Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

小菅優

2019年08月03日 | 音楽
 小菅優の第48回サントリー音楽賞受賞記念コンサートへ。1曲目はモーツァルトのピアノとヴァイオリンのためのソナタ ト長調K.379。ヴァイオリンは樫本大進。2楽章構成の曲だが、序奏が長大なので、実質的には3楽章構成のように聴こえる曲。その中間部(第1楽章の主部)はト短調のパセティックな音楽なので、ベートーヴェンの音楽に近づいている。

 小菅優と樫本大進の演奏は、正確で、曲の隅々まで彫琢し、恣意的な部分が皆無だ。一言でいって、この曲の真の姿が現れたようだった。ヴァイオリンの音が細く感じられたが、それはいつものことかもしれないと思った(樫本大進については、最後のブラームスのときにもう一度触れたい)。

 2曲目は藤倉大の『WHIM』(世界初演)。この曲は「ピアニスト小菅優さんに書いたピアノ協奏曲第3番「インパルス」のカデンツァパートが独立した作品」(作曲者のプログラム・ノートより)。ピアノ協奏曲第3番「インパルス」は本年1月に読響の定期で聴いたばかりだが(小菅優のピアノ独奏、山田和樹の指揮)、そのときは絶えず動き回るピアノの超絶技巧に舌を巻いたことを覚えているが、今回そのカデンツァパートを聴いても、記憶が蘇らなかった。曲としては、美しい響きと濃やかな陰影が印象的だ。

 3曲目はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第21番「ヴァルトシュタイン」。これは当夜の白眉だった。胸がすくような運動性、滑らかな起伏、そしてなんといってもベートーヴェンの精神の純粋性が表れた演奏だ。とくに第3楽章のテーマに崇高な美しさがあった。高音の響かせ方がうまいのだと思うが、ベートーヴェンの純な魂が輝いているように感じられた。

 休憩後、4曲目はブラームスのピアノ三重奏曲第1番。ヴァイオリンは樫本大進、チェロはクラウディオ・ボルケス。これは基本的には1曲目のモーツァルトと同様、恣意的に流れず、正確で、よく彫琢された演奏だが、そこに若き日のブラームスの甘美な感傷が湧き起らないのが物足りなかった。

 なぜだろうと考えているうちに、樫本大進がやせたように見えることに気が付いた。やせただけではなく、顔色も悪そうだ。減量中ならよいのだが、全体的に覇気がないように感じられることが気になった。

 アンコールにモーツァルトのピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330の第1楽章が演奏された。音の運動性と滑らかな音楽の運びが見事で、できればわたしの好きな第2楽章も聴いてみたくなった。
(2019.8.2.サントリーホール)
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