オペラシティ)

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