Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

下野竜也/都響

2018年05月23日 | 音楽
 下野竜也が指揮した都響のB定期。なんといっても、2曲目のコリリアーノ「ミスター・タンブリンマン―ボブ・ディランの7つの詩」が注目されたが、まずは1曲目、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」から。

 下野竜也らしい、ぐいぐい押すような、剛直な演奏。ゆったりした、絵画的で抒情的な演奏ではない。それはそれでよいのだが、音がガサガサして、荒っぽいのが気になった。どこか余裕のない鳴り方をしていた。熱演というのかもしれないが、それだけでは済まない課題があった。

 2曲目はコリリアーノの上掲曲。シンガーソングライターのボブ・ディランを詩人として捉え、コリリアーノが自由に音楽を付けたもの。ピアノ版は2000年に作られ、オーケストラ版が2003年に作られた。ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞するよりもずっと前の作品。

 コリリアーノは1938年生まれ、ボブ・ディランは1941年生まれだから、同時代人といってよいのだが、コリリアーノは「だが私は自分のオーケストラの書法を磨くことに懸命で、世界中がディランの歌を聞いていたころ、私は彼の曲をまったく聞いたことがなかった。」(コリリアーノ執筆、飯田有抄訳のプログラムノートより)。本作の作曲に当たっても、完成まではディランの原曲を聴かなかったそうだ。

 なるほど、たとえば第3曲「風に吹かれて」は荘重なパッサカリアで書かれていて、ディランの原曲からは想像もつかない音楽になっている。第1曲の「ミスター・タンブリンマン」は賑やかな(でも、どこかデスパレートな)行進の音楽。

 だが、本作は、ディランの原曲との違いを楽しむ作品ではなく、コリリアーノがディランの詩から触発された音楽的なイマジネーションを楽しむ作品だろう。

 第1曲「ミスター・タンブリンマン」はプレリュード、第7曲「いつまでも若く」はポストリュードとされ、第2曲から第6曲までには緩やかなストーリー(というか、流れ)がある。第6曲までの表出力の強い音楽と、色彩豊かなオーケストレーションにたいして、第7曲になると、一転して、音楽はシンプルになり、オーケストレーションは最小限に止まる。そこがうまい。

 下野竜也指揮都響の演奏は水際立ったもの。見事の一語に尽きる。ヒラ・プリットマンの歌は、クラシックともポップスともつかない不分明の領域を拓くものだった。
(2018.5.22.サントリーホール)

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